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サイなあたし達  作者: 戸理 葵
第七章 お楽しみはこれからだっ
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 何で獅子鷲があたしのポケットにあったのだろう? 

 いくら黙っていろって言ったって、モノが無くなれば向こう(ロンドン)だって大騒ぎじゃない? 水島さん達の耳に入るよ。


 翌日の午後、たっぷりと休養を取ったあたしは、悶々と考えながら水島屋敷の廊下を歩いていた。行き先はもちろん、台所。目的はもちろん、冷蔵庫を漁る為。もうすっかり、抵抗が無くなったの、うふっ。


 あたしの力が世界を変えるって、どういう意味? そりゃ、この力が他のモノより特殊なのは、何となく分かるけど・・・。


「あっ・・」


 何か声が聞こえた。あたしは顔を上げた。何だろう?


 居間から聞こえる? あたしは普通に歩いて行った。



「・・あっ・・んっ・・あっ・・」



 あたしは固まった。リビングに三歩程入った所で。

 目の前のソファの上には、仰向けに横たわって服もはだけてあられも無い美女と、


 その上に覆いかぶさる様に乗っかっている、水島智哉の後姿。

 明らかに、彼女の胸に、唇を這わせてる。もう片方の胸は、手を這わせてる。と言うより揉んでいるっ?



「・・・・」



 絶句してたら、彼が顔を上げた。そしてあたしと、目があった。じっと見られる。

 そしてあたしもジッと見た。って、だって!! あまりに刺激的、じゃないショックすぎて、頭のヒューズが飛んじゃったんだもんっ!



 奴がぶっ飛ぶような台詞を、真顔で言った。


「・・取り込み中なんだけど。見たいの?」

「ごっごめんなさいっ!」



 やっとこさ覚醒したあたしは文字通り飛び上がって、慌てて居間を出て行った。

 そこでハッと気付く。ちょっと待ってよ、居間って、いくらなんでも公共スペースなんじゃない? 一緒に暮らす以上(いやあたしが単に居候なだけなんだけど)、ルールってもんがあるでしょう?!


 抗議してやろうと思って、無謀にも部屋に戻った。


 

「というかリビングでやる方もどうかと思うんだけど!!」

「家主が何処でやろうと家主の勝手」

「あん」


 事態はさらに進んでいて、彼は彼女のスカート中に手を突っ込んでいた。上半身なんか完全に出ちゃって、ブラもひも状にぶら下がっているだけだし。



「性教育ならお断りだよ?」


 綺麗な瞳で流し眼されて、逃げない思春期の女の子がどこにいるっ!!

 なんだあのエロエロ悪魔はっ!



 わき目も振らずに危うく本気走りをしかかって、壁にぶつかる前に、運良く新谷さんに抱きとめられた。



「ひゃっ! あ、新谷さん」

「どうも。・・どうされました?」

「いえっどうもっ、どうもされませんっ」

「? そうですか。ところで智哉様を知りませんか?」

「智哉様っ? 知りませんっ。知っていませんっ全然っ」

「? そうですか。失礼します」



 新谷さんは首を傾げた後、そっとあたしの肩から手を外し、そのまま歩いて行った。って、その先はっ!



「あーっ、新谷さん、そっちはっ!」

「・・・・失礼しました」



 遅かった!

 と思ったのに、何の騒ぎも起こらず、新谷さんは顔色一つ変えずに部屋を出てきた。

 唖然としているあたしの前に、彼がやってくる。



「・・・新谷さん?」

「ああ、驚かれましたか? 困ったものですよね。ああなると止められない。所構わず、ですから」



 あたしの表情に気付いた新谷さんは、少し肩をすくめて苦笑した。



「ま、滅多にありませんし、そのうち収まりますから。あまりに御不快でしたら、しばらくご実家に戻られるのはいかがですか?」


 滅多に無いって、そのうち収まるって、これは恒例行事かい・・・。いや、健全なるハタチ過ぎの男子ならそう言うものなのかもしれないけどしらないけど・・・


「・・実家・・・」




 彼に言われて、あたしは昨日の夜・・・あの事件の後の事を思い出した。

 場所はもちろん、あたしの家。

 登場人物は、あたしと、お兄と、お祖母ちゃん。




『なんでイットにはなんの効力も発揮しなかったパワーアップアイテムが、あたしを追いかけてくるのっ!!』


『おい、真琴。落ち着けよ・・』


『しかもそれでなんであたしがパワーアップしちゃうのよっ! ・・・はっ・・・ひょっとしてあたしまさか・・・』



 思わず両手で頬を抑えて、恐る恐るお祖母ちゃんを見る。


『イットなの?』

『お前は単純でいいねぇ』


 お祖母ちゃんは溜息をついた。



『別にあれは、イットの物でも、彼らに力やご利益をもたらすものでも何でもない。もっと違う物だともくされているんだ』

『それは何?』

『まだ言えない』

『何でっ』

『時期じゃない』

『もうっ。いっつもそればっかり! あたしにどうしろって言うのっ』

『どうもしないでよろしい。とりあえず、水島さんのお宅に戻りなさい』



 煩そうに答えるといつも通り背筋を伸ばしてお茶を飲む。

 そんなお祖母ちゃんを見て、あたしはついにキレた。



『・・・さっきから何なのよーっ』

『押さえろ、真琴。な? 気持ちは分かるがここは押さえろ』

『お兄はいつの間にお祖母ちゃんの手下っ?』

『手下って何だよ、お前いくつだよ、落ち着けって』


 お兄はグイ、とあたしを椅子に座らせた。


『お前があそこに行ってこれだけ成長したんだ。俺だって認めない訳にはいかないだろう? そこまでバカじゃない』

『・・・』

『自分でもハッキリ分かるくらい、お前に関しちゃお役御免なんだよ。俺じゃもう、無理なんだ。お前を守ってやれない』

『・・・あたし、もう守ってもらわなくっても、大丈夫だもん・・・』

『・・・違うな。言葉がまずかった』



 お兄はあたしの前に回り込むと、あたしの目線まで屈んで、子供の頃の様に優しく笑った。



『お前は守られに行くんじゃない。助け合いに行くんだ。仲間同士、助け合うんだ。お前の助けを必要としている連中は山ほどいる。お前は、その中に身を置くんだ』

『・・・・』

『そこを見据えている事は、お前の顔を見れば分かる。とっくに気付いていたよ。覚悟してるんだろ? じゃ、頑張れよ。俺達は家族だ。真琴の居場所はいつだってここにある』

『・・・・』

『そしてあそこにもあるんだ。すげぇじゃないか、それって』



 そう言って、あたしの頭をぐりぐりと撫でた。明るい笑顔だった。



『な。頑張ってみろよ。嫌な事をされたらぶっ飛ばせ。変な事をされたら逃げて来い。俺がぶっ飛ばしてやる』

『・・・お兄・・・』

『俺達家族は、ちゃんと真琴を愛しているから』



 あたしはお兄を見上げた。


『なんてクサい台詞・・・』

『薫はドラマチックが好きだからねぇ』

『・・・・』

『ねぇお祖母ちゃん、助け合いにヒトミは参加しないのかなぁ? あの子も一緒だといいのに』

『・・スルーかよ』


 するとお祖母ちゃんは少し微笑んだ。



『あの子はね、家族の問題が片付いたら、自分で動くだろうよ。・・・今のヒトミには、あの家が必要なんだよ』

『・・・おじさんと、おばさんの事?』

『そうそう。不器用だからね、あの一家は』

『・・・・』



 ヒトミは音楽が好きなのに嫌い。歌も、人前ではまず、歌わない。だけど昨日のあの歌は、先祖代々語り継がれた歌だと聞いた。と言う事は、ヒトミのご両親にも何かあるのだろう。



 生き返った加藤先生が、目を覚ましたと言う情報は、まだ聞いていない。





「しかし今回はよっぽど、ストレスが溜まっておられるのでしょうねぇ」


 新谷さんのしみじみとした台詞に、あたしは我に返った。



「ストレス?」

「ええ。たまに、かなりストレスが溜まるとああやって解消されるのです。一日に何度も」

「・・・一日に何度も・・」

「ああ、間違えた。一日に何人も」

「・・・何人も・・・」


「元々女性にはあまり興味の無い方なんですが、その反動が来るのでしょうかね。男性の方が好き、と言う訳ではないのですよ。ご自分以上に魅かれる方に、出会った事が無いのでしょう、由井白様以外には」



 居間に視線を投げかけながら、柔らかく彼が言う。

 その合間にもリビングからは「いやっ・・あん・・・はっ・・・」とか聞こえてくるし。変でしょこれっ!



「・・・ごめんなさい、新谷さん。あまりにも濃いお話の連続に・・・お腹いっぱいというか・・・胸やけがすると言うか・・・」

 あの声に。

「すみません。喋りすぎました」


 新谷さんは苦笑した。


「宮地さまが、少しショックを受けていらっしゃるご様子だったので」


 ・・ショック?

 ・・そりゃ、まあ・・。



「・・そうですか?」

「はい。・・そう・・」


 彼はあたしを見て、その柔らかな視線を細めた。


「信頼していたお兄様に裏切られた、様なお顔で」



 ・・・信頼? お兄様?

 あたしはビックリした。



「・・・そんな事を言う程、あたし達、仲は・・・」

「よろしいかと」

「・・えぇー? そうですか?」

「はい。とても」

「・・・・」



 心当たりが無い。

 そう思って首を傾げた時、突然にあの光景を思い出した。



『見ててやるから。狂わない様に。だから、安心しろ』


 彼の手が、あたしに伸びる。

 頬をそっと包む、あの暖かさ。

 瞳の、黒い煌めき。


『狂わないよ』



 確かにあの時は、凄く心が落ち着いた。理屈抜きの、絶対的な信頼を感じていた。



「・・・まあ、あの人意地悪だけど、嘘とかは言わなさそうだし」

「智哉様は、敵味方の線引きをはっきりとなさる方です」


 新谷さんは微笑んで、あたしを見つめた。


「味方と認識していただくには一苦労ですが、一度認めたお相手を裏切ることは、ありませんよ」



 どこかで身に覚えのある、その感覚・・・。


「・・・ああ、香取みたい・・・」

「?」


 彼は不思議そうに首を傾げた。

 あたしは気を取り直して、前から気になっていた事を聞いてみた。



「ところで新谷さんってさ、沙希って人、知ってる?」


 すると彼は事もなげに言った。


「知ってますよ。私の姉ですから」

「!」



 あたしは心の中が、100メートルくらい後ろにぶっ飛んだ。何ですって?!



「新谷サキエ。私の腹違いの姉です。両親ともにイットです。もう随分長い事、会っていませんが」

「・・・・・」

「彼女は我が姉ながら、美しく、聡明で、行動力があり、相手の心を読む能力に長けていて、そして根っからの悪です」

「・・・・」



 顔色を変えずにそう言い切る彼に、あたしは言葉が継げなかった。

 そんなあたしを真正面から見据えて、彼は深々と頭を下げた。



「真琴様にもご迷惑をおかけしたそうで、申し訳ありません」

「そんなっ・・・」



 あたしは大慌てで両手を振る。だけど頭を下げた新谷さんには、それが見えない。

 どうしよう。だってあたし、あたし・・・


「・・・あたし、あなたのお姉さんを・・・」

「姉は、17の時に家を出ました」


 

 あたしの台詞を遮る様にして新谷さんは口を開き、そして顔を上げた。

 黒い瞳で、再びあたしを真っ直ぐに見た。



「その時に、死んだのです。私達家族は、そう思っています・・・と言っても、今の身内は私だけですが」


 そう言って、ふっと、切なそうに顔を歪めた。



「ああいう人間も、いるのです」

「・・・」


 どういえばいいのか、分からない。

 だってあたしは、新谷さんの置かれた状況が、まだまださっぱり分からないもの。

 それでも、何か上辺だけの言葉でもかけるべきなのだろうか?



「・・・あなたのおばあさまが子供の頃」


 彼は視線を漂わせ、綺麗に微笑んだ。


「よく、三人で、林や川辺で遊びました」


 懐かしそうに、目を細める。


「彼女は、美しく、凛として、強かった。誰とも分け隔てなく、真っ直ぐに向き合っていた」


 しばらくそうやっていた後、あたしに視線を移して言った。


「今の、あなたの様に」



 そこで初めて、「彼女」とはうちのお祖母ちゃんだった事を、知る。

 そっか、お祖母ちゃん達、幼馴染だったんだ・・・。


 

「・・・新谷さん・・・・」


 あたしは彼を見上げた。

 新谷さんは、とても優しくあたしを見ている。あたしを通して、お祖母ちゃんを見ているのかもしれない。

 昔付き合っていた二人。どういう歴史があるんだろう? ・・この目、お祖母ちゃんの事が好きだったんだろうな・・・。



「うちのお祖母ちゃんは、したり顔で勿体ぶって何にも教えてくれないし、失敗したり間違えると思いっきりバカにするし、自分のやりたい事は真っ先にやっちゃうし周りが従わないと怒るし、好きな食べ物が夕飯で出なくても怒るし、時々患者さんの飼い主に説教かますし、かなりの我儘婆さんですよ? いくら付き合っていたとしても、美化しちゃいけません」


「・・・・」



 新谷さんが絶句した。だって本当の事だもん。

 ここに香取がいたら、「テメーの事は否定しねぇのかよ。図々しい奴」とか言われそう。ふん、いいでしょ。



 するとあたしの後ろを誰か通った。

 振り返ると既に後姿。髪の短い、とてもナイスバディなお姉さん。



「・・・あれ、今の・・・?」

「おや、今日は二人をお相手ですか。お元気ですねぇ」



 新谷さんが感心した様に言って、そのお姉さんは居間に入っていって、「はーい智哉ー」とか声が聞こえてきちゃったりして、


 おいこらちょっと待て、それは許せねぇっ!

 3Pなんてそんないかがわしいもの、



「・・・せめて自分の部屋でやれぇっ!!」

「はいはいはい」



 乱れた服を整えるでもなく、水島智哉はポッケに片手を突っ込み、片手で髪をかきあげて、かったるそうに出て行った。

 その後ろからお姉さま方が、実に楽しそうについて行く。先のロングヘアーのお姉さまは、ブラウスを手で合わせているだけだしっ。



 なんっだ、あの男っ!




実は前回にて本編は終了しました。

本章では、とっちらかった物の後片付けです。

彼らの未来に繋がる様な、そんな彼らが想像出来る様な終わり方にしたいと思いますので、後数話、お付き合いを宜しくお願い致します。

一話一話が相変わらず長くなり、申し訳ありません。


皆様の、お暇つぶしになっておりますように・・・。

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