宣伝、チラシ配り
早速ポスターを貼り、チラシ配りに各クラスを回る琴子、坂井、池尻だったが、チラシ配りもなかなか簡単にはいかなかった。
知っている人なら『これ見てくれないと廃部になっちゃうんだ、だからお願い! 見るだけでも』なんて言えても、全く接点のない人にそうなれなれしく話しかけることなどできない。しかも結構な人数、全員を捕まえることも難しい。校舎内をパタパタと駆け回るうち、階段の踊り場で琴子と坂井と池尻は合流した。
「琴ちゃん大丈夫? 順調?」
疲れた風な池尻が琴子に話しかける。
「緊張しちゃって。教室にいない人も多くて結構難しいです」
「俺なんかさー! ギャル系の集団に俺の趣味バレててさー! バカにされて終わっちゃうの! もうあいつら怖い!」
「え、なんでバレてるんですか」
「昔ね、一年の頃、清純派みたいな子と付き合ってすぐカミングアウトしたらフラれて、その清純派の子がいつの間にかギャルになってて、そんでギャル仲間に言いふらしたんだよおおー!」
坂井が池尻の肩をポンポンと叩く。
「僕もズボンを脱がないと積極的になれなくて。思ったよりも声を掛けられません」
「はぁー?! 意味わかんねえ! 頑張って声掛けろよおー! ……てゆうかじゃあ、三人で行くか」
そうかその手があったかという風に三人は顔を見合わせ頷き、各教室に回ってチラシを配って行った。
数日後、アクセス数を見るために部室に集まった。アクセス数を見た長島がため息をつきながら言う。
「4割ってとこかな」
「4……」
思っていたより全然少なく、みんな落胆した。
「家にパソコンないやつもいるし、学校のパソコン室は授業でしか使えないし。これ携帯対応じゃないからな。はぁ、忘れてた。ちょっと家戻って作ってくる。できたらメールするから」
そういうとすぐに長島は出て行った。
「それができたら、また宣伝しないとだな」
池尻が暗い声で言う。そんな様子を見て、琴子は他に何かできないのか、と考え込んだ。
数日後の夜、部員達に『できた』とメールがきたので、携帯からアクセスしてみると、パソコン部のサイトは携帯でも見やすく変更されていた。琴子はそれを確認すると、家に持ち帰ったゴスロリ服を見つめ何かを決意したようだった。
翌日、朝。まず坂井が学校の近くまで辿り着くと、何やら声が聞こえた。
「パソコン部のサイトみてくださーい!携帯からでも見れまーす!」
この声は琴子か?と思って急いで門まで行くと、校門のところにゴスロリ服で立ってチラシを配っている琴子の姿があった。坂井はびっくりして立ち止まってしまった。
「すいません!よかったら今、お持ちの携帯で見てみてください!ゲームもあるし、小説もあるので!」
琴子が次々にくる生徒に携帯を出してもらったりして説明していた。
琴子の恰好もあり、登校する生徒は興味津々で立ち止まってくれている。呆然としている坂井のところへ松田が登校してきた。
「え?」
松田もびっくりして立ち止まった。
「わーお山田ちゃんやるうー」
いつの間にか坂井と松田の背後にきていた岡崎が、楽しそうにつぶやいた。すると岡崎はすぐ琴子の側へ駆け寄った。
「手伝うよ」
「岡崎先輩!」
「俺は生徒に呪いのメールでも送ろうと思ってたんだけどね。このサイト、3日以内に見ないと呪われます的な」
「そんなことしないでください」
「うん、山田ちゃんみてたらやんなくて良かったって思ったよ。ありがとね山田ちゃん」
琴子と岡崎がチラシを配っていく。立ち止まってそれを見ている坂井と松田の元へ池尻と長島がやってきた。
「オハヨーッス。あれ、何してんの?」
池尻が二人に声をかけてすぐ、門のところにいるゴスロリ服の琴子をみつけて池尻と長島も絶句した。
「琴ちゃん……」
池尻は目に涙を浮かべ、走り出した。
「おはようござ、あ、池尻先輩」
「琴ちゃんちょっと待ってて!!!」
そういうと池尻は校舎の中へ走って入って行った。それを見届けた後、坂井、松田、長島も歩いて行く。
「山田さん、僕もやるね」
坂井が琴子からチラシを取り、配り始める。松田と長島は生徒の間を縫って校舎に入って行った。三人はチラシを配りながら、やってくる生徒にサイトのアピールをする。すると勢いよく走ってくる音が聞こえ、池尻がロリータ服で息を切らしながら琴子の元へとやってきた。周りの生徒の驚きの声が聞こえる。
「先輩?!」
「琴ちゃんだけに、いい格好はさせないよ!」
ニッと笑って、池尻が琴子からチラシを取り配り始める。どこからか「ヤダあの男の子可愛いー」という声がする。池尻は声の方向に話しかける。
「池子よ! よろしくね! サイトもよろしく!」
女子生徒たちからの歓声や、男子生徒からも歓声があがる。いつの間にかガスマスク姿の松田もチラシを持って配っていた。その変わった出で立ちにみんな驚きながらも、何事かとチラシを受け取っていく。
ふと、集まった生徒達が校舎のほうをみてざわつく。
琴子達が校舎のほうを振り向くと、サイトのURLが書かれた大きい横断幕が屋上から垂れ下がっていた。
「部長~!」
屋上では、シャツを腕まくりした長島が座りこみ、空を見上げていた。