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サイなあたし達  作者: 戸理 葵
第一章 面倒臭いんです
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Are you serious? 2

ヤバい、って思った。

初めて、誰かの生キスシーンを目撃してしまった。



しかも、香取。どうしてこうも奴に遭遇するのよ。

二度ある事は三度ある?

三度目の正直?

仏の顔も三度まで? この場合、誰が仏?




下校時にお兄と顔を合わすのが嫌で、あたしはここ三日ほど毎日、例の秘密の抜け穴ならぬ秘密のフェンスを飛び越えて、こっそり帰っていた。

つまり何が言いたいかって言うと、ここはあたしの縄張りだって言う事。

なのにいつの間にか、クラスの中のみならずあたしのお気に入りのこの場所まで、

奴が大きな顔をして踏み込んでくる。



いつもの様にさり気なく人気のない場所に行き、さり気なく敷地端まで歩き、人目につかずにフェンスまでたどり着き、

よし今のうちだソレまずは鞄を投げろっ


と思いっきり腕を振り回しながら小道を曲がったら、


思いっきり、男女のキスシーンに出くわしてしまった。


しかも、あまりの事に、目が反らせない。



一目でわかった香取は、今やトレードマークとなりつつあるメッシュ入りウェーブのキザな髪型。

両手をズボンのポッケに突っ込み、少し顔をうつむける恰好でキスしている。

一方の女の子は、小柄な体をつま先立ちまでして、両手を香取の首にまわして引き寄せ、情熱的にキスをしている。



情けない事に、少しドキドキしてしまった。



二人のコトが終わりそうなタイミングで、我にかえった。

ヤバい、見つかっちゃう。見つかったら、どう弁解しても絶対あたしが悪者になるっ。


咄嗟にダッシュで逃げようとして、寸での所で思いとどまった。というより、気付いたの。

何であたしが逃げなくちゃ、いけないの? ここは元々、あたしの縄張りよ?

というより、あいつは新参者よ?

なのに人の縄張りを荒らすだけじゃなく、早速女の子を引っかけちゃうなんて、どう言う了見をしているのよ?



結果中途半端に建物の陰に隠れる形になってしまい、これって一番タチが悪いパターンかも。



「家に帰らないの、礼?」


女の子の声が聞こえて、ほら立ち聞きしちゃった。あたしのせいじゃないからね。


「何の為にだよ。意味ねぇし」


ああもう、話していないで用がすんだらサッサと離れてくれないかな? そこ、あたしの持ち場なんだけど。予備校に遅れるじゃない。


「ね、じゃあ部屋へ遊びに行ってもいい?」

「それこそ、何の為にだよ?」

「行きたいんだもん。ダメ?」

「気分じゃない」


・・・なんっか、彼女にすら、偉そうなヤツだなぁ。さすがは香取様だわ。



その時、何故か、先日会ったアイドル由井白さんの笑顔が思い浮かんだ。

・・・由井白よっちゃんなら、なんて言うんだろう? あたしが、「部屋に遊びに行ってもいい?」なんて聞いたら・・・。


想像して、あまりの恥ずかしさにドキドキしてきた。

それって、あたしがあの人とキスをしたら、って事に繋がって、



どんだけ変態妄想をしているのよっあたしはっ!!



思わず両手で顔を覆っていまった。落ちつけ落ち着けっ。

あんまりドキドキしたら、またお兄のトコに飛んじゃうっ。


そんな事したらタイミング的にも最悪だけど、

テレポの理由を聞かれたらばれたら、更に最悪っ!! 変態がバレるっ!!

ちょっと落ち着いてっ。

ああでも、由井白さんとキスをしたらの妄想が頭から離れない、誰か助けてー。



ここに、テレパシーだか読心が出来るサイがいなくて、よかった・・・。



「おい、お前」

「きゃっ」


跳び上がった。振り返るとヤツがいるってなんかのタイトルみたい、いつの間にそんな所に立ってるのよっ!


香取が、今通話を終えました、って感じで折りたたんだ携帯電話を持ちあげたまま、驚いた様にあたしを見ている。

あたしはもう、焦るどころじゃないの。ああ、乙女の妄想にハマっている間にこいつに後ろを取られた不覚なりっ!



「か、香取! 何でここに!」

「それはこっちの台詞だ。何やってんだ、ここで?」

「え? 何で一人? 彼女は?」

「彼女?」


彼の大きめの瞳が更に見開かれて、しまったっ! 口が滑ったっ!


あたしは固まってしまい、そんなあたしを香取は凝視した。

墓穴を掘ったわ、どうしよう。もう、誤魔化せない。墓穴って墓穴はかあなよ、お墓を自分で掘っちゃう事よ? 死亡フラグ立てちゃったわ。


やがて香取の目つきが、凄く冷たいモノに変わってきた。ああ、バレたバレた立場が無い。

言い訳をしたくなる・・・。



「あ、えっと、あの、用事があってここに来たら、たまたま、その・・・ていうか、何でこんなとこでやってんのよっ」

「ヤッてる?」


香取が訝しげに片眉を上げた。

その真意まで問う余裕が、あたしにはない。顔が真っ赤になるのがわかった。


「そ、その・・・・キ、キスをっ・・・」

「何だ」



少し呆れた様にあたしを見下ろすと、次にはとても意地悪な顔をしてニヤー、と笑った。



「他にいい所があんなら教えろよ」

「・・・・」

「何、突っ立ってんだ? ・・・ああ、そうか」



香取はさも面白そうに周りを見回した。何だろう?



「そういや、お前のサルっぷりを見せられたのもここだったな。丁度いい、見せろよ」

「・・・え?」

「あのフェンスをどうやって乗り越えるのか、割と興味出てきたんだわ、俺。しかも女がやるって、どうよ? お前、俺らの事見てたんだろ? じゃ、きっちり返してもらわねぇとな」



・・・な、何ですって??



「登ってみろよ、さあ」



香取が、性格の悪そうな笑顔であたしを見下ろしている。

あたしは混乱中の頭が更に混乱してきて、呆然と彼を見上げた。



「どうしたんだよ、サル女」



こ、こいつの目の前でフェンスに飛び乗る? そんなバカな。

何か上手い事を言って切り抜ければいいと思うのに、何を言っていいのか、さっぱり思いつかない。

どうしよう、どうしよう。

そしておかしな事に、予備校に遅れちゃいけない、なんてどうでもいい事が頭をよぎっているし。

素直に回れ右をして、お兄に正門で出くわす選択肢もあるっていうのに。


どうしよう、どうしよう・・・・あ、そうだ。



脇にある大きな木を、伝い登って見せればいいんだ。それくらいなら、普通の人レベルだろう。

って、どうやって木に登る? 枝が結構高い所にあるんだよな。あれに跳びついちゃったらオカシイんだろうな、どうしよう。


あ。



「そうだ! 香取、あたしの踏み台になって」

「はあ?」

「あたしが高く跳ぶために」

「お前、喧嘩売ってんのか?」


香取の目が吊り上がった。途端に凄味が出る。

けどあたしとしては、キス中の香取より、こっちの方が格段に落ち着くわ。



「だって目的を達成するためには、あんたが手頃な踏み台なんだもん」

「絶対お前、俺に喧嘩売ってるだろ」

「いいから、早く、背中貸して」

「気安く触んなよっ」

「彼女と違ってすいませんね、スカートの中、見ないでよ?」



そう言うなり、あたしは彼の背中に軽く左手をポン、とついた。それを支えに、跳ぶ。

次に右手で、一番手近な木の枝を掴み、その上に飛び乗った。

後は簡単。そこからフェンスに、一応両手を使って飛び乗って見せた。


これくらいなら、常人の域でしょう? 我ながら確かに、サルっぽいけど。



「香取。カバン取って」


フェンスの上のあたしを、口を開けて呆けて見上げている香取に言った。

香取はそれに気付いて、驚いた顔のまま、あたしの鞄を拾った。


「投げるのか?」

「早く。誰かに見られちゃう」


香取が少し顔を歪めて、重い鞄を思いっきり投げる。

あたしはそれを体で受け止めた。衝撃でバランスを崩しかける。あたし、下半身は丈夫だけど、上半身は多分人並みなの。


なんとか持ちこたえ、下にいる彼に向ってにっこりと微笑んで見せた。



「ありがと。こんな感じよ。良い子はマネしないでね?」



そして、学校敷地の向こう側に飛び下りる。よし、サッサとこの場を去ろう。


その時、彼がフェンスをガッと掴んだ。その音に振り向く。

目が合った。強い視線。

低い声で、一言。


「カッコイイ~」



長い睫毛の綺麗な瞳が挑戦的な光を放ち、あたしを射抜いた。



かなり、ドキッとした。


慌てて、無言で踵を返すと、お隣のお稲荷さんの敷地に走って逃げた。


だって、今のって、何?


さっきから、ドキドキしっぱなしじゃない。早く気持ちを落ち着けないと、マジでテレポっちゃうからっ。



結局あたしは、バス停を一つすっ飛ばすほど走ってしまった。

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