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副部長の趣味と部長の名前

 また、月曜日がきた。


 前回帰るときに、チャラ男池尻に『なんでもいいから好きなもの決めてこなきゃデートね☆』と言われてしまった琴子。あんなチャラ男はタイプではない。かといって誰がいいとかも琴子の中ではあまりないのだが、とにかくチャラ男はない。と思っていた。

 なので、やはりあの洋服関係以外思いつかない琴子は、とりあえずそれといって、周りの反応でも見てみようと思いながら部室のドアを開けた。


「琴ちゃん!」


 入ったらなんと池尻のみのようだった。しまった早く来すぎたかと思ったが後戻りはできなかった。


「こんにちは……」

「こんちー! ねぇねぇ好きなものあった? なかった? デートする?」

「あ、う……」

「う?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいね」


 琴子は自分の席のパソコンを立ち上げ、検索してゴスロリ系の画像を出した。


「こういうの、とか」

「んー?」


 池尻が琴子の席のパソコンをのぞいた。


「カワイイー! 琴ちゃんいいじゃん! 俺も好きだよこういう服!」

「え。そうなんですか?」

「フフッ」


 琴子は笑った池尻に不信感を抱いたがすぐ池尻が話し始めた。


「なんだぁー俺こないだかっこつけてゲームなんたらとかって言わなくてもよかったねー。琴ちゃん、ちょっと待ってね!!」

「へ?」


 池尻は自分の席の下の方へと行きしゃがみこみ、何やらしているようだった。


「先輩?」


 よく見えない琴子が池尻の席を見ようとのぞいた瞬間、池尻が飛び出てきた。


「ジャーン!」


 池尻が、真っ白なフリッフリでフワッフワないわゆるロリータ服を着て琴子の前に現れたのだった。


「見て見てー可愛くなーい?」

「え、えええー?」


 琴子は目の前の現実が飲み込めずに呆然と立ち尽くした。そこに部員が入ってきた。


「こんにちはー」


 坂井は入るなりズボンを脱ぐのはもうわかった。しかしその後ろにいるのはメガネとマスクをした色白の線の細い少年で、琴子は新入生かな?と思ってしまった。


「鷹チン、わっしーこんちー」

「あー池尻先輩それ新しい服じゃないっすかー」

「おっ鷹チン鋭い!」


鷹チンはきっと坂井のことだろう。しかしわっしーとは?


「あの、わっしーさんって部員の人ですか?」

「へ?松田鷲男、わっしーだよ」

「松田?!」


 松田はすぐに席の下からいつものガスマスクを取り出し装着した。


「あ、そういえば素顔見たの初めてです」

「ああそっかー。わっしーは顔全部出すと死にそうになっちゃうんだよねー。鷹チンが出してないとダメでわっしーは隠さないとダメなの。ハハッ逆~」

「そうなんですか」


 どうなってるんだここの部員達はと心の中で何度も突っ込んだ。


「そんなことより、琴ちゃんはゴシックのほうが好きなんだね? いいじゃんいいじゃん、二人で写真とか撮ろうよ! 今度服持ってきなよここに!」

「ここに?!」

「うん、ここではみんな好き勝手やってるからなんでもいいよ!」

「なんでも……」

「俺はこの通りフリフリ好きっていうか、女装? でしょ。鷹チンは露出、わっしーはガスマスク、岡崎パイセンはグロ好き」


 聞けば聞くほど、自分の好きなことなんて大したことないなと琴子は思ってしまう。


「部長の長島はー死にたがりの……あ! そうそう! アイツの名前言ったっけ? 知ってる?」

「部長の? さぁ?」

「あのねぇ」


 そこへ部室の扉が開き長島がきた。そのタイミングにみんなが長島を見つめた。


「……? 何?」

「いや、あの。部長、自己紹介でもしようかなって思ってたところです」

「前に大体説明したんだろ?」

「いやぁ、琴ちゃんがお前の名前知らないって言ってたから」


 一瞬の沈黙が流れ、長島が一言つぶやいて扉から出て行った。


「死ぬ」

「うわー! ちょ、待って」


 池尻が長島の後を追おうとドアに近づいたが松田が池尻のスカートの裾を掴んで止めた。


「あ、この恰好ダメだ」

「ではボクが」

「鷹チンはもっとダメだ」


 松田は動かない。となると琴子にみんなの視線が集中した。


「はい?」

「琴ちゃんお願い長島のあと追って」

「え、でもあの人死ねないって言ってましたけど」

「名前のことは別なんだよ~! ちゃんとアイツの名前の説明してから注意事項として琴ちゃんに言おうと思ってたんだけどタイミング悪かった~!」

「山田さんお願いします」


 坂井にまで頭を下げられて、琴子は頷きながら長島を追うことにした。


「どこに」

「屋上!」


 そんなベタな、と思ったがとにかく行ってみることにした。

 屋上といっても3階が最高階で、パソコン部のあるすぐそばに屋上への出入り口はあった。屋上に出てみると長島の姿はすぐに見つかった。

 真ん中のほうで足を伸ばして座っているだけだった。


「あのー」


 長島はやってきた琴子をみて何も表情を変えずまた遠くを見つめた。


「新入生さんゴメンね」

「いえ……」

「死のうかなーと思ってここに来たけど、ここ階数低いし落ちても怪我するだけなこと思い出したんだよね」

「え?」

「名前、知りたい?」

「いえっ、全然! あ、ぜ、全然ていうか、今は特に聞かなくても気にならないですが」

「……きる」

「はっ?」

「いきる!」


 急に生きる!宣言をされて、あ、もう死ぬ死ぬ言うのやめるのかな?と思ったが、長島の顔は仏頂面のままだったので意味がわからなかった。


「ナマモノのナマ? ナマって漢字一文字でいきる。俺の名前。長島生」

「あっ名前……」

「ハァ……今の俺からするといろいろ笑っちゃうだろ? 真逆いってる」

「いえ」

「今時の変わった名前に比べたらマシじゃねーかとかあるだろうけど、中学のときこの名前で色々ありまして」


 琴子が何も言えず突っ立ってると、長島が立ち上がって琴子に紙切れを渡した。


「これ、サイトのアドレス。枠組みはできてるから、他の奴らに教えといて」

「え、部長は?」

「帰るよ。大丈夫。今日は死なない」

「今日はって」

「新入生……山田琴子さんがきてくれたから。いいな、その名前。じゃあね」


 そういうと部長は去って行ってしまった。

 いい名前なんて今まで言われたことなかった。部長にとっては、自分以外の名前ならなんでもいいんじゃないかなとしか考えられない自分が嫌だと琴子は思った。

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