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サイなあたし達  作者: 戸理 葵
第三章 何が起きてるの?
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My girl 2

 例の場所とは、あのフェンス前。あたし達が2度も出くわした場所です。

 彼がそこ目指してあたしを引っ張っているのは明白なんだけど、その間のご立腹の凄まじい事!

 怒髪天を衝いて穴を開けちゃうぞ、お湯も沸かせちゃうぞ、ってぐらいの勢いで、廊下でもどこでも、すれ違う人達みんなをオーラと目つきで蹴散らして、かつ盛大な注目を集めていた。


 あんた、恥ずかしくないの?


 って、いつものあたしなら言えるんだけど・・・・。



「てめぇっ余計な事をペラペラペラペラ喋りやがってっ! 俺がこんなにお前の事、口つぐんでやってんじゃねぇかっ」

「ご、ごめん・・・」

「突然現れたり飛んだり跳ねたり人の部屋に侵入したり、獣並みにサルだって事まで黙ってやってるってのに、テメーが何かしでかす度に見たくもねぇ悪趣味な柄を見せられてる、俺の身にもなってみろっ!」

「す、すみません、というかやっぱ見えてたんだパンツ・・・・」

「何なんだよお前はっ」

「でも、ただの従妹いとこにキスする方もおかしいと思う」

「それはっ」



 香取が真っ赤になって、突然立ち止まった。引っ張られていたあたしは、前につんのめりそうになる。

 あたし達は校舎裏に出ていて、初夏の太陽が頭上に明るく降り注いでいた。

 なのにその下で、あまり健全とはいえない話をするあたし達。



「・・ち、小さい頃に、親同志にけしかけられて、物ごころつく前からさせられてたんだよ・・・。・・・あれは、その名残っつーか・・・」

「そ、そうは見えなかったけど・・・」



 あたしはフツーに驚いてしまった。あれが名残のキス? というか、そういう事を幼少の頃より面白がってさせちゃう親って、どうなの? もしその後に相手の子供が不細工に育っちゃったらどうするのよ? て、そこじゃないか。


 先程の勢いはどこへやら、一瞬でも香取が怯んだその隙に、あたしはチャンスとばかりにたたみかけるように言った。



「はるなちゃんは今でも本気でしょう? そんな子にキスしちゃってんだから、あんたは充分、あの子の彼氏よ。あたし、そんな面倒な事に巻き込まれたくないから、今すぐ教室に戻って『俺の女』宣言、解除してきて」

「じゃ、お前、自分の事を俺に説明してみろよ」

「嫌」

「なら、昨日の事を弁明してみろよ。何だよ、あれは」

「嫌」

「じゃ、俺が自力で調べるしかないだろ。他人の弱みを言いふらすなんて好きじゃねぇからな。弱みっつーもんは言いふらさずに握っとくもんだ」


「・・・・・・まさか・・・」



 腕を組んで真面目腐って言うのに言ってる台詞が恐ろしくって、あたしが言葉を失って香取を凝視していると、

 彼は一転、不敵な笑みを浮かべてあたしに言った。



「これからはなーんでも、俺の言う事、聞いてもらうぜ」



 あたしは絶句! ついでに後ずさる! 金魚みたいに、口がパクパクとなった。

 さっきから何なのよっこの男の思考回路はっ! 喧嘩売ってるのかと思えば、まるで天下を取った見たいな態度に出てっ。しまいには言う事を聞けだ? テレポ見てパニクってくれた方がまだマシってもんよ、バカ扱いができるじゃないっ。



「あ、あんたっ、あの状況をの当たりにしてっ、受け入れられるなんておかしくないっ?」

「おかしいのはお前。言えた立場か?」

「そうだけどっ。じゃなくて、嫌だ嫌だっ香取の下僕なんて絶対嫌だっ!」

「じゃ、やっぱり今日から俺の彼女な。宜しく。可愛がってやるから」

「やっぱりって何だーっ! 状況変わってないし、なんでそうなるのよーっ!」

「付き合ってるとなりゃ、四六時中一緒にいてもおかしくないだろ」

「四六時中一緒になんかいたくないーっ!」

「尋常じゃねぇ事が身に降りかかったんだ、お前が何者か調べないと気が済まねぇんだよ。まず手始めに、そのハタ迷惑な下着の柄をどうにかしないとな。俺が新しいのを買ってやる」

「・・・・・何?」



 いつのまにやらパニクってるのはあたしで、思いっきり立場が逆転している気がするんだけど、

 とりあえず、我に帰りました。今、なんてった?


 下着買うって言った? 下着って、パンツの事?


 顔面蒼白で香取を見上げてしまった。

 香取は本当に、嫌そうな顔をしていた。



「星条旗だかトリコロールだか日の丸だか知らねーけどよ。ハッキリ言って不快なんだわ。センス悪いってのは一種の暴力だな」

「・・・・・・しっかり見てんじゃんよっあたしのパンツの柄、全部っ!!」

「側にいると移りそうで嫌だから、俺が変えてやる。とりあえず、今持ってる下着は全部捨てろ」

「ちょっと! やっとの思いで揃えた人のコレクションに何言ってんのっ!」

「あんな最悪なもんを身に着けてる女を連れて歩けるか。どこまで俺に迷惑かけんだよ」

「・・・・・・どっっっんだけっっ俺様なんだーっっ!!」



 これだけ吠えても気付かれない。校舎裏って、ステキ。

 あたしは思いっきり喚きまくった。



「嫌だーっ!! こんなヤツの所にお嫁に行きたくなーいっ!!」

「・・・・・・・嫁?」

「・・・あ」



 香取の大きな瞳が見開かれる。

 あたしは一瞬にして声が出なくなってしまい、動揺のあまり、まるでコントの様にピクリとも動けなくなった。

 しまった。さ、さ、最悪だ・・・・本人の目の前で、こんなヤツの前で、け、け、結婚話を出してしまった・・・・。


 とっても痛い沈黙が、あたし達の間に流れる。


 ・・・今すぐ、今すぐ消え去りたいっ。こんな時こそのテレポテーションでしょ? 跡形もなく、きれいさっぱりこいつの前から姿を消したいっどっか遠くに逃げたいよぉぉ・・・。


 すると香取の、気の抜けた様な声が降ってきた。



「俺、そこまで行ってねーぞ。なんでサルを娶らにゃなんねーんだ」

「・・・・娶るってあんた・・・」



 本能的に突っ込みを入れそうになり、あたしはハッと気が付いた。そうだっ!

 とってもかわいい、乙女的な回避方法を思いついたっ!! コレでいこう! よしいこう!!

 勢いよく顔を上げると、お兄に誤魔化しをかける時の様な妹視線を繰り出して(つまりあれです、ブリブリです)上目遣いで言った。



「あたしっ。昔から、将来を思い描ける人とでないとお付き合い出来ないの」

「何?」


 香取がイラっと片眉を上げる。


「つまり結婚をお約束した人じゃないと付き合えな「黙れバカ」



 ・・・・信じらんない。かぶせたよ。くったよ、あたしの台詞。黙れバカだって。

 本気でコイツん所にだけは、嫁に行きたくない。いつか絶対、後ろから刺しそう。昼ドラサスペンスまっしぐらよ。お祖母ちゃん、こんなヤツ、あたし好みになんて育ちません。





 あたしが何か言い返そうとしたその時、校舎の陰から人声が近づいてくるのを、二人して感じた。

 本能的に口を閉じると、その声がはっきりと近づいてくる。

 ヤバい。咄嗟に身構えた。授業をサボっているのもヤバいし、ここがバレるのもヤバいし、香取と二人っきりでいる事を見られるのもヤバい。これはまあ、クラス中が知っている事だろうけど。


 その時、香取に腕を掴まれて、文字通り茂みの中に連れ込まれた。

 急な事だったのでバランスを崩してしまった。


「うわっと・・・」


 慌てて腕を振り回したのだけど、努力の甲斐も虚しく倒れ込んでしまう。香取を巻き込んで、二人で尻もちをついてしまった。


「いってぇ・・・・」


 至近距離で、女の子みたいに長い睫毛があたしの鼻先をかすった。香取の上に乗っかる様に倒れてしまったらしい。この体制、何度目よ。


「お前、運動神経いいのか悪いのか、どっちだよ・・・・」


 香取は茂みと灌木かんぼくの中に沈み込み、あっちこっちを擦ってしまった様で、あたしはそれに守られる様に無傷だった。

 顔だけはいい、彼の美少年振りを間近でしみじみと眺めてしまう。

 たっぷりストレスを貰ってるんだもの、多少の観賞は許されるわよね? この男、黙っていりゃいいのよ。



 その時顔をしかめていた香取と目が合い、あたしは慌てて反らした。

 人の声がどんどん近づいてくる。



 隠れてそうっと覗いてみると、体格のいい男子生徒と、うだつの上がらなさそうな線の細い男性の二人がやってきた。







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