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サイなあたし達  作者: 戸理 葵
第三章 何が起きてるの?
31/67

And next 2

 集団で歩いていると、すごく目立つ。あたし以外はみんな背が高いし。しかもよっちゃんと水島さんは大荷物だし。

 下校途中の生徒も結構いて、みんながこちらを興味深そうに見つめていた。


 いつもならここで、よっちゃんと水島さんのアイドルスマイルが振る舞われるのだろうけど、今日は全くそんな気配は無い。



 校舎の近くまで来た時、水島さんの歩みが止まった。

「義希」

 

 

 呼ばれたよっちゃんだけじゃなくて、皆が振り返る。水島さんは校舎脇の、枯れている灌木を指さした。


「見ろよ、これ」

「・・・・完璧にやられてるな」

「しっかりとね」



 それは昨日今日とヒトミが気にしていた場所で、灌木が3つ4つ、根元から枯れている。校舎の左側、社会科室や資料室、事務室などがある場所だった

 よっちゃんは屈んで、それを手でボキボキと無造作に折りながら、顔も上げずにあたしに聞いた。


「これ、いつから?」


 あたしはヒトミと顔を見合わせた。二人で首をかしげる。


「さあ?」

「昨日見た時は、既に枯れていたよね?」

「他には?」


 よっちゃんがあたしに尋ねた。あたしはオウム返しをした。


「他?」

「枯れている植物とか、死んでいる動物とか、なんでも」



 枯れている植物? 死んでいる動物?

 あたしはしばらく、考え込んでしまった。植物が枯れているかどうかなんて、気にした事もなかったよ。大体、どこに何が植えられているかも気にした事がないってのに。しかもこんなに広い学校の敷地なんだよ? 把握しろなんて無理無理。緑化委員会に聞けばいいんじゃない? て、うちにあったかな緑化委員会。


 でも、動物の死体とくれば・・・・そうそう、無いはず。ウチの高校に、飼育小屋なんてないし。


 そこであたしは、思い当たった。



「そういえば、猫の死体があった、っていうのは、聞いた事がある」

「いつ?」

「えー・・・一カ月くらい前かな?」

「後は?」



 猫死体遺棄事件をもっと突っ込んで聞かれるかと思ったのに、あっさりと次に進まれた。ありゃ。

 よっちゃんの真剣な眼差し。

 それに少しでも答えようとする、乙女なあたし。



「・・・・最近、体調の悪い人が多い、って事ぐらいかな・・・・・? あ、風邪で死んだ生徒もいる」



 すっごいビックなネタを忘れていたわ! そうよ、亡くなった生徒がいたんだった。しかもつい、この間。


 そしてあたしは、先ほどのおぞましい光景を思い出してしまった。

 気を吸うイット。

 全身を震わせて、血の気を無くす男子生徒。


 それが、見た事も無い、亡くなった生徒の姿と重なる。

 

 あたしは息を飲んで、目を見開き、よっちゃんを見た。



「・・・・て、え? まさか・・・・それ、も・・・全部・・・・?」



 よっちゃんはあたしが眼中にない様子で、枯れた灌木を見つめながら立ちあがって言った。



「枯れている木が少ない。そいつは、学校ここに来た時点で、既に人を喰っていた。元々、植物なんかでやり過ごすつもりはなかったんだ。多分、多数の生徒の気を浅く吸おうとしたが、コントロールが効かなくなったんだろうな」

「或いは思ったよりもチャンスが少なく、不特定多数の生徒に手を出せなかったとか」



 水島さんが言う。

 よっちゃんが水島さんに言った。


「事務員、総入れ替えって言ってたよな? あいつ一人だけか?」



 事務員総入れ替え? そんな話、もう仕入れているなんて。どこで聞いたのだろう?

 あいつ一人だけ、とは、イットが彼一人だけか、と言う意味だとわかった。


 水島さんが、何かを考えるように少し眼を細める。

 よっちゃんが振り返って、あたしを見た。

「どこ?」


 事務室の事ね?

「ここ。一階東棟」


 あたしは枯れた灌木の上にある窓を指さした。






 5人で慌ただしく校舎入口に向かったら、

 まさしく、そこから出てくる香取とばったり出くわした。

 あ、一人。はるなちゃんは帰ったんだ。


 出くわした驚きよりも、先にはるなちゃんの存在をあたしは確認してしまった。怯えているなぁ。


 香取はあたしを見て、他の4人を見て、目と口を丸くした。



「何だよ、この派手な集団は?」

「あー・・・・知り合い?」

「何で疑問形?」



 香取が皆を交互に見る。

 既に入口に入り、土足のまま上がろうとしていたよっちゃんが、香取の声を聞いて振り向いた。

 そして何故か嬉しそうに、笑った。


「あ、香取くん」

「え?」



 香取は更に、ポカーンとした。



「何で俺の名前、知ってんの?」

「え? 何でかな?」



 よっちゃんは少し肩をすくめて、嬉しそうに微笑む。この場合、笑いを堪えているのかも知れない。

 それはね、あなたと彼女のキスシーンを見ているからですよ、とは誰も言えないものね・・・・。

 

 水島智哉がよっちゃんの肩越しにヒョコっと顔を出し、香取を上から下まで、素早く目を走らせた。


 

「ふーん、結構いい男じゃん。まだまだ子供だけど」

「はぁ?」

「よかったね、お兄さん」

「・・・・・・」



 水島さんに言われて、お兄は思いっきり不機嫌な顔で水島さんを睨み返す。そんな二人を見て、あたしはハラハラドキドキ。間違っても嫁入り話やカラダの相性、ここで持ち出さないでよっ。


 よっちゃんは荷物を床に置いて、剣道の竹刀袋だけを肩から下げて、香取にニコニコと近づいて行った。



「君だろ? 彼を殴ったのは」

「誰、あんた?」



 もう既に、いつもの攻撃的な香取に戻っている。ジロッとよっちゃんを睨み上げたのだけれど、よっちゃんは全く気にせず、とても機嫌良く答えた。



「僕達、御覧の通り、まこちゃん親衛隊。只今現場を調査中。君も来る?」


 な、恥ずかしい事言わないでよっ親衛隊だなんてっ。

 ドキッとするけど、・・・実は嬉しい? ええ嬉しいですよ、こんな事でも舞い上がれるんです、青春中ですから。



「何であんたらがそんな事すんだよ? あの変態と知り合いなのか?」

「全然。人の話を聞いてる? 僕らはまこちゃんの知り合い」



 ジッと睨み続ける香取を、よっちゃんは面白そうに眺める。

 それから、そっと彼に近づき、低い声で囁いた。



「だけど、ヤツの素性は知っている」



 香取の眉間に皺が寄った。

 よっちゃんは顔を離すと、白々しいぐらい澄ました顔で言った。


「君は初めて? 何も知らない?」



 香取は動く事無く、よっちゃんをジッと見た。そして順番にあたし達を見て、最後にあたしを見た。

 あたしは何だか耐えられなくなり、視線を外してしまった。

 やがて香取は、口を開いた。


「フツーの人間なんで」


 フツー、という所を強調して言う。あたしは一瞬、胸が痛んだ。

 あたしは普通じゃない、と言われた感じがしたから。



「フツー、ねぇ」


 よっちゃんは口角を僅かに上げながら、軽く頷くようにして香取を見やると、そのまま踵を返して再び入口に入って行った。

 その後から水島さんが、香取に向かい「来いよ」とでも言う様に顎で指した。


 香取は二人の後姿を眺めて、それから彼らの後に続こうとする。

 あたしはビックリして、香取に駆け寄った。



「え? 来るの?」

「乗りかかった船だろ。さっきも警察に色々聞かれたぞ?」

「え? いるの、警察?」

「お前も声かけられんじゃね? ウザいから覚悟しろよ」



 そうなんだ・・・・。

 つい香取と二人で並んで、再び校舎に戻ってきてしまった。

 先に上がっているよっちゃん達は、荷物を置いてきているのに何故か竹刀は、袋に入れた状態で持ち歩いている。値段が高いのかな?


 その後ろ姿を見ていると、隣で香取が、小さな声で言った。



「お前、あいつの事、好きなんだ?」



 一瞬、目が点になるあたし。

 次の瞬間何を言われたのか分かって、そして誰の事を言われたのかも分かって、あたしは飛び上がってしまった。



「なっ・・・・・」

「バレバレ。俺の前でと、態度違い過ぎ」



 香取は呆れた様にあたしを横目で見下ろすと、サッサと自分だけ靴を履き替えて上がってしまった。

 


 あ、あ、あり得ない・・・・・。

 どんだけ奴に弱みを握られるんだ、あたしは・・・・・。


 ショックと恥ずかしさで、靴箱にもたれかかってしまった。

 その横を、ヒトミが不思議そうに通り過ぎる。

 必然的に香取の隣に並ぶ格好となり、香取と目が合い、

 彼女はニコっと笑って言った。



「どうも」



 すると香取が無愛想に、ヒトミに言った。



「あんたら、本当に付き合ってんの?」

「え?」

「こいつからあんたの名前、一度も出た事がないんだけど」



 最初はポカンとしていたヒトミは、すぐにニヤッとした。ヤバ、またあの子のスイッチ入ったよっ。


「・・・・・ふーん。それって、ライバル宣言?」

「バカっっ」



 ハリセンがあったら頭を殴りたい気分で、あたしは彼女の腕をひっぱたいた。

 だけどヒトミはあたしをまるっきり、無視!



「悪いけどこっちは、真琴の事はぜーんぶ知ってるからね。何から何まで。多分君が、喉から手が出るほど知りたい事まで」

「いいかげんにしろっ」


 今度こそ、頭をはたいた。素手で。

 それから香取に向き直ると、一呼吸間を置いてから、彼に告げた。


「あたし。ヒトミとは付き合っていないから」


 ああ、やった! この高校に入って、初めて言えた!


「やっぱね」


 香取は、さもありなん、という顔をして頷くと、小馬鹿にした様な表情を浮かべてあたしに言った。


「何お前? 俺に弁解しちゃってんの?」


 ・・・・あんたに弁解?? 


「・・・・は? バッカじゃないの?」


 あたしが眉根を寄せて香取を見ると、彼はかったるそうに言った。


「知らねぇよ、俺は。関係ねぇから。ただお前が事情を明かさない事には「男じゃないから」


 態度と台詞にイラついたあたしは、香取の言葉を遮って言う。

 香取は一瞬固まって、間抜けな声を出した。



「・・・・・は?」

「男じゃないの、ヒトミは」

「・・・・・・何??」



 驚愕の表情。隣にいるヒトミを、呆然と見つめる。

 それを見てヒトミが、呆れた様な、皮肉っぽい苦笑を浮かべて言った。



「女だよ、悪かったな」

「・・・・・ウソだろっ? マジかよっ!」

「マジマジ。なんなら今からトイレで見せ合いっこする?」

「だからいい加減にしなさいっっ」



 あたしは二人の間に割って入った。香取は「信じられない」と言う様子でヒトミを凝視している。

 それから、そろそろ、とあたしに視線を移した。

 そしてまた、そろそろ、とヒトミに視線を戻す。

 そして再び、そろそろ、とあたしに視線を・・・・。



「・・・・・・「違うからね」

「俺、何も言ってねーぞ」

「あたし達、そんなんじゃないからね。ハッキリと、付き合ってもいなければ手もつないでいないからね」

「でも時々、こうやってじゃれ合ってるよーん」



 ヒトミがあたしの肩の上に乗っかってきて、わざとらしくほっぺたにキス!



「だから何なのよあんたはさっきからっ!!」



 目を丸くしている香取の前で、あたしは思いっきりヒトミをどついた。

 けれども彼女は平気なもので、再びあたしの首に腕を回すとグイっと引き寄せ、耳元で囁いてきた。



「言ったじゃん、楽しめそうって」

「当事者の許可無く楽しむなっ!」



 どんな状況でも、こんな状況でも楽しむあんた、流石だわ、見なおしたわよ。

 だからあたしを巻き込まないでっ。というより、いい加減あたしで遊ぶな、ほっといてっ。








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