恥ずかしがり屋と転校生
物好きさんいらっしゃい!ゆっくりしていってね!!
「じゃあまずは特別教室からだな。何かわからないことがあったらすぐに聞いてくれ。」
「…ない。」
…なにが?
「何がないんだ?」
率直に聞くと小さな口から小さな声が漏れ出た。
「この学校のことでわからないことは…無いです。」
…何…だと?
「学食の一番人気は?」
「カレーラーメンパン。昼休み開始直後に行かないと売り切れる。」
なぜその情報を…。
「じゃあこの学校で俺のお気に入りの場所はどこだ?」
これはわからないだろう。
「放課後に行く割合が高いのは屋上で32,6%ですね。その中でもクラスメイトの東雲和歌と談笑することが多いようです。」
「…」
何で初対面の少女にここまで把握されているのだろうか。
「二人はお付き合いされているのですか?」
思わぬ不意打ちならぬ不意討ちを食らった俺の顔はものの見事に大爆発した。
「なっ、何を…。」
「図星ですか…なぜ私がこんな…。」
「べっ別にあいつとは何もねーよ!」
俺の必死の弁解も虚しく「そうですか。」の一言で一蹴された。
「案内など必要ない、とわかって貰えたでしょうか。」
異常なまでに整った無表情で問いかけてくる優希。だがまだ終わってなどいない!
「じゃあこれで最後だ。おっ、俺の好きな人は誰だ?」
噛んだ。恥ずかしい…。
「大河さん情報では先ほどの和歌さんかと。」
アイツコロス
「残念だが違うな。これで俺の勝ちだ。」
「…こういうときは答えを教えるのが筋かと。」
そこで俺は逃げ出す準備をしながら答える。
「今から大河を殺しに行くから駄目だ。この学校のことは大体わかってるみたいだから案内はいらないだろ。」
大河は恐らく体育館裏でうだうだしているはずだ。原因不明の心臓の動悸を抱えながら優希とは反対側へ歩き出した。のだが思わず振り返って一言。
「歓迎するぜ、橘優希。これからよろしくな。」
優希の驚いた顔を目の端に留めながら、今度はまっすぐに校舎裏へと急いだ。
途中でニヤニヤしてくれた方、最後まで読んでくれた方、ありがとうございました!楔先生の次回作にご期待ください!(嘘