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01

この世界には、『魔王』がいる。

未だかつて誰も魔王を倒したことがなく、人間と魔物のこの世界の争奪戦は、何百年も続いている。

『魔王』を討伐するべく、人類は勇者と呼ばれる卓越者をかき集め討伐に向かわせる。

だが、いまだ『魔王』を討伐した報告はない。


なぜ、『魔王』は現れたのか。

『魔王』とは、いったい何なのか。



この広い大きな世界。

その世界にある東の小さな町、ミリウル。

そこに、一人の少年がいた。

名前をクリュウという。

「今日もいい天気」

少年の髪は、金色であり太陽の光で、その輝きを一層に増している。まだ幾ばくもない少年は、汗をかきながら、必死にくわを地面に叩きつけて。畑を耕す。

少年の周囲には、緑が広がり田園風景が広がっている。涼やかな風にその綺麗な髪をたなびかぜ、少年は自分よりも大きい鍬を何度も何度も地面に下ろす。

そこに、一人の若い女性が現れる。

少年とは違い、黒眼の細かい手入れがされているであろう長い黒髪をしている女性。

必死に鍬を下ろしているクリュウは、彼女の存在に全く気づいていない。

そのことに気づいた女性は、ふっと笑みを浮かべると鍬を地面に下ろした隙に、後ろから手で目隠しをする。

「えっ、えっ! だ、誰!?」

「ふふ~、だ~れだ」

むにゅとクリュウの頭を何かが、優しく包み込んでくる。その柔らかいものが、何であるか分かるとクリュウは顔をまるで太陽の真っ赤に染める。

「あれあれ? クリュウ君、顔赤いよ~? どうしたの?」

「や、やめてください! マオさん、僕のことからかってますよね!」

「え~? からかってないよ? クリュウ君のこと、可愛がってるんだよ?」

「同じですよ! 全く!」

マオを振り払い、顔を赤くしたまま。彼女を無視するように、マオの方を全く見ない。

「あれあれ? 怒っちゃった、クリュウ君」

「怒りました、激怒です。大激怒です」

ふんふんと鼻息を荒くして、クリュウは。自分は、かなり怒っているんだぞとアピールするが。

マオには、それは逆効果だった。

「もう、クリュウ君は本当に可愛い~!」

抱きつき、頭をなで回す。

クリュウは、必死に抵抗しようにもマオの力強い抱き締めから逃れることができずに、為されるがままだ。

「マオさん! や、やめて」

「またまたそんなこと言って、本当は嬉しいの分かってるんだぞ~!」

二人がじゃれあっている様は、まるで本当の姉弟きょうだいのようだ。

「おやおや、今日も二人は仲がいいな」

「そうね。あの二人を見ると、微笑ましいわね」

近くで、農作業をしていた村人は二人を温かい目でみている。

他の村人の方を、クリュウをぬいぐるみのように抱き締めたまま向く。

「もう、クリュウ君を弟として貰いたいくらいですよ。ねっ、クリュウ君。お姉ちゃんほしいよね?」

「ぼ、僕にはもうお姉ちゃんいますよ?」

ガーンという音がどこかから聴こえてくる程、見事な落ち込みをマオは見せていた。

「う、嘘だよね……?」

「本当です」

Orz、彼女はこのポーズのまま動かなくなる。

「いや、待って! お姉ちゃんがだめなら義妹に! そのクリュウ君のお姉ちゃんの義妹になる!」

「義妹?」

「クリュウ君、結婚しよ! そうすれば、クリュウ君のお嫁さんにもなれて、ある意味妹になれる! 善は急げって言うし。結婚しよ!」

はぁはぁと息を荒くしながら、じりじりと近寄ってくる。

「こ、怖いよ……マオさん……」

顔を青くし、距離を徐々に離すように離れる。

「大丈夫、怖いことしないから!」

まるで肉食獣のように飛びかかってくる。

「うわぁっ!」

「まてぇ~!」

二人は、駆けていく。

まるで、本当の姉弟のように。



それは、いつもの朝だった。

だが、いつもと違い小鳥のさえずりが聞こえない。それよりも外が騒がしいように感じたクリュウは、パジャマのまま外に出る。

すると、そこはまるで地獄だった。

「おいおい本当に人間ってのは、弱い生き物だな。ちょうどいい肩慣らしになったけどよ」

そこに居たのは、ケンタウロス。

上半身が、人であり。下半身は、馬の魔物。

その手に持っているのは、大きな鋭いランスであり

そのランスには見知った人物が、突き刺さっている。

「おばさん……」

それは、あの時。

クリュウとマオのじゃれあいを見守ってくれていた村人の一人の方だった。

ランスに、心臓を一突きにされ。まるで、吊られた人形のようにピクリとも動かない。

視界を下に向けると、地面には見るも無惨な死体が継ぎはぎだらけの死体が散らばっている。

「あっ、ああ……」

「ん? まだ居たのか……。そうだ、お前らこの距離から槍を投げて、誰が仕留めるかゲームしようぜ」

「いいねー」

「勝つのは、俺だぜ!」

どうやら、ケンタウロスの数は、三体。

彼は、震える体を無理やり動かし。

死体から、横に長い剣を拾う。

「おっ、俺らとやる気らしいぜ!」

「ははっ、止めとけ。止めとけ」

三体は、大きく笑う。

自分達の勝利を全くもって、疑わないようだ。だが、コイツらは知らない。この町には、本当の化け物がいることを。

「うおぉぉぉ!」

「フンッ!」

槍が、彼を狙って投擲される。

その槍を彼は、剣を振るい叩き落とす。

「なっ! う、嘘だろ!」

「お前、下手くそだなぁ」

それに続いて、別のケンタウロスが投擲する。

だが、今回は投擲されるスピードが上がり。彼の剣を振るうスピードが槍に間に合わない。

彼の心臓を狙って、突き刺さる前に。

ガシッ

その槍を彼女は、止めた。

「ごめんね……クリュウ君。皆を守れなかった」

「マオさん! 生きてたんですか!?」

彼は、それが幻影でないかを確認するように抱き締める。抱き締められたマオは、よしよしと頭を撫でた。

「クリュウ君……。騙しててごめんね……」

「えっ?」

彼を引き剥がし、ケンタウロス達に向きを変える。

「お前ら、この町を襲ったのは種族長の指示か?」

マオは、ドスの利いた声で睨みつける。

「セザルは、関係ねぇよ。こんなの只の遊びだろ? あぁ、あれだ。魔王様の意思ってやつ」

「魔王様の意思だからな、俺らじゃ逆らえないわ」

「そうそう、無理無理」

三体は、向き合って爆笑する。実際、魔物が町を襲うのは、魔王の指示というのが通例となっている。彼らがそうだと言い張ってしまえば、人間には確かめようがない。

人間にはだが。

「貴様らに、指示した記憶はないが? それとセザルの小僧は、自分の種族を完璧にまとめられないのか。まぁ、私が言えた義理じゃないが」

テクテクとゆっくり近づくと、その姿が一瞬にして消える。

「なっ、女はどこにっ!」

マオは、飛びかかり一発横に蹴りを入れる。

その蹴りは、まるで刀のように鋭く。斧のように、力強く引き裂く一撃だった。

彼らは、右に居たはずのケンタウロスの上半身が切り取られ。横に吹き飛ぶと、その胴体がまた胴体を引き裂き。

そして、そこに残ったのは馬の下半身だけだった。「マオさん……?」

返り血で、髪は真っ赤に染まり。そこに居たのは、まるで悪魔だった。

「ごめんね……クリュウ君」

瞳に涙を浮かべて、ある真実を告白する。

「私がね……魔王なの」

「えっ……魔王?」

「そう、魔王。悪の首領、この世すべての悪を背負った悪そのもの。それが私」

「そ、そんな……。じゃあ、マオさんがこんな」

「それは違うっ! これは……。ううん、やっぱり私のせい。クリュウ君、私の話を聞いてくれる?」

彼は、小さくコクリと頷く。

「私ね、魔王なんて言っているけど。名前ばかりなの。そもそも魔王の称号は、世襲制で。前回は、私の父が仕切っていたんだけど……。どうやら、私は認められなかったみたい」

「な、なんで……? だって、魔王って強いんでしょ?」

「私が、やっぱり女だからかな。クリュウ君には、分からないかもしれないけど。大人の男の人ってね、女の人に上に立たれるといい顔しないの」

まだ年端もいかない少年は、何故なのかまだ分からない。だが少年は、一生懸命話を聞くためにコクリ、コクリと頷く。

「だから、私ね。外に出たの。魔王として、みんなを統制できるようにね。そして、君と出会った」

「僕と?」

「君みたいな清廉な子を見て、私は思ったの。この世界を平和にしたいって。幸せにしたいって。可笑しいね」

私、魔王なのにねと彼女はそう告げた。

クリュウは、純粋な気持ちでそれに返答する。

「魔王だからって、世界を平和に。幸せにしたいって思うのは、僕は間違いじゃないと思うの」

彼は、そっと近づき手を掴む。

「確かに今回のことは、マオさんが人から見たら絶対に悪いの。でもね、人に忌み嫌われても。その先に、その思いがあるなら……僕は許したい」

その言葉を聞いて、彼の優しさに触れて。魔王は、涙をボロボロとこぼす。世界で彼だけにしか見せない魔王になりきれない良心からの涙だった。




「本当にいいの?」

「うん、みんなの弔いはしたし。僕は、マオさんと世界を平和にしたい。だから、マオさんと旅するよ」

「ありがと、クリュウ君は本当にいい子。でも、お姉ちゃんはいいの?」

「いいの、いいの。お姉ちゃんも世界を幸せにするために、世界を回っているみたいだし」

だから、旅をしていたらきっと会うよと彼は告げる。何の根拠もないのに、彼はそう信じていた。

「そっか……。じゃあ、行こっか」

「うん!」

クリュウは、手を引かれ。旅を始める。

魔王と農民の少年、彼女らの存在は果たして世界にどのような変化をもたらすのだろうか。


砂の街、ロックオンザクライム。

その街で、ある旅団に一つの報せが届く。

ローブを着ていた一人の人物のフードが風が、吹き荒れて被りが取れてしまう。

彼女は、少年と同じ砂塵のなかでも映える金色の髪をしていた。

「おい、ミルト。この町って……」

「あぁ……。私の産まれ育った町だ」

書かれていた紙を切り裂き、風がそれをどこかへ運んでいく。

「クリュウが死んだなんて……」

「そう落ち込むな、ミルト」

ドンと彼女は、抱き寄せた男をはね飛ばす。

「カイ、お前に分かるまい。 私にとって、あの子がどれだけ大切なのか! どれだけあの子が私を支えてくれたか! お前に分かるまいっ!」

「お、落ち着け。悪かったって、それにその弟が助かっている可能性もあるぜ?」

先程の記事には、魔物の無惨な死体が散らばっていたと記述されていたことを男は語る。

「つまり、ミルトさん。弟さんは、生きてますよ。大丈夫です。きっと助けてくれた人と旅に出たんですよ。いつか、きっと会えます」

顔は、分からないが声から察するに男と思われるものがそう告げた。

「そ、そうだな。その助けてくれた人というのが……悪いやつじゃなければいいが」

ミルトは、遥か遠くの場所にいる弟の安否をあんじていた。


だがまさか、弟がこの世全ての悪である魔王と一緒だとはこの時は思わなかった。


まさか彼女達、勇者の敵である魔王と一緒だとは。



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