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初めて着るゴスロリ

 木曜日。


 前回、またしてもチャラ男改め女装男池尻先輩から『ゴスロリ服もってこなくちゃデートだよ☆』と言われたので、琴子はこっそり鞄に忍ばせて学校に持ってきた。


 朝は母に見つからないか、学校に着いてからはクラスメイトに見つからないかビクビクしていたが、何事もなく部活動の時間になった。


 鞄を持ち、部室へと向かい、ドアを開けると、前回とはまた違ったロリータ服に身を包んだ池尻先輩が迎えてくれた。


「琴ちゃーん!待ってたよー!」

「こんにちは……池尻先輩衣装持ちですね……」

「コツコツためたんだよー! さ、琴ちゃん持ってきた? 着替えよ!」

「着替えるっていっても、どこで」

「ジャーン! 家からカーテン持ってきた!」

「は?」

「これ、俺持っててあげるから、その間に着替えて」

「えーそれはちょっと……」

「大丈夫! 俺だよ?!」

「え? 先輩ってソッチですか?」

「ソッチ? いやいや……まぁ、琴ちゃんがそれで安心するならそれでいいよ!」

「は?」

「ほらほらー腕疲れちゃうー」


 カーテンを高々と上に上げて四隅に詰められてしまったし、自分なんかの着替えになんの価値もないかと思い着替えることにした。

 琴子は鞄から服を取り出し、しばらく見つめていたら声がした。


「琴ちゃんこないだ長島になんか言われた?」

「なんか?」

「死にたい理由とか」

「ああ、名前が原因で色々あったとか」

「うんそうそう。他は?」

「他? うーん」

「あいつ死ぬ死ぬって言ってるだけに見えるかもしんないけど、ホントに屋上から落ちたことあるんだ」

「え?」

「でもまぁそれ以来実際になんかすることはなくなって、言うだけになったんだけどさ。なんとなく、知っといて欲しくて……」


 屋上で、怪我するだけだって言ってたのは実体験からだったのか、と琴子は思い出した。


「ごめん」

「え? なんで謝るんですか?」

「こんなこと暴露されても嫌だよなーと思って」

「いえ。私は別に……」


 黙っていたら、ドアが開く音がした。


「こんにちはー、あれ、池尻先輩何やってるんですか?」


 声だけで、これは坂井だろうと琴子は思った。


「こんちー! 今ね、琴ちゃん着替え中ー。あとで写真よろしく!」

「はーい」

「琴ちゃん! 着替えた?!」

「あ、いえちょっと待ってください」


 琴子は慌てて、一気に今来ている服を脱ぎ、あの服を着ることにした。


 なんのことはなかった。憧れていた洋服はすんなり着れた。でも後ろのチャックがうまくしめられない。


「琴ちゃん?」

「あの、ちょっと待ってくださ」

「しめたげる」

「へ?」


 いつの間にかカーテンを持っていない池尻先輩が隅から琴子の背中のチャックに手を掛けていた。


「えー?! なんで、見てたんですか?!」

「見てないよー。坂井きたから持ってもらって今様子見たらしめられなさそうだったから」

「見たんじゃないですか!」

「大丈夫大丈夫。ほら、とめられたよ」

「う……」

「それよりカワイイー! 琴ちゃん似合ってる! ほら坂井も見て見て」

「おおー」


 カーテンが下げられると、松田もいつの間にかきていて席に座ってパソコンをいじっているのが見えた。


「よーし写真撮ろ! 狭いけど!」

「はーい」


 坂井はカーテンを池尻に渡し、カメラを取り出した。池尻はカーテンを壁にテープでくっつけると、琴子の手を取りその前に移動した。


「ほらほらあっち向いて」

「はい……」


 そういえばまだ自分の姿を見てないのに、いきなりカメラって大丈夫なの?と思いながらも、琴子は池尻の笑顔に逆らえず坂井の向けるカメラにぎこちない笑顔を作って見せた。


「あ、ちょっと待って」


 池尻は何事か自分の席へ行くと、何かを取り出した。


「ヘッドドレス! 琴ちゃん仕様だよ!」

「えっ?」


 池尻はそういうと黒いバラの飾りがついたヘッドドレスを琴子につけた。


「え、なんでこれ」

「俺が作っちゃった。琴ちゃんチョーかわいい! ほら、カメラ向いて」

「山田さーん」


 坂井に呼ばれ、坂井のほうを向くとフラッシュと共に池尻が頬にチュッとしてきた。と、同時にドアも開いた。


「ハッ?」


 琴子が慌てて池尻から遠のくと、ドアから入ってきた長島が池尻の背中に蹴りを入れた。


「うお」


 池尻は前方にスライディングしていった。長島は倒れた池尻の背中を踏んづけて冷たく言った。


「変態先輩やめてください」

「おまっ、服が汚れるだろうが」

「変態の唾液で山田さんのほうがかわいそうです。クソ変態」

「ごめんなさいー琴ちゃんがかわいかったからついー」

「山田さんも踏んでいいから」

「い?! いえいえ、結構です」

「山田さん、共有フォルダに今の写真入れといたから、山田さんのページ作りに使ってください」


 急に坂井に声掛けられて琴子はびっくりした。


「へ?! あ、はい」


 琴子は自分の席に行き、パソコンを立ち上げ共有ファイルを探した。


「俺も写真見たいー」

「お前はしばらく俺の椅子」

「はぁ?」

「こっちこい、はい。orzの形になって」


 長島は自分の席の前に行き椅子をどかすと、池尻を配置した。琴子は共有ファイルを探しながら、二人の様子も見ていた。


「え、ちょっと待って。お前デカいんだから無理。つぶれるんすけど」

「頑張ってくださーい」


 そういうと長島は容赦なく池尻の背中に腰を下ろした。


「うっ」

「低い」

「当たり前だろ!」


 琴子はその光景に思わず吹きだしてしまった。


「山田さん、今後も池尻が変なことしてきたら椅子にしていいから」

「はいっブフッ」

「はいって……あ! 琴ちゃんならいいかなぁ」

「ダメだ。山田さん、コイツを敷き物にしてコイツの上に椅子を置いていいから」

「無理だよ!」

「はい。フフフ!」


 笑ってる琴子に、坂井が横からやってきた。


「ハハッ山田さん、ファイルここね」

「あ! ありがとうございます」


 坂井は結構いろんなことに気づき、話し方も丁寧で優しい。下半身裸だけど。なんて思いながら、教えてもらったファイルを開けてみた。

 ゴスロリに身を包んだ自分がそこにはいた。微妙な顔ばかりだったが、憧れていた自分がそこにいた。嬉しかった。

 思わず涙が出そうになったところ、部室のドアが開いた。


「小説できたよー!」


 前回はいなかった岡崎がUSBを掲げて入ってきた。

 はてさてどんな気持ち悪い小説が入っているのか、みんな不安だったが、これで、パソコン部の全員がやっと揃った。


「お、6人揃ったじゃん! 長島どいてよお」

「許してください長島様といえ」

「は?! お前そういう趣味」

「そういう趣味はお前だろ」

「ハハ池尻ちゃんにはご褒美だもんね」

「はぁー? 岡崎先輩何言ってんすか」

「大丈夫大丈夫、お似合いだよ二人」

「ちょっと待ってください俺を一緒にしないでください」

「うっ」


 長島が立ち上がって池尻を蹴った。


「もーホントひどい」


 池尻はそういいながら自分の席に座った。そんな様子をみていた琴子に坂井が耳打ちをした。


「池尻先輩、ほんとにドMなんで、結構痛いことされても平気なんです。いじめじゃないんで大丈夫ですよ」


 一体どれだけ属性がでてくるんだろう……と琴子はまた頭の中で整理しながらも、だんだん、面白い人たちばかりだな、と楽しく思えるようになっていた。

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