最終章
【ケンとジムが使っていたオフィスがあるビルにて】
(ケンが車でやってきて、ビルの真下に停車)
(ケンは、ジムが死んだのをいいことに、オフィスから、必要なものをすべて、よそに持ち出そうとしていた)
(そこには、その荷物を運搬するために呼ばれた、運送屋のトラックのドライバーが待機していた)
ケン:「きみ・・・『803号室』の荷物を運びに来たんだろ・・・?」
ドライバー:「ああ。」
ケン:「もう、済んだのかね。」
ドライバー:「これからですよ。」
ケン:「だいぶ前に(ここへ)来たんだろう?」
ドライバー:「もう、30分も待ってるんでさぁ。
ちょいと中の連中に、どうなってんのか、訊いてきてくださいよ・・・。」
ケン:「30分も・・・?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【オフィスの中】
(ケンがエレベーターを降りると、複数の警察官が待機していて、そのうちの一人は、ケンの動きを目で追っていた)
(ケン、すこし、「及び腰」ながら、803号室へ)
(部屋の奥のデスクでは、コロンボ警部が座って待ち構えていた)
ケン:「・・・なにしてる。」
コロンボ警部:「あぁ・・・お邪魔してます。
『メルヴィル夫人シリーズ』の最後の1冊を読ませてもらってたんですよ。」
ケン:「そんなことを訊いたんじゃない。」
コロンボ警部:「・・・あなたを待ってたんです。
ちかくまで来たもんで。」
ケン:「とぼけるのもいいかげんにしろ!
どういうわけで、荷物を運び出すのをやめさせたんだ。」
コロンボ警部:「あぁ・・・勝手にあんなことして、すいません。
あなたとゆっくり・・・お話をしたいと思いましてね。」
ケン:「君に話すことなんかない。」
コロンボ警部:「いや、そっちになくても、こっちにはあるんですよ。
『相棒殺しの容疑』で、逮捕しに来たんですから。」
ケン:「あぁ??」
コロンボ警部:「役目上、言いますが・・・『憲法で保障された人権』により・・・」
ケン:「よしてくれ。
そんな『決まり文句』は、作品の中で何度書いたか、わかりゃしない。
・・・それより、ぼくを逮捕するなんて、気は確かか・・・?」
コロンボ警部:「おたがいに『やっかいな思い』をするだけだ。
素直に『罪』を認めたらどうです。
・・・もう、証拠はそろってるんだ。」
ケン:「おぅ、たいしたもんだ。
それじゃ、逮捕してもらおうじゃないか。
(両手を前へ突き出して)さぁ、手錠をかけたまえ。
・・・しかし、これだけは、はっきりと警告しとこう。
こんなことをすれば、苦い思いをするのはそっちだぞ。
『不当逮捕』で逆に提訴して、泣きっ面をかかせてやるからな。」
コロンボ警部:「あたしだって、ある程度は『法律』を知ってる。
・・・そんな『ドジ』は踏まないよ。
決定的じゃないが・・・『証拠』もいくつかある。
事件当日、飛行機で戻ってくるべきところを車で戻ってきたこと。
『郵便』を見たこと。
10年来の相棒を失ったのに、『毛ほども』取り乱さなかったこと・・・。」
ケン:「ふふん・・・なんだ、ハナシにならんじゃないか。
法廷じゅう、吹きだすのがオチだぞ。」
コロンボ警部:「じゃあ、あんたたちが互いに、多額の『生命保険』を掛けあってた事実も、証拠として提出しよう。
それから、たった2日のあいだに、『1万5千ドル』を銀行に出したり入れたりしたこと。
もうひとつは、ご丁寧に『サイン』をしてミス・ラサンカに贈った本。」
ケン:「そんなつまらん証拠で、ぼくを有罪にできるかな?
・・・忘れちゃ困る。
ぼくは、サンディエゴにいたんだぞ。」
コロンボ警部:「死んだ相棒も、だ。」
ケン:「こいつは『飛躍』したもんだな。
・・・証明できるかね?」
コロンボ警部:「ああ。『目撃者』はいない。
あんたに殺されたから。
・・・だが、証明の方法は他にもある。」
ケン:「おもしろいね・・・。
ロクなカードも持たずに大勝負をかける、『ヘタなギャンブラー』を見てるようだ。」
コロンボ警部:「・・・それでけっこう。
だまって聞いててもらおう。
会ったとたんに、『犯人はこの男だ』って思ったけど・・・正直いって、最初は手も足も出ない感じだったよ。
いくら考えても・・・トリックがわからなかった!
・・・最初の殺人は、実に見事だ。
『電話のトリック』、オフィスで仕事っていう『口実』・・・たいしたもんだ。」
ケン:「・・・小説にしたら、売れるかな?」
コロンボ警部:「もちろん!
ところがところが・・・。
『第2の殺人』は、お粗末もいいところだ。
メルヴィル夫人が聞いたら・・・それこそ、『お冠(= お怒り)』だ。」
ケン:「要点だけに絞ってくれ。
・・・聞き手は『推理作家』だぜ。」
コロンボ警部:「さぁ・・・。
本当に『推理作家』かな?
・・・問題はそこだ。
あんた、作家じゃない。
ガイシャの奥さんの話じゃ、あんた、一行も書いてないそうじゃないか。
・・・『なんにも書けない物書き』なんてあるかね。」
ケン:「でたらめだ。」
コロンボ警部:「そこで、あたしゃ考えたね。
ミステリーも書けないような男に、『巧妙な犯罪』が仕組めるかってことをね・・・。
『考える』っていう点じゃあ、ミステリーも犯罪も、ちがいはないよ。」
ケン:「・・・まぁ、先を続けたまえ。
バカバカしくて、おもしろい。」
コロンボ警部:「そんでわかったことは、最初の・・・『巧妙な犯行』は・・・あんたの発案じゃない。
2番目の『間の抜けたの』が・・・自作だって、ね。
・・・あまりにも、差が大きい。」
ケン:「ほぅ・・・。
それじゃ、誰のアイデアだね。」
コロンボ警部:「『相棒』さ・・・もちろん。
奥さんの話から、彼は『仕事熱心』で、新しいアイデアを思いつくと、すぐ、タバコのケースとかマッチ箱とかにメモしておいて・・・」
ケン:「あーー、それでここに、『家探し』に来たのか。」
コロンボ警部:「そういう作家なら、きっと、アイデアを『ファイル』してあるはずだ。
(ジムが生前に書いたメモのひとつをケンに見せながら)コレはガイシャの筆跡だろう・・・?
鑑定を頼めば、すぐわかる。
・・・ひとつ、読んでみようかね。
『メルヴィル夫人用・完全犯罪のトリック:AがBを殺すに際し、Bを郊外の別荘に連れていき、自宅の女房に電話させる。追い込みの仕事でオフィスにいる、と。そして、ズドン!』
どうだね。このとおりだろう?
・・・あんたのやったこたぁ。
先、読もうか?」
ケン:「(観念したように)
・・・けっこう。」
コロンボ警部:「(待機させていた警官のひとりに向かって)おい、君!!
(ケンに)・・・いまの『自白』と認めていいだろうな?」
ケン:「(落ち着いた様子で、ニヤニヤしながら)謎を解くのに、頭を痛めただろう。」
コロンボ警部:「そりゃあな。」
ケン:「ふっ・・・君はひとつ、考え違いをしている。
そりゃ、『ぼくのアイデア』さ。
・・・ぼくのでいいのは、それだけだ。
5年前にジムに話したおぼえがある。
ふっふっふ・・・。
わざわざメモしとくなんて、バカなやつさ。」
(ケン・フランクリン、警官に連行される形で、部屋を出ていく)
(コロンボ警部、またもしぶい顔で葉巻を吸いながら、それを見送る)
(警部も、『メルヴィル夫人シリーズ』の最後の1冊を持って部屋を出ようとし・・・途中で、飾ってある、メルヴィル夫人が描かれた、油絵の『肖像画』をしばし眺め・・・映像がフェードアウトし、物語は終了となる)
~ 劇終 ~




