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女装男の告白とここが好き。

 坂井に至近距離で色々教えてもらってると、部室に池尻、長島、岡崎が続々と入ってきた。池尻は琴子をみつけるとすぐ声をかけた。


「琴ちゃんちわ! って、坂井近くねぇ?」

「普通です」


 心なしか坂井は冷たく言い放つと自分の作業に戻った。


「あ? 何か態度おかしくね? ちょっと長島俺と坂井の席替えてよ!」

「パソコン移動するのメンドイから無理。はぁ~死にたい」

「この死にたがりのめんどくさがり屋が! いいよわかったよ。よしお前らみんなに言っておく」


 みんな席に着き池尻のことは流していたのだが、池尻は大きく息を

吸った。


「俺、琴ちゃんのこと好きだから」


 カタカタと響いていたキーボ音がピタリと止まり、みんなが池尻を見つめた。


「え?」


 琴子が思わず声を出すと、池尻が琴子の元へ行き手を握った。


「俺、女の子と付き合うまではいくんだけど、趣味のこというとやっぱりドン引きされちゃって。でも琴ちゃんは何も言わず受け入れてくれた

じゃん?」


 受け入れた、のか?私は?と琴子は自問自答した。


「しかも、琴ちゃん自身も同じ格好好きだし、これはもう運命だと

思うんだ!」

「いや、そういわれても」

「好き! だからみんな琴ちゃんに手だしたら」


 坂井の頭にペットボトルが飛んできた。


「フォゴッ?!」

「やめろ池尻。女装云々よりそんなだからフラれるんだろお前は」


 長島が死んだ目で注意した。


「はいはい席戻って作業してくださいねー」


 坂井が琴子の手を握っていた池尻の手を取り押し戻した。


「ええー」


 素直に戻ろうとする池尻に長島が言う。


「拾え」

「は? あ、これか。つかお前が投げたんだろが」


 池尻はこれまた素直にさっき投げられ頭に直撃したペットボトルを拾うと長島に渡した。そんな素直さに長島は吹きだしてしまった。


「ハ? 何?」

「なんでもない。さ、部活らしいことしますかね。皆さん、今やってるこのホムペ作り、期限が一ヶ月後になりました」


 部員はみんな長島を見つめる。


「岡崎先輩が小説、坂井が写真、山田さんがゴスロリ情報ページ、松田がボカロ曲、池尻が男の娘特集、俺がゲーム。あってる?」


 みんなが頷いたので琴子も頷いたが、よくわからないこともあったので質問した。


「部長のゲームって?」


 坂井が琴子のパソコンを指しながら言う。


「自作のゲーム。共有ファイルから途中まで作ったのできるから、やってみるといいよ」

「部長が作ったんですか? ゲームを?」

「うん」

「へぇー。あ、あと松田先輩のボカロって?」


 いつの間にかロリータに着替えた池尻が得意げに言った。


「わっしーは曲とか自分で作ってるんだよ。このヘッドフォンは伊達じゃないんだよ~」

「曲……」


 最近あちこちでみかけるアレだと思いながら何かつながる気がした琴子は考え込んだ。


「そうそう、琴ちゃん、一緒に手作り品とか作ってそれもアップしようよ! 俺作り方教えるからさ! こないだあげたヘッドドレスについてる紫の レースのバラ、琴ちゃんも作らない?」

「え? ああ、はい。いいですね」

「ねー」


 ニコニコする池尻をみてため息をつきつつ長島はカバンを手に取った。


「じゃ、各自期日まで頑張って。さ、俺は帰る」

「あ! 松田先輩! その曲って、イラストとか必要だったりしますか?」


 急にテンション高く話した琴子にみんなびっくりして止まった。


「まだ特に決めてないけど」

「よかったら、絵描く子で紹介したい子がいるんです! どうでしょう?」

「いいけど」


 これで、雛子の要望も叶えられると琴子は嬉しくなった。そんな琴子の様子をみて長島は微笑みつつ、出て行った。


「ま、うまくやってよ。お疲れ様ー」


 みんなは長島が出て行くのを見送った。


「じゃあ、松田先輩、明日の昼とか、大丈夫ですか?」

「うんいいよー」

「ありがとうございます!」


 琴子はまた席に着き、そういえばさっき部長の作ったゲームがあるっていってたな、と思いファイルをクリックしながら聞いてみた。


「あのー、部長ってなんでいつも早く帰るんですか?」

「家に高性能なパソコンがあって、たぶんそれで色々やってる」


 池尻が結構真面目に答えてくれた。


「へぇー」

「まぁみんな家にあるパソコンのがいいんだけどさ。必要なソフト家のにしか入ってないから」

「え? そうなんですか?」

「でも長島以外はなーんでかみんなここのが好きなのー。俺は琴ちゃんがいるからー」

「みなさんそうなんですか?」


 池尻をスルーして、他の人に振ってみた。


「俺は一人が嫌なんだー」


 岡崎先輩が喋った。


「一人で家にいて死にそうになっても誰も気づいてくれないじゃん」

「はぁ……」


 ゾンビみたいなものばかり好きなのに自分が死ぬのは嫌なのかと琴子は 思った。


「僕は公共の場でこその、この開放感ですねぇ」


 海はいいですねぇ的な口調で言われても困る、と琴子は眉をしかめた。


「わっしーは家にいたくないんだよな!」


 池尻が松田の肩をポンポンと叩く。松田は小さく頷く。


 いろいろあるのだろうなと琴子は思いながら自分の服に目を落とした。琴子も、ここでしかこの服を着ることができないのだ。さっき池尻が琴子がいるからなどと茶化していたが、きっと池尻もここでしか女装はしていないのではなかろうか。


 みんな、ここしか、ないのだ。

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