第8章
【ジム&ジョアナ・フェリス夫妻の自宅にて】
(コロンボ警部、ジョアナ夫人のためにオムレツを作る)
ジョアナ:「・・・欲しくないの。
せっかく作っていただいても、食べられるかどうか、わからないわ。」
コロンボ警部:「気にしない、気にしない。
・・・あたしゃ、『最低のコック』でねぇ。
ま、食える食べ物は、たったひとつ・・・『オムレツ』なんです。女房いわく、ですがね。
卵の殻を入れるもんは・・・?」
ジョアナ:「戸棚の中に。」
コロンボ警部:「・・・そう。」
ジョアナ:「おなかが空かないの。」
コロンボ警部:「まぁ、突っついてみてください。
おいしくなかったら・・・捨ててもいいから。
ちょっと『変わったオムレツ』なんですよ。
いろいろと・・・ブチ込みます。
っと・・・フライパンは?」
ジョアナ:「そこにあるでしょう。
はぁ・・・あなたには『根負け』しちゃったわ。
・・・申し訳ないから、コーヒーでも淹れようかしら。」
コロンボ警部:「チーズに玉ねぎに・・・それから、バターと・・・。
えーっと、チーズ卸すものありませんか?」
ジョアナ:「・・・下の戸棚にあるわ。」
コロンボ警部:「はぁ。OKぃ。」
ジョアナ:「主人は、どうなっているのかしら?」
コロンボ警部:「・・・心配ですなぁ。」
ジョアナ:「死体がないんですから、『まだ生きてる』って望みもあるわけでしょ・・・?」
コロンボ警部:「断言はできないけど・・・『希望』はあるでしょうなぁ。
ひょっとするとご主人、誰かに誘拐されたのかもしれない。」
ジョアナ:「・・・誘拐犯人がなぜ発砲したんです?」
コロンボ警部:「あなた、なぜ笑いました・・・?」
ジョアナ:「いつ?」
コロンボ警部:「(私が)エレベーターの前で、フランクリンのこと尋ねたとき。」
ジョアナ:「あら、笑ったかしら。」
コロンボ警部:「・・・はい。」
ジョアナ:「『言い方』が、おかしかったからでしょ・・・『コンビ』だなんて。
これは秘密なんですけど・・・ケンは、『メルヴィル夫人シリーズ』を1行だって書いていないんです。」
コロンボ警部:「は・・・? 『メルヴィル夫人』って?」
ジョアナ:「主人とケンが産みだした探偵で、どんな難事件でも解決しちゃうんです。」
コロンボ警部:「はぁ、なるほど・・・。
よく辛抱してますなぁ、お宅のご主人は。
相棒がなんにもしないのに。」
ジョアナ:「・・・役に立たないわけじゃないわ。
出版社と交渉したり、テレビに出演したり・・・インタビューに応じたり、映画会社に売り込んだり・・・。
そりゃ、『やり手』なの。
文章は苦手だけど。」
コロンボ警部:「はぁ~あ。あたしも『才能』さえあれば、作家になりたいなぁ・・・。
『題材』はどこで拾うんです?」
ジョアナ:「・・・身の回りの『あらゆること』。
雑誌とか・・・会った人とか。
新聞記事とか・・・そして、思いついたことは、手当たり次第に『メモ』しておく。
・・・マッチ箱や、タバコのケースの上に。」
コロンボ警部:「トリックの凝った作品が多いでしょうね?」
ジョアナ:「ええ。」
コロンボ警部:「真剣になって読んでも、滅多に犯人が当たらないから、悲しくなっちゃう。」
ジョアナ:「ええ、『作り物』だから。
・・・主人が嫌気が差したのも、きっとそのへんね・・・。」
コロンボ警部:「つまり・・・『ミステリー』に?」
ジョアナ:「ええ。
・・・『シリアスなもの』、書き始めたの。」
コロンボ警部:「ほぅ。
フランクリンさんは、反対したでしょう・・・?」
ジョアナ:「ええ、最初は。
でも、結局、別れたわ。」
コロンボ警部:「はぁ、そいつはコトだったでしょう。」
ジョアナ:「何が・・・?」
コロンボ警部:「フランクリンさんにとっちゃあ、『新しい本』が出なくなって、収入が減るだけじゃない。
『流行作家』としての影まで、薄くなっちまうわけだ。」
ジョアナ:「・・・世間も、変に思うわね。
ひとりになって、何も発表しなかったら。」
コロンボ警部:「ご主人はもう、書き出してるんでしょう・・・?」
ジョアナ:「ええ。」
コロンボ警部:「はぁ・・・。
あたしは、フランクリン先生に同情したいなぁ。」




