第一話
破裂音、というより倒壊音というべきか。
ビルが崩れ、道は割れ、人は叫んだ。
どうして、何が起きた?
それは唐突に起こった。
こう言って誰が信じるだろうか。
地面から怪物の軍勢が現れて人を襲い始めただなんて。
「翔...にげ」
「美優!」
少女が異形の怪物に首を掴まれ、その儚い命が散りかけている。
「離せよ!おい!このクソ野郎がぁっ!」
少年は少女を助けようと勇気を振り絞り、怪物へ体当たりをするが怪物は微動だにしない。
「...このような脆弱な力で」
そう呟いた怪物は少年を一瞥し、ハエを払うように少年を軽く払った。
「ゴッ...!」
少年はまるで体重など無いように吹き飛ばされ、瓦礫の山にぶつかった。
「ああ...翔...」
「...み..美優...」
力無く手を伸ばす少年、その視線の先では怪物が少女の首を爪楊枝を指で折るかのように呆気なく、ただ呆気なく手慰みの一つかのように折って捨てた。
少年の脳は薄れゆく意識の中で、その瞬間だけを鮮明に記憶していた。
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後に【第一次アルバトロン侵攻】と呼ばれる人類史最大の災厄。
全世界を襲った災厄から4年、世界の形は大きく変わった。
かつてEUと呼ばれた国家連合は崩壊した。
日本の東京、中国の北京、アメリカのワシントン、ロシアのモスクワ、イギリスのロンドン、フランスのパリ、オーストラリアのシドニー、ジャカルタ、デリー等。世界の都市はある日突然未知の軍勢の攻撃を受けた。
アルバトロン帝国
そう名乗った侵略者は唐突に表出した。
被害を受けたどの国の国民も皆同じ言葉を口を揃えてこう言った。
『足下から突然現れた』
そう、彼らは地下から現れたのだ。
銃弾を避ける速度。
地を割る膂力。
翅を広げ空を飛ぶ。
そして何より恐ろしかったのは、あの怪物達が軍隊のように統制されていた事だ。
まるで虫を思わせる姿形、人間が根源的に忌避感を覚えるようなその姿は、地上に生きる人類には恐怖しか感じられなかった。
それでも人類の用いる兵器が完全に通じなかった訳では無いが、そもそも攻撃が当たらない。
当たればその強靭な肉体に傷をつける事は出来たが、決定打にならず各国の軍はその事実にも混乱した。
混乱のまま各国の軍は敗走し、その状況でEUは自らの都市にミサイルの雨を降らせた。
このままコイツらをのさばらせて人類が蹂躙される位なら...と、そんな極端な思考になってしまった軍の高官は何もかもを灰にすべくミサイル発射を命じた。
灰になった国に立ったのは果たしてアルバトロンであった。
それも無理はない、何せ地下深くが彼らのテリトリーなのだから。
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2026年3月
あの日から4年。
世界は変わった。
星崎翔の時間はあの日から止まったままだった。
今でも夢に見るあの日の光景。
美優が殺され。
街が壊され。
人は泣き叫び。
異形の怪物が蹂躙する。
--そんな夢を。
「翔!聞いてんのか!」
「.....あ」
怒鳴り声で翔は顔を上げた。
目の前には腕を組みした料理長がいた。
「この忙しい時にボーッとしてんな、オーダー入ってんぞ」
「...すみません」
アルバイト先の店は昼のピークタイムで忙しい。
「頼むぞ」
料理長はそう言い自分の持ち場へ戻っていった。
やがてピークタイムは終わり店は昼の営業を終えて片付けに入っていた。
「なあ、聞いてるか?」
「何が?」
「あの予備役訓練の通知、お前も来たのかって」
翔が皿洗いをしているとスタッフ達がそんな話をしていた。
翔も今朝家の郵便受けに封筒が入ってた事を思い出した。
「嫌だねぇ、徴兵って事だろ?」
「...しょうがねえだろ、こんなご時世だ」
「料理長は対象外だから関係ないかもですけど、こんなめんどくさい事嫌ですよ、何か怖いし」
そんな話を耳にしながら翔は興味無さげに淡々と皿を洗っていた。
バイト上がりにコンビニで弁当を買って帰る翔。
自宅であるアパートの部屋に着き荷物を置く。
タンスの上で伏せたままの写真立てを一瞥し、ため息を吐く。
ベッドに腰掛けテレビを点ける
『先日発表された国連軍の予備役訓練制度ですが--』
翔は郵便受けに投函されてた封筒を思い出し、封筒を確認した。
《国連軍予備役訓練のお知らせ》
《対象18〜35歳》
等日時と場所が書かれた簡素な通知書だった。
「めんどくさいな...」
捨てようとしたが通知書の下に
《尚不参加者は国連法に基づき処罰対象になります》
その文言を目にしてうんざりした。
通知書を放り投げてベッドに寝転び、買った弁当も手に付けずにそのまま眠ってしまった。
通知書にはこうも書かれていた。
《当日は訓練前に検査がありますので、飲食はお控え下さい》




