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課題の課題

 5月半ば。

 パソコン部の課題提出締切まで半月だったが、サイトはほとんど完成になっていた。


「もうこのまま先生に出せばOKっしょ」


 池尻は新たに自作の衣装を作りながら気楽に話す。


「そうだな。俺のも完成したし。じゃ、帰って寝るわ」


 いつものようにさっさと帰ろうとする長島に坂井が眉をひそめた。


「待ってください、昨日から部長のゲームやってますがバグってるとこあるのでチェックしてもらおうと思ってたのですが」

「あー、じゃあ不具合箇所全部見つけてからまとめて俺んとこメールしといてよ」

「あとちょっとで終わりますからそこで待っててください」

「ええー死にてー。じゃあ屋上いるからそしたら呼んで」


 結局部室から出て行ってしまった長島。坂井はため息をつきつつゲームを始めた。

 しばらくしてゲームが終わった坂井が立ち上がったが、やっぱり座って琴子に話しかけた。


「ごめん山田さん、部長呼んできてもらっていい?」

「はい。あ、じゃあ着替えなきゃ」

「これ羽織っていけばいいんじゃない」


 坂井は椅子に掛けてあった琴子のブレザーを指さした。


「あ、そっか。はい」


 琴子は急いで行かないと、という思いにとらわれ、言われるままブレザーを羽織るとすぐに立ち上がって部室から出て行った。

 屋上へ出ると長島が以前と同じように足を伸ばして座っていた。


「部長ー、坂井先輩がお呼びですが」

「えー」

「えーって」

「こっちおいでよ。あそこ狭いから窮屈でしょ、休憩していきな」

「はぁ」


 また言われるがまま、長島の傍に行き座り込んだ。


「部長……長島先輩は、あの部が好きではないんですか?すぐ出て行っちゃいますし」

「だって俺閉所恐怖症なんだもん」

「えっ!?」

「岡崎先輩とか坂井や松田みたいにパニックになったりはしない程度だけどね」


 琴子は何も言えず黙った。


「山田琴子さんは、その恰好で外も出れるんだねー」


 長島は琴子のヒラヒラスカートをツンツンと引っ張った。


「あっこれは、一瞬だと思ったし、他に人もいないだろうと思って」

「お人形さんみたい」


 長島にじっと見られて琴子は恥ずかしくなってしまった。


「ここって、人あんまりこないんですかね?」

「あー、あんまりこないかもねー」

「なんででしょうかねぇ」

「ここから落ちて死んだ幽霊に引きずり落とされるって噂があるから」

「ひえっ?!」

「それ多分俺のことで俺死んじゃいねーんだけどねー。誰だよ全くいい加減なこというやつはー。ねぇ」


 そう言ってにっこり笑う長島を見たら、その噂は長島本人が流したのではないかと琴子は思った。


「あそうそう。部のことは好きだよ。あいつらが好き勝手やってるの見てると死にたい気持ちが少しなくなるし」

「あ、じゃあ! ここにパソコン全部持ってきてここを部室にしちゃえばどうですか!?」

「ぶは! いいねぇそれ」


 二人はしばらく黙って、屋上でパソコンに集中している部員達の姿を空想していた。そこへ屋上のドアが開き、坂井がやってきた。ズボンはちゃんと履いて。


「遅くないですか? 何やってるんですか?」

「お、わりーわりー」


 長島は立ち上がり、座っている琴子に手を差し伸べた。すると反対側から坂井の手も伸びてきた。長島と坂井は一瞬顔を見合わせたが、すぐ琴子が自分で立ち上がった。


「あはは、自分で立てますよ、スイマセン」


 長島と坂井はムッとした表情で顔を見合わせつつも、三人は屋上から出て部室に戻った。

 部のドアを開けると、目の前に白衣をきた人物が立ちはだかっていた。坂井が声を上げる。


「立花先生?」

「おう」


 彼はパソコン部顧問で、琴子は入学式で三年の担当の理科教師ということで見た覚えがあった。戻ってきた三人が席に戻ると、立花は話し始めた。


「お前らの課題なんだけどさぁ」


 立花は頭をかきながら言う。


「なんか上のほうから目に見える成果が欲しいとか言われちゃってさぁ」


 立花は言いにくそうに間を置く。


「5月末までに、うちの学校の生徒からのサイトの閲覧数が8、9割行くようにしないと廃部だって」


 部員全員が固まってしまった。


「なんかワリィ。ここのパソコンのリース代とか切り詰めたいらしいんだわ……生徒数が減って学校経営も大変だから。ということで……」


 立花は長島を見ると、すまなそうな顔をして、部室から出て行った。長島も特に立花に対して嫌な顔もせず、見送った。


「んー、どうすっかねぇ」


 長島が軽く言う。


「ようはうちの生徒に宣伝して見て貰えればいいわけでしょ?ポスター貼ったりチラシ配ればすぐいけんじゃない?」


池尻も軽く言う。


「ですね、まずはやってみましょうか」


 坂井が言いながら、早速ポスターとチラシの制作に取り掛かる。


「あ、私、一年生に宣伝しますね!」

「うん。じゃあ一年山田さん、二年坂井、三年池尻でチラシ配りな」


 サイトを見るだけでいいなら、そんなの余裕で達成できるだろう。と、みんな思っていた。結果を見るまでは--。

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