第17章
【夜の暗闇の湖にて】
(手漕ぎボートにラサンカの「虫の息の半死状態の肉体」を乗せ・・・ケンが湖の中央付近へ)
(そこで彼は、ラサンカと、彼女を殴ったシャンパンボトルとカラのボトルとを水中に投げ捨てた)
バシャッ!!
(そのあと、乗ってきたボートを自分でわざとひっくり返して、さも、ラサンカが転覆して、湖に落ちたように見せかけ、泳いで岸まで戻る)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【翌朝の湖のほとりにて】
釣り客1:「・・・(死体は)どんな男だって?」
釣り客2:「中年の女だって話だ・・・このへんに住んでる。」
釣り客1:「・・・そうかい。
気の毒になぁ。
しかし、なんだって、一人で湖に出たりしたんだろうねぇ。」
釣り客2:「さぁ・・・わからんなぁ・・・。」
(そこへ、釣り客のようなフリをしたケンが、のこのこと顔を出し、警察が湖中の様子をさぐるのを、「ひとごとのように」あくびしながら眺めたりする)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【ケン・フランクリンの、湖畔の別荘にて】
湖から戻ったケンを待っていたのは・・・
(コンコンコンコン)
コロンボが、別荘のガラスをノックする。
コロンボ警部:「・・・おはよう。」
ケン:「(意表を突かれた表情で)やぁ、コロンボさん・・・
『おかしなとき』に『おかしなところ』へ現れるじゃないか。」
コロンボ警部:「どうもどうも。
勝手に入ってきて、すいません。
・・・木戸のカギがかかってなかったもんで。」
ケン:「いや、いいさ。
(君の)車を見なかったが、『魔法のじゅうたん』にでも乗ってきたのかね。」
コロンボ警部:「いやあ、木陰に停めてきたんですよ。
日に照らされると、あとでたまらないから。」
ケン:「なるほどね。
・・・それより、こんなところへ何しにきた。」
コロンボ警部:「あなたやフェリスさんの奥さん(= ジョアナ)から、そりゃあ、(この別荘が)すばらしいところだって聞いたもんで、いっぺん来たくなっちまったんですが、やっぱり来てよかった。
・・・想像してたより、ずっとすばらしい。
眺めも空気もいい。」
(ケンとコロンボ警部、ベランダに出る)
コロンボ警部:「実は・・・ちかいうちに2週間、休暇が取れるんで、どっか『保養』に行こうかと思ってるんですがね。
・・・このへん、どうでしょうかなぁ。
『貸し別荘』といったようなものは、ありますかねぇ・・・?」
ケン:「そんなつまらんことで、ロサンゼルスからはるばる車を飛ばしてやってきたのかね?」
コロンボ警部:「ええ、まぁ、そんなところです。」
ケン:「それなら、『無駄足』だよ。
このへんの別荘は、警察官の給料じゃ、おそらく借りきれないだろうし、たいていもう・・・買い手が決まってるよ。」
コロンボ警部:「へぇ~・・・そんなもんですかねぇ?
まずいな、そいつぁ・・・。
女房がガッカリするだろうなぁ・・・。
(ここは)家族連れにちょうどいいんですがねぇ。」
ケン:「ああ、静かだからね。」
コロンボ警部:「・・・さっき、この先で『人だかり』がしてたけど、なんですかねえ・・・?」
ケン:「『溺死人』が出たんだよ。」
コロンボ警部:「漁師かなんかですか?」
ケン:「いや、『女性』だそうだ・・・このあたりの。」
コロンボ警部:「あぁ? 『ラサンカさん』って人かな・・・?」
ケン:「そうそう、そんな名だ。」
コロンボ警部:「やっぱり・・・。
・・・お知り合い?」
ケン:「いやいや。」
コロンボ警部:「さっき台所のぞいたら、そんな名の付いた箱が置いてあったようですけども・・・」
ケン:「そりゃあそうさ。
このへんで食料品を売ってるのは、あの店だけだからね。」
コロンボ警部:「ほぉ~お・・・。
やっぱり、あそこの女主人ですか。
さっき、タバコ買いに寄ったら、店は閉まってるしパトカーが停まってるから、変だなって思ったんですよ。
『溺死』なんて、気の毒になぁ・・・。」
ケン:「ああ、気の毒なことしたよ。
感じのいいおばさんだったんだがね。」
コロンボ警部:「ん-・・・そうですか。
(彼女を)知ってたんですね?」
ケン:「知ってはいても、『知り合い』とは言えない場合もあるだろう。
たとえば・・・洗濯屋とか床屋とかウェイトレスとか・・・。
まだ、君の場合・・・『その一人』さ。」
コロンボ警部:「はっははは・・・そういえば、ま、そうですなぁ。
しかしどうしてまた、中年のご婦人の身で、夜明け前の暗い湖へ一人で舟を漕ぎ出したりしたんでしょうなぁ・・・『正気の沙汰』とは思えませんねぇ・・・。」
ケン:「いやいや、まんざら、そうともいえないんだ。
・・・このへんじゃ、ふつうのことさ。
早起きして・・・湖へ釣りに行く・・・これも『楽しみ』でね。
みんなやってるんだよ。」
コロンボ警部:「そうですか・・・。
すいませんねぇ、せっかく『俗世間』を離れて保養に見えたのに、あたしみたいな『無粋なの』が押しかけて・・・。」
ケン:「いやいや、とんでもない。
ちょうど、退屈してた。
(コロンボの肩になれなれしく手をまわして)なんなら、いっしょに『潜水』でもしたいところなんだが、キミはスポーツが得意そうじゃなさそうだな。」
コロンボ警部:「そうなんですよ・・・女房は得意なんですがね。」
ケン:「ほう。」
コロンボ警部:「いやぁ、やっぱり、いまから別荘を借りようと思っても無理ですかねぇ・・・。」
ケン:「町まで降りて、不動産屋にでも訊いてみたらどうだね。」
コロンボ警部:「ああ。
昼間は釣りをしたり泳いだり、楽しみはいくらでもあるんでしょう?
でも、晩は何をして過ごすんです・・・?」
ケン:「なんにも無いな、夜は。」
コロンボ警部:「パーティーも無いんですか?」
ケン:「本を読むか、寝るかさ。」
コロンボ警部:「ほぉ~、もしそれが本当なら・・・今日みたいに突然来なくても済んだのに・・・。」
ケン:「・・・どういうことだね。」
コロンボ警部:「いや、あなたの都合、訊こうと思って、ゆうべ(この別荘に)電話したんだけど・・・誰も出ませんでしたよ??」
(ケン、神妙な顔でコロンボを見送る)




