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婚約破棄をされてから特に何もしない公爵令嬢の話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/08/22

「アレクシア、婚約を破棄する。我は聖女と婚約を結ぶとする!」



 婚約破棄をされましたわ。王太子殿下の隣には平民出身の聖女。

 宰相閣下のご子息、王宮魔道師のご子息に、近衛騎士団の・・・


 おい、何で私の義弟がいるのかしら!


 まあ、いいわ。屋敷に戻ってお父様とお母様に報告ね・・・



「王太子殿下分かりました。後は王家と公爵家の話合になりますね・・」


 カーテシーをして去ろうとしたら。



「アレクシア様は悪くございません。殿下!私は目覚めました!」


 と近衛騎士団長の子息、ウェーバー様が私の元に駆け寄ったわ。




「ウェーバー、裏切ったか?」

「殿下、アレクシア様は悪くはありません!」


 まあ、私の味方に・・・

 散々、私を呼び捨てにして聖女の肩を持ったのに。



「さあ、一緒に屋敷に行きましょう。今後の事を話し合いましょう!」



 だから、私はウェーバー様の手を振り払った。



「馬鹿じゃなくて?」


 まず謝罪だろうが?!


 そのまま去りましたわ。


 背後で、ウェーバー様が袋だたきに合う音が聞こえましたわ。




 屋敷に戻ったら、お父様は既に知っていたわ。


「アレクシア、災難だったな。同級生の貴公子が知らせてくれた。ブッカー家のフォルカ君だったかな」

「学級委員だわ。前から兆候はありましたが・・」

「後はワシに任せなさい。クルトは返品だな」


 クルト、義弟だわ。メイド長の指揮で部屋を片付けられたわ。

 でも帰って来たわ・・意味が分からない。

 門で止められたわ。


「あれ、私を残した方が良いよ。王太子殿下に近いよ。王太子殿下と聖女様の結婚は王国のためになりますと義父上に伝えてよ」


 義弟なりに理屈があるのね。

 お父様は会わずに門衛に追い払わせた。


「クルト、もうお前は平民だ」

「そんなヒドいよ。今までは坊ちゃんと呼んでいたのにズルイ!」


「今までの公爵令息としての生活費を請求しないだけでも有難く思え」


 追い出されたわね。王太子宮に住み着いたと報告を受けたわ。

 冷遇されるでしょうね。



 

 翌日。私に来訪者が現われた。



「お嬢様、大変です。ウェーバー様が来られました」

「追い返しますか?」


「まあいいわ。会いますわ」


 護衛騎士とメイドと共に面会をした。

 顔を腫らしていますわね。まだ袋だたきの跡が痛々しく残っている。



「アレクシア様、実は私には前世の記憶があります。ここは軍人令嬢アレクシアという小説の世界です!断罪の途中で思い出しました」



 僕はアメリカ海軍メイビーシールズの訓練過程を知っています。

 アレクシア様を訓練し最強の軍人令嬢にさせて頂きます。

 対魔王軍の連合軍に参加して戦功をあげます。

 王太子殿下と聖女を出し抜けますよ。



 ・・・意味不明な事を言う。



「・・・・ねいびーしーるず?ウェーバー様はその騎士団出身ですの?」

「いえ、ミリタリーマニアです。調べました」


「では初めの訓練はどうしますの?」

「はい、僕は訓練教官です。まずお嬢様の意識を改革します」

「どうするのかしら」



「はい、【お嬢様は糞を垂れ流す糞虫だ!】【そのロール髪を口に押し込むぞ】と罵倒して貴族令嬢の意識を一度まっさらにして軍人の根性をたたき込みます」



「そう・・・」


 皆、プルプル震えているわ。今にも怒りそうなので私は場の空気を和ませるために質問をしたわ。


「では戦功をあげたとすると、その後、私はどうなるのですか?」

「はい・・数々の求婚を断り。僕を選びます・・・はい」


 ここまで来るとあれだわ。


「そう、ミキシムを呼んで下さる」

「はい、お嬢様」



 当家お抱えの回復術士を呼んだ。


「さあ、ウェーバー様、治療を受けて下さいませ」

「え、何で!」

「オ~ホホホ、お疲れのようですわ。後でお屋敷まで送らせます」



「待ってぇ、アレクシア様!親父からは勘当されたよ!」



 治療の後、護衛騎士に市井に放り出させたわ。

 ふう、きっと激しい派閥抗争でおかしくなられたのね。


 護衛騎士達に聞いたわ。騎士団でそんな罵倒をされるのかしら。


「ええ、ストレスに強い兵に鍛えるため経験豊富な訓練教官が行うのは事実です。

 しかし、ただ闇雲に罵倒をしません。兵を見ます。ウェーバー殿にそのような技量があるとは到底思えません」


「しかも、マンツーマンで軍事教練を?馬鹿ですか?集団で行うものです。戦友達で慰め合ったりしますね。それでバランスを取るのです」


「「断って賢明です」」


「そう、皆様も良く怒りをこらえて下さいましたわ」



 私はお父様の仰る通り。休学して屋敷に籠もる事にした。ウェーバー様のように悪鬼がついた者が近づいてくるかもしれないわ。




「アレクシア、しばらく屋敷内で暮らしなさい。分かっているね」

「はい、お父様」

「社交は母に任せなさい」

「分かりましたわ」



 王太子殿下とその取り巻きが馬鹿ではないと仮定する。

 必ずやダーリントラップや卑劣なワナをしかけてくるに違いない。


 社交会で飲み物に薬を入れられ暴行。貞操を奪う。

 ああ、アレクシアは淫乱であった。浮気をしていた。


 王太子殿下の婚約破棄はやぶさかではなかったのではないか?


 と噂を流したいのかしらね。

 王太子殿下の立場になって考える。手っ取り早い信用回復は私を堕としめる事だ。


 お父様とお母様に任せるべきだわ。



 しばらくは本でも読みながら過ごすわ。

 と思ったらまた来訪者が現われたわ。


「お嬢様、ミリア・グレース様が来られました」

「そう、お通しして」


 派閥の子だわ。確か男爵家の令嬢ね。

 一応、派閥の方々には危急の用事以外は来ないように通達しておいたのに・・・


 開口一番、変な事を言い出したわ。


「アレクシア様、実は私はモブ令嬢なのです。ここは男装軍人令嬢アレクシアの世界です。私は数々のイベントが起きてお嬢様を助ける役です。屋敷に引きこもったせいでイベントが起きなくてどうしたものかとお伺いしましたわ」


「そう、ミキシムを!」

「はい、お嬢様」



 またですわ。丁寧に治療して送り返しましたわ。

 ミキシムの見立てでは・・・



「ウェーバー様と同じで体には異常ございません。落ちつく治癒魔法をかけました」



「そう、お疲れ様ですわ。所見はございますの?」


 一度ならそんなこともあるかもだけども、二度も続けばさすがに王太子殿下のワナかと疑問が生じる。



「そうですね。冷静に狂っているとの表現が妥当かと愚考します・・・・」


 誰しも一度はあるはずです。この世界の主人公は自分ではないかと妄想します。


 私なぞ。勇者の託宣が自分に降りると妄想していました。

 父から回復術の修行を受けてもこの技で無双出来るスキルが授かると・・・



「・・・つい最近までこの歳まで頭の片隅にありました」


「まあ・・・よく話してくれましたわ」



 私は悪役令嬢だわ。物語の悪役令嬢に惹かれていたわ。

 悪役令嬢は孤高だわ。彼女達が悪役を演じるには何か理由があるはず。

 そして、真の理解者が現われて・・・2人は結ばれる。


「何てね。キャア」



「お嬢様、お客様です。フォルカ・ブッカー様です。如何しますか?」

「まあ、会いますわ」



 フォルカ様、伯爵家の令息で学級委員をされていますわ。


 護衛騎士、メイドと共に会う。



「アレクシア様、プリントでございます。後、ノートも取っております。私の拙い字ですが、ご参考にして下さい」


「有難うございますわ。・・・・ところでフォルカ様、お話はこれだけですの?」



 また、実は伝説の異世界の戦士だったとか言われたら困りますわ。


「はい、これだけでございます」


「では、授業のお話をして下さいますか?」

「もちろんです」


 学業は入学前に履修済だわ。でも、他の人から話を聞くと勉強が別の視点で見られる事もあるわ。



「・・・以上アレクシア様が休学されている間に進んだ授業でございます」

「有難うございますわ。ところで馬術に興味を持っていますの。教えて下さらないかしら?」


「ええ、公爵家には立派な騎士様がいらっしゃるのではないですか?護衛騎士様から習われればよろしいかと」

「実は、騎士様の馬術は高度すぎて・・ね?」


 護衛騎士を目力で押さえつける。


「はい、お嬢様の仰る通りです。当職の馬術は戦場で使う技ですから、初めはほどほどの方から習うのがよろしいかと・・・」


「分かりました。アレクシア様」


 楽しく学んだわ。

「ヒヒヒ~ン」


「キャア、お馬さんが頭を擦り付けてくるわ。可愛いわね」


「ええ、こいつら女性が大好きなのです。馬は種族として女性は優しいとすり込まれているようですね」


 あら、私が素敵だから懐いていると言わないのね。それがいいわ。



 フォルカ様と勉強をしたり馬術を習ったり楽しく過ごしたわ。

 お母様から社交会の報告を受けたわ。



「アレクシア、大変よ。やはり社交会に怪しい殿方達がいましたわ」

「まあ、お母様、大丈夫でしたか?」

「フフフフ、おばさんの私を見て口をあんぐり開けていましたわ。口説くつもりだったみたいだわ」



 また、状況が動き出した。


「アレクシアよ。王家から賠償金と慰謝料が出た。証書を確認してくれ」

「まあ、こんなに?お父様、どうされたのですか?」


「うむ。褒め殺しにした。聖女様は素晴らしい。選んだ王太子殿下も先見の明があるとな・・・」



 こんな素晴らしい聖女様を王都に置いてくのはもったいない。

 是非、戦場でご活躍するべきだとな。

 対魔王軍の連合軍に参加させるべきであると奏上した。


 王太子殿下はただの王子になり。聖女様のパートナーとして戦場に向かう。

 取り巻き達も同様だ。


「まあ、人族のために貢献されるのね。ご活躍をお祈りしますわ」


「甘いぞ。アレクシア、既に戦場では戦闘聖女フローラ様や転移聖女ヤスコ様など各国のネームド聖女様がご活躍されている。出し抜く事は無理であろう。

 だが、我が王国も聖女を出したと実績にもなる。と陛下を説得した」


「なら、王太子の地位は?」

「第二王子派にも接近した。すぐに王太子の交代の王命が下るであろう」


 そうね。第二王子殿下には婚約者がおられるわ。

 王太子妃教育で頑張った努力が無になるけども仕方ないわね。


「ところでだ。アレクシアの次の婚約者だが好きに選ぶが良い」

「はい、お父様」




 ☆☆☆王都出征パレード



 ムスッとした元王太子殿下と聖女様の取り巻き達をフォルカ様と一緒にお見送りしましたわ。



「頑張って下さいませ!」


 笑顔でお見送りしましたわ。


 その時だったわ。突然、フォルカ様が覆い被さったの。


「キャア、何を!」

「アレクシア様、危ない!」


 護衛騎士達もいたけども反応出来なかったわ。平民に紛れていたらからね。


「フォルカ様、何を・・・」

「ウゥ」


 気がつくと、フォルカ様の後ろにウェーバー様がいて、ナイフでフォルカ様の背中を突き刺していたわ。


「守ってくれたのね」

「ア、アレクシア様・・・」


「捕まえろ!」

「貴様!」



 貴公子だったウェーバー様は見るかげもない。薄汚れた平民の服を着ていたわ。


「何故、僕の言う事を聞かなかったんだよ!お前のせいで!お前のせいで!」


 裏切ったからどちらの勢力からも信用されなくて廃嫡されたと聞いたわ。


「フォルカ様!しっかりして・・グスン」

「アレクシア様が無事で良かった」


「お嬢様、離れて担架で運びます」


 近くの回復院についたわ。



「当家はリーベルス公爵家ですわ。お金はいくらかかっても良いですわ。最高の治療を施して下さいませ!!」


「はい!・・・・あれ、背中に皮鎧を着ています・・・よ」

「軽傷です」


 えっ?


「アレクシア様、良かった・・・」

「もう、心配させないで下さいませ!」


 ベッドから上体を起したフォルカ様の胸をポカポカ叩いた。


「あの、アレクシア様、傷に響きます・・」

「あら、ごめんあそばせ」


「お嬢様、軽傷とはいえ油断が出来ませんぞ」

「はい、先生、グスン」



 フォルカ様は私を自分の妄想に引き込まずに守ってくれていたのだ。


 さて、どうやってフォルカ様の人生に私を紛れ込ませるか思案中だわ。



最後までお読み頂き有難うございました。

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