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サイなあたし達  作者: 戸理 葵
第二章 だから嫌なのにっ
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Beyond our control ・・・どうしようもない

お兄は、その場にいた女性全員から総スカンを受けた。2度目だ、ヤツが女子から無視されるのは。

とにかくお兄は、何にも気付かないお父さんがお風呂に入りに行った午後10時半までの約2時間、ずっとお風呂場にいたらしい。他に行き場が無いからね。出てきた彼はヒトミにひたすら土下座をして、ヒトミは微笑んだまま無言で、あたしの部屋に引っ込んだ。


お母さんはショックを受け過ぎて、お兄の顔をまともに見れないらしい。青い顔をしてひたすら目を合わせない。やたらと炊事に力が入っていた。

お祖母ちゃんは真逆で、ものすごく恐い顔でお兄を睨むと一言、「お前は部屋から出ないか、この家から出て行くか、どっちかにしな」と言った。極道みたいに怖かった。

そしてブツブツと独り言のように「バカにつける薬は無い、バカは死んでも治らない」と呟いて、自分の部屋に行ってしまった。


「くっそ、こんな目に会うなら、ちょっとでも見たモノ覚えておきゃよかった」

「お兄、聞こえているからね、心の声」


実はちゃっかり観察していたムッツリ変態エロオヤジでは無い事を、祈ろう。多分そこまでの面の皮の厚さを持ちあわす様な、度胸や機転が無いと思うから、大丈夫だとは思うんだけど。







あたしはベッドに、ヒトミは床に布団を敷いて寝た。

夜、消灯をして数分後に、ヒトミが呟いた。


「真琴さ、明日、行くの?」

「・・・・」


それは先ほどからあたしの頭を悩ませてきた事で、だからあたしは即答できなかった。


出来る事なら、行きたくない。

あの人達の所に、行きたくない。

怖いし、恥ずかしいし、みっともないし、・・・悲しいし。



「・・・薫が、夕方、言っていた事」

「・・・何?」

「イットを飼うなんて、ヤクザな連中だ、って話」

「・・・・」



確かに、あの新谷って言う人が急に牙をむいてきた時、物凄く恐かったのと同時に信じられない思いがした。

身内だと思っていた人が、敵だったと思えてしまったから。



「真琴の訓練話を聞いた時にね、調べたんだよ、流三会の事」


ヒトミが話だしたのは、水島さんのお家の事。あたしは訝しんだ。どうしたんだろう?


「あそこは・・・まあ、どこの組とかでも似た様な物なのだろうけど・・・被差別者が構成員の大半を占めるらしいんだ」

「・・・被・差別者?」

「習うでしょう、学校で。・・・部落だよ」



あたしはそれを聞いて、少し息を飲んだ。

全く経験の無いあたしでも、その類の話は読んだ事がある。その人達の歴史が本当に悲しくて、悲惨である事は、読んだ事がある。

きっと本当に酷くて辛かったのだろうなあ、と思うので、知っている、なんて言葉は使えない。


それくらいの常識は、あたしにもあるつもり。



「他にも、在日の人達。わかるでしょう、そういう人達が『普通の日本人』から受けてきた仕打ち」

「・・・うん。関東大震災の後の火災に対する、ウワサとかが有名だよね」

「そう。ひどいよね」


そこでヒトミは、しばし黙り込んだ。



「そういう人達の多くは、日本の中の一般社会で行き場・・・生きる場所がなくて、そんな彼らの面倒を見たのが現代のヤクザの元だ、って説。流三会なんかは、その筆頭であるらしい」

「・・・そうなんだ」

「薬物には手を出さない、とか、彼らなりのルールがあるみたいなんだ。あまり詳しく調べなかったから大した事は知らないけど」



暗闇の中、ヒトミがこちらに寝返りを打ったのがわかった。

顔を向けると、彼女があたしを見つめている。



「法を犯したり他人を傷つけたりする人達の、肩を持つ気はないよ。それが集団行動となると、尚更だよね。エネルギーが大きくなって、それらが人に与える恐怖心はハンパないと思うから」

「・・・うん」

「でもさ。社会全体から蔑まれ、弾かれ、受け入れてもらえない人達は、どうすれば生きていけるんだろう」

「・・・」

「私達も、そんな被差別者の一員だって気付いている?」

「・・・知ってる」



気付かれない様に、人目につかない様に、

隠れて、隠して、用心をして。

それは全部、この社会で生きていく為に必要な事。



「イットも私達も、普通の人達から見たら同じ側に立っている人間・・・生き物なのかもしれないよ」

「・・・」


ヒトミが『人間』を『生き物』と言いなおした事を、理解できる。

差別される人達は、心に、人間以下の扱いを受けた様に感じるだろうから。

それは学校生活におけるイジメにも言える事だろう。イジメって、差別の原型だと思う。



「イットも私達と同じ様に、目立たず生きて行く事に必死かもね。・・・悪意の無いイットってのが存在するのかは知らないけれど、それと悪意のある人間、どっちが恐ろしいんだろうね」

「・・・」

「そういう事で、じゃあおやすみ」

「ヒトミは訓練したの?」



あたしが聞いたら、ヒトミはビックリした様に再びあたしを見た。


「チカラの話?」

「うん。イットはサイの気が好物だけど、それはサイが訓練すればコントロール出来るってお祖母ちゃんが言ってた。ヒトミはまだ一度もイットを見た事が無いんでしょ? 訓練しているの?」


ヒトミはジッとあたしを見つめた。

あたしは待った。


「・・・気のコントロールになっているかどうかは分からないけれど、練習はしたよ。見ない練習」

「・・・見ない練習?」

「そう。ヴィジョンが突然襲ってきた時に、なるべく早く、見ない様に止める練習」

「うそ。いつの間に? どうやって?」

「そりゃ、自分の生活を守るためには必死になるでしょう、誰だって」



ヒトミが自嘲気味に苦笑する。

あたしは眉をひそめた。



「どういう意味?」

「見たくないのに突然、襲われるんだよ、その光景に。誰かの感情に引っ張られて、視覚分野でもシンクロしてしまうのかな? 最初はそれが、物理的にも心理的にも距離の近い誰かの、見ている光景だった。だけどそのうち、遠くのものも見える様になってきた」

「・・・例えば、何を?」

「例えば、親の喧嘩。例えば、親の浮気」



あたしは言葉が出なくなってしまった。固まってしまう。

そんなあたしを見て、ヒトミはクスッと笑った。



「家にいる時は注意していたんじゃない、向こうも。海外にいる親のそういうモノは、幼い頃は見ずに済んだし。・・・つまりはそういう事。背に腹は代えられないでしょう? 精神衛生上よくないもの」



あたしは胸が詰まる思いがした。知らなかった、彼女のそんな想い。そんな状況。

ヒトミには、必要な時に支えてくれる人がいなかったなんて。

あたしはヒトミの能力チカラが、自分よりよっぽど扱いやすくて楽なものだと思っていた。


とことん子供で甘かった自分が、心底情けなくなってきた。

あたしは本当に、お兄に、家族に甘えていた。今は周囲全体に甘えている。



なんて事だろう。



あたしは今晩眠れないな、と溜息をついた。

だけど一つだけ解った事がある。



あたしは明日も、水島家に顔を出すのだろう。

あーあ、こんな事って初めてだよ・・・。諦めよ。



今回、少しデリケートな問題が出てきます。

あえてコメントは控えさせていただきますが、否定を出来ない歴史がタブーとして眠っている事は確かだと思います。

差別は恐ろしく、世界中で今でも蔓延している事です。様々な形で存在しています。

しかしそれを無くすには、綺麗事では済まない、相当の努力と覚悟が必要だと考えます。


まず身近な所から、平らな心で人と付き合いたい、と考える作者です。



こ難しくなりましたね。引き続き、お付き合いを宜しくお願い致します!



戸理 葵

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