表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイなあたし達  作者: 戸理 葵
第三章 何が起きてるの?
22/67

No, way!

 玄関を開けて、靴を脱ぐ。ちょっと溜息が出ちゃう。

 なにやらリビングが、騒がしい。


「ただい・・「まこちゃんっ」



 ビックリしちゃった。だってお母さんのテンションが高い。狭い家の廊下を小走りでやってきた。

 でも何より、顔が興奮してキラキラしている。こんな盛り上がったお母さんは久しぶりに見たぞ。

 しかも後ろからぞろぞろ、家族全員集合ってどういう事?



「どうだったっ? どうだった??」

「・・・な、何が・・・?」

「飛んだんでしょっ? 薫くん以外の人の所にっ」


 身を乗り出して頬を紅潮させてお目々キラキラって、そうか、娘の成長がそんなに嬉しいのね・・。

 あたしは少し恥ずかしくなった。だって今まで屁理屈を付けては散々訓練、サボっていたからさ。

 お母さん、実はこんなにあたしの事を気にかけてくれていたんだ・・・。ちょっと反省・・。



「・・うん、まあ・・・」

「どんな子っ? かっこいい?」

「えぇ?」



 予想外の展開に聞き返してしまった。今、かっこいいって聞かれた?

 誰の事? 香取?


 家族の後ろから、ヒトミがヒョイッと顔を出した。あ、彼女ウチに来ていたんだ。


「おかえり」

「あ、ただいま」

「彼、どんな反応した?」

「え? なんでみんな知ってんの? あたしが男の子のとこに行ったって・・」

「何モンだよ、その香取レイってヤツ」


 ヒトミのすぐ隣で、お兄が腕を組んで滅茶苦茶不服そうに言った。

 あたしはその台詞を聞いて、目がまん丸になってしまった。



「えっ? 何で名前まで知ってんの?」

「この間、学校の塀に飛び乗った所を見られた男子生徒だろ?」


 あたしの目の前、お母さんのすぐ後ろで、お祖母ちゃんがビシッと言う。

 あたしは更に面喰った。


「何でそんな事まで・・・っ」

「こうなったらかえって幸いしたね、同一人物で」


 ヒトミにニヤッと笑われて、


「どうしてみんな・・・」



 唖然としていると、お祖母ちゃんの後ろ、お兄の前にいたお父さんが腕を組み、仁王立ちをしてすごく真面目な顔で言ったの。



「とにかくお父さんとしては、まずはキチンと相手の顔を見ないとな。真琴、彼をうちに連れて来なさい」



「はぁぁぁ??」

「はい、居間に移動」


 

 ヒトミの鶴の一声で、みんな予定されていたかのように踵を返し、またゾロゾロと居間に戻る。

 あたしは開いた口が塞がらなくって、ポカンと玄関に立ちつくした。








「真琴がいつか、薫以外の誰かの所にテレポテーションする、っていうのは、みんなが願っていた事なんだよ」


 ソファの端に座ったヒトミが、手すりに肘を乗せて腕を抱きながら、肩をすくめて面白そうに笑っている。

 あたしは床に正座している(何となく・・・)。

 お祖母ちゃんはその向かいのソファに座り、相変わらず背筋をピンと伸ばしてお茶をすすりながら言った。


「私は解っていたけどね。近いうちにこうなるって」

「どうして?」

「知らない? 真琴、段々、テレポの距離が長くなってきている事に」

「・・・あ」



 ヒトミに言われて、思わず小さく呟いた。言われてみると、そうだ。この間お兄の所に飛んだ時も、バスで移動しないといけない程の距離だったし、今日の香取んちは、水島さんの家からは多分、随分離れていると思う。



「回数が少なくなってきてたから、気付かなかった」

「それは成長して、飛び上がるほど驚く事が少なくなってきたからだけだよ」



 お祖母ちゃんはあたしに眼も向けずに言った。

 あたしは基本、ビクッと驚くとテレポテーションをしてしまっていた。だから小さい頃は脅かしっこなんて出来なかったし、ホラー映画や怖いドラマなんかも駄目だった。見ると、どこに飛んでいくか分からないからね。多分お兄の所に行くのだろうとは皆思っていたけど、確証は、ないでしょ?


 でも、距離が長くなってきたとは・・・?

 あたしはお祖母ちゃんを見た。



「つまりどういう事?」

「つまり貴方の能力は消えないって事」

「・・・ハタチになっても?」

「ハタチになっても」

「そんなぁ!」


 

 口から自然に、抗議の叫びが出ちゃったよ。だって聞いていた話と違うじゃんっ! 大人になったら無くなるって、いつも慰めてくれてたじゃんっ!


 なのにお祖母ちゃんは、そんなあたしの抗議も叫びも無視して、綺麗にお茶を飲みながら話を続けた。

 


「そうなると、薫以外の誰かを見つけて貰わないと困る訳なんだよ。私は始め、それがヒトミかと思っていたんだけど」

「何で困るの? なんでヒトミ?」

「一生のパートナーになるからさ。お前の能力を制御できる可能性のある、一生のパートナー。それが兄貴だなんて、お互い不幸でしょう。嫁に行けないよ?」



 あたしはもう、頭の中が?マークでいっぱいになった。

 あたしのテレポ先の人物が、あたしの能力を制御できる? だから一生のパートナー?

 それってあたしはこの先一生、誰か「人」の所に飛び続けるの? それでその人は常に同じ人物なの?

 そしてその人があたしの力を制御できるって、どういう事?


 色々聞きたい事があるんだけど、あまりにもありすぎるんだけど、だけどここはまず、一番気になるこの一言で・・・



「それがヒトミでも、嫁には行けないっつーの!」

「誰もヒトミの所に嫁に行けとはいってないだろ。女同士だから、四六時中一緒にいてもそれ程問題はないでしょう? それに幼馴染だし、この子なら理屈抜きで、あんたのコントロールの仕方を知っている」

「・・・・・」 


 

 お祖母ちゃんにビシっと言われる。

 あたしはよくわからなかった筈なのに、わからないなりに納得してしまった。確かにヒトミなら一生側にいられると思うし、彼女ならあたしのコントロール方を知っている。色んな意味で。


「薫はそもそもサイではないから、荷が重いんだよ」



 おばあちゃんがそう言うと、ヒトミの隣に座っていたお兄が少し、顔を歪ませた。悔しかったのか、プライドが傷ついた様な表情を滲ませる。

 そんなお兄をみて、こっちが膨れてしまった。

 だってさ、いいじゃん。こんなの要らないよ。お兄と交代してもらいたいって、何度思った事か・・・

 

 ・・・・・・・おや?



「・・・ちょっと待って」



 あたしは目を見開きつつも眉根を寄せて、お祖母ちゃんを見上げた。



「それって、香取がサイだと?」

「それはこれから調べないと。家族歴が無くったって、突然変異ってこともあるだろうからね」

「・・・そしてあたしは、香取を一生のパートナーにする、と?」

「無論」



 言葉も呼吸も失い、多分意識も失いかかった時に、ヒトミの面白そうな、明らかにこの場を楽しんでいる声があたしにトドメを刺した。



「嫁入り決定」



 酸素を吸うのに、15秒。



「何でっ!!」



 吸った酸素を全てこの一言に費やした。いや、費やすでしょ、叫ぶでしょ、何なのよこの展開はっ!


 お祖母ちゃんがうるさそうに、少し顔をしかめてあたしを見ながら言った。



「さっき説明したでしょ。お前が自分で飛んだんだから」

「何で香取っ!!」

「お前が選んだんだよ」

「あたし選んでないっ!!」



 もうね、何がどうなっているのか分からないんだけど、今この話を全力で阻止しなければ恐ろしい事態になると、あたしの本能が訴えているのっ!!

 だからあたしは立ち上がって、力いっぱい声の許す限り、騒いで騒いで騒ぎまくった。

 ヒトミが「おお、見事だ」と呟きながら嬉しそうにあたしを見上げているし、お兄は弱冠引き気味になりながら、憐みを込めてあたしを眺めている。お父さんは新聞を片手にテレビのリモコンに手を伸ばしかけて、お祖母ちゃんのお茶のお代わりを注いでいたお母さんにたしなめられていた。

 

 もう、何なのよぅ、みんなっ!!


 するとお祖母ちゃんが、何でも無い事の様に一言、とんでもない事を言い放った。



「お前の、カラダが選んだんだよ」

「・・・カラダ~??!」

「そう。カラダが、相性のいい相手を選んだのさ」

「ばあちゃん、刺激が強すぎる」



 お兄が片手を上げて、お祖母ちゃんを制した。



「こいつ、倒れそう」



 お願い、倒れさせて。




「とにかくっ。そういう訳で。お母さんは未来のまこちゃんの旦那さんを見たいの。お願い見せてっ」

「嫌っ」

「お父さんも見たい。いくらカラダの相性が良くったってな、甲斐性の無い奴の所には嫁には出せん」

「嫌っっ」

「私も見たいね。美形なら期待できるからね」

「絶対、嫌っっ」

「俺も見たいな。晴れてお役御免となった、救いの神だもんな」

「無理してますねぇ」

「嫌だってっば!」



 あたしは倒れた床から立ち上がると、思いっきり仁王立ちになって、うるさいギャラリーを恫喝した。

 


「みんなあいつの性格を知らないのよっ! 最悪なんだからっ! いくら顔が良くったって頭が良くったって運動神経が良くったって、性格が悪くて彼女がいるヤツの所なんかに嫁になんか行きたくないっ! 好きでもない人と結婚なんかしたくないってばっ」




 言いたい事を言って、事実を一気に述べてそこでやっと息が吸えて、ハーハーと肩を上下させていたら、

 お母さんが片手の手の平を口元にあて、目を丸くして言った。



「あらまあ、まこちゃんったら」





 ・・・あらまぁ、あたしったら? ・・・何ですか?



「あなた、好きな人がいるのね?」

 


 驚いた様に言われて・・・ゲ。マジ? そこ突っ込む?


「それで香取クンは、顔も頭も運動神経もいいんだ?」

 

 ヒトミにニヤニヤと言われて、あんたは口を閉じてろっ!


「なのに性格が悪くて彼女がいるのか」


 お父さんは腕を組んで目を閉じて感心した様に頷いて、何の役にも立たないのにチャチャだけ入れないでよっ!


「なんだよそれっ。嫌味な奴だな。どーしてそんなヤツを選んだんだよ、お前」


 お兄がものすごくイラついた様にあたしを睨みつけてくるんだけど、あたしのせいじゃないしっ。いや、あたしのせいだろうけど、そんなの知らないしっ。てか本気でコメントしてるのお兄だけだしっおかしいしっ。



 お祖母ちゃんは我関せず、マイペースを崩さずに、でも更にとんでもない事を言った。



「まあ、諦めなさい。その香取くんとやらを彼女と別れさせて、自分好みに育て上げるか、その思いびととカラダの相性を合わせるか、しかないでしょう」




 クラっ。視界暗転。


 

 ・・香取を、自分好みに、育て上げるだぁ~??

 思い人よっちゃんと、カラダの相性を、合わせるだぁ~??




「・・・どっちも無理っ。てか、カラダの相性を連発しないでぇぇっ」

「あ、逃げた」



 あたしは脱兎のごとく、リビングから飛び出した。



「逃げる時は、走るんだ」

「テレポしないって? 無理ですよ」



 お父さんの間抜けな一言とヒトミの慇懃無礼な突っ込みに、




「聞こえてるーっっ」



 泣きながらあたしは自室に飛び込んだ。泣くでしょ泣くでしょ、うら若き17の乙女がこんな仕打ちを受けたならっっ。

 みんな大っ嫌いだーっ!!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ