ここはパソコン部
狭く汚く薄暗い、六台のパソコンが設置されているパソコン部。アニメキャラのポスターやゲームのパッケージなどがあちこちに無造作に置いてある。
ここは通常の学校のパソコン室とは隔離された、パソコン部専用の部屋である。
一番扉に近いパソコンの前に座っている山田琴子(一年生)は、深いため息をついた。
琴子が前を向くとパソコンで何やら一心不乱に作業しているガスマスクにヘッドホンをしている松田鷲男(二年生)の姿がみえる。
琴子が右を向くといかにも真面目、な風貌でパソコンに向かって作業している坂井鷹(三年生)の姿。
しかし坂井の下半身へチラリと目線を移すと、下半身は何も身につけていない。琴子が慌てて坂井の上半身へと目線を移すと、坂井は琴子のほうへと顔を向け、微笑む。
琴子は苦笑いをしてうつむきつぶやいた。
「辞めたい」
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琴子は自宅の部屋で、壁に掛けられている真新しい高校の制服を見つめてため息をついた。なんとなく見ているのが嫌になって、クローゼット内にその制服を移動した。
するとクローゼットの端のほうに見えるレースに目がいった。琴子はそっとその服を手にとる。
レースがたくさんついている、フリフリした黒いワンピースだった。
中学生の頃、お小遣いをためてこっそり買った服だったのだが、家に帰るなりすぐに母親に見つかり
『そんな服まさか外で着ないでしょうね?』
と言われて、琴子はひどく落ち込み、結局袖を通すこともできずにタンスの肥やしになってしまった。
それ以来、何をするにもやる気が起きず、高校も、特に努力する必要のない、適当にしていられそうな学校に決めた。
当然、部活も適当に過ごしていられる部ならなんでもいいと思っていた。
それが、パソコン部だった。