第15章 :とりあえず、ここまで。
【コロンボ警部、ケン・フランクリン邸へ】
(ドア・チャイムが鳴る)
キンコンカーンコーン
召使いのおばさん:「・・・はい。」
コロンボ警部:「(先日、ケンから借りた『メルヴィル夫人シリーズ』の本の山を両腕で抱えながら)先生、ご在宅・・・?」
召使いのおばさん:「・・・いま、来客中ですけど、どちらさまでしょう?」
コロンボ警部:「警察の『コロンボ警部』です。」
召使いのおばさん:「あぁ。・・・お待ちになりますか?」
コロンボ警部:「はい。」
召使いのおばさん:「・・・すぐ済むと思いますわ。」
コロンボ警部:「・・・はい。」
(コロンボ警部、ゆっくりと部屋の奥へ。
だが、途中でシャンパンのボトルが2本、テーブルの上に載っているのに気づく)
ケンの小声:「・・・じゃあ、よろしいですね?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
雑誌の女性インタビュアー:「おいそがしいところ、本当にありがとうございました。
お写真、撮らせていただきたいんですけど・・・。」
ケン:「どうぞどうぞ。
・・・インタビューに応じたのは、お宅の雑誌にはいろいろ、世話になってるからですよ。
もっともそれは・・・『第2の理由』だけど。」
雑誌の女性インタビュアー:「すると・・・『第1の理由』は・・・?」
ケン:「インタビュアーが、『魅力的』だってこと。」
雑誌の女性インタビュアー:「(照れくさそうに)うっふふふ・・・。」
(コロンボ警部、持っている本の山を、部屋のへりに『ゴンッ!』とぶつける)
ケン:「(コロンボ警部に向かって)ご覧の通り、『来客中』なんだが、なにか用かね。」
コロンボ警部:「えぇ・・・。
もしよかったら、ほんの2、3分・・・」
ケン:「・・・じゃあ、そっちで待っててくれたまえ。
こっちは、まもなく済むと思うから。
(インタビュアーに)ほかにも質問はありますか?
・・・いや、遠慮はいらないよ。」
雑誌の女性インタビュアー:「おそれいります。
それじゃあ、もうひとつだけ、うかがいます。
・・・『メルヴィル夫人シリーズ』がこれからどうなるかが、ファンには気がかりなんですが。」
ケン:「・・・『パートナーの死』とともに、夫人も葬るつもりです。」
雑誌の女性インタビュアー:「ん-・・・お気持ちはわかります。
でも、愛読者のためにも・・・書き続けていただけません?」
ケン:「そりゃ、書こうと思えば書けるけど・・・亡くなった友人を、『冒涜』したくない。
・・・ふたりで産みだし、ふたりで書いたシリーズだからね。
わたし自身・・・創作を続けていくかどうか・・・決めかねてるんだ。」
(その会話の間にも、コロンボ警部はさりげなくケンを背後から観察し、しぶい顔で葉巻をくわえながら、借りた本をテーブルに置いたりしている)
雑誌の女性インタビュアー:「・・・ぜひ、書いていただきたいわ。」
ケン:「ありがとう・・・なるべく、そうしよう。
じゃ、これくらいで・・・。」
雑誌の女性インタビュアー:「わかりました。
(連れてきたカメラマンの若い男に)ハービー、失礼しましょう。」
(ケン・フランクリン、女性インタビュアーの肩に、なれなれしく手をまわして、仲良く二人で歩きながら)
ケン:「・・・もうすこし落ち着いてから、一度ゆっくり、『いまの心境』などをお話したいですね。
(女性の腰に手をまわして)今日はせわしなかったし・・・語り尽くせなかったから・・・。」
雑誌の女性インタビュアー:「ぜひ、お願いしますわ。
・・・『お電話』さしあげます。」
ケン:「ああ。待ってます・・・来週にでも、ね。」
(ケン、玄関先で、女性の右手の甲にキスをする)
ケン:「さよなら。」
雑誌の女性インタビュアー:「・・・お邪魔しました。」
ケン:「(カメラマンがいるのを忘れていて)・・・あぁ、どうも失礼。
ご苦労さん。」
(ケン、ドアを閉めて、コロンボ警部へ向き直る)
ケン:「さて、うかがおうか・・・。
今日は、なんだね?」
コロンボ警部:「(残りの半分の本を抱えたまま)本を返しにきたんですが・・・。」
ケン:「そいつはどうも。
・・・そこらに置いてくれたまえ。」
コロンボ警部:「あぁ・・・おせじを言うわけじゃないけど、一度読みだしたら、やめられませんねぇ。
おもしろいのなんの。
『探偵』が気に入りましたよぉ・・・なんちゅうか、『発想』が独創的だし、実に(頭が)キレる・・・天才ですな、ありゃあ。
ほんのちょっとしたヒントから、ズバリ・・・」
ケン:「警部・・・。
あんたの『ご高説(=すぐれた意見のこと)』もゆっくり拝聴したいけれど、ぼくはいまから、出かけるところなんだよ、キミィ。」
コロンボ警部:「あぁ~・・・そいつはまずいところへ来ちゃったなぁ・・・。
・・・遠くへいらっしゃるんですか?」
ケン:「ああ。疲れたから、サンディエゴの別荘へいこうと思ってね。
なにか、『さしつかえ』があるかな・・・?」
コロンボ警部:「い~やぁ、とんでもありません。
こちらこそ、いろいろと気がつかなくって・・・。」
ケン:「いやいや。」
コロンボ警部:「・・・自分でもわかってるんですよ。
こんな調子だから、人に嫌われるんだ、『しつっこすぎる』んだってね・・・。
でも、しょうがないんです、これは。
『性分』だから。
・・・休養には、おひとりで??」
ケン:「どうしてそんなことを(訊くんだ)?」
コロンボ警部:「・・・シャンパンが(テーブルに)2本あるでしょう?」
ケン:「あぁ、あれか。
いやぁ・・・ぼくは酒に目のないほうでね・・・。
あれぐらいは、ひとりで『ぺろり』さ。
・・・それじゃ、そろそろ出かける時間なんだがね。」
コロンボ警部:「あ・・・いやいや。
時間は取らせません・・・もうひとつだけ。
実は、あなたにもらった、例の『リスト』の件ですが・・・」
ケン:「(コロンボを見ずに)ほぅ。
・・・なにか、わかったかね。」
コロンボ警部:「いいえ・・・全然。
あんたが言ってたとおり、みんなクチが堅くて、どうにもならんのですよ。」
ケン:「特殊な世界だからね。
・・・さて。
これで失敬するよ。」
(自宅のそとへ出たケンは、例のシャンパン2本を持って、愛車へ)
(コロンボ警部、そこまでしつこくついてくる)
コロンボ警部:「(玄関のドアを開けながら)フランクリンさん。」
ケン:「えぇ?」
コロンボ警部:「・・・もうひとつだけ。」
ケン:「(歩きながら)大事なことかね。」
コロンボ警部:「ええ・・・サンディエゴの電話局に、ちょっと問い合わせてみたんですがねぇ・・・。」
ケン:「(振り返って)・・・なぜ、そんなことをしたんだ。」
コロンボ警部:「特別な理由はありませんよ。
・・・『犬も歩けば』式に、いろいろとやってみるだけですよ。
とにかくあんたは、事件当日、別荘からロサンゼルスに電話をかけてますね?
・・・それも、亡くなったジムさんの自宅のほうへ。」
ケン:「ああ。
『なんのためにかけたか』、説明しろっていうんだな?」
コロンボ警部:「ええ、できれば。」
ケン:「・・・お安い御用さ。
あの日、オフィスにたずねていって、ジムと仲直りしたことを奥さんに報告したんだよ。
今度のことで、ジムとのあいだに『ひと悶着』あったんだが・・・奥さんが、しきりに気に病んでいたもんでね。」
コロンボ警部:「・・・なんです、『ひと悶着』って。」
ケン:「ジムが急に、『ひとりで書きたい』って言いだしたから、ぼくもはじめは怒っちまったんだよ。
彼の本当の気持ちが分かったんで、すぐに納得したがね。
・・・これで、『説明』になるかな?」
コロンボ警部:「はい・・・よくわかりました。どうも。」
ケン:「ああ、じゃ、もういいか?」
コロンボ警部:「ええ、けっこうです。
・・・どうも。」
ケン:「そいじゃ。」
コロンボ警部:「それじゃ・・・いい休暇を。」
ケン:「どうもありがとう。」
(ケン、愛車に乗り込む)
コロンボ警部:「・・・運転は慎重に。」
ケン:「事故は起こさんよ・・・安心したまえ。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
(※)いらん『こぼれバナシ』:以下は・・・ケン・フランクリン役の『ジャック・キャシディさん』について。
ジャック・キャシディ (本名ジョン・ジョセフ・エドワード・ジャック・キャシディ John Joseph Edward “Jack” Cassidy, 1927年3月5日 - 1976年12月12日)は、アメリカ合衆国の俳優。主にアメリカの舞台とテレビドラマで活躍した。
プロフィール
ニューヨーク州リッチモンド・ヒルで、アイルランド系の父とドイツ系の母の間に生まれる。ブロードウェイでのミュージカルを皮切りに数多くのテレビ番組や映画に出演。それからはテレビドラマに引っ切り無しにゲスト出演し、『刑事コロンボ』シリーズでは3度も犯人役を務めたが、その3度目の出演となる「魔術師の幻想」が放映された1976年に、寝タバコが原因の自宅マンションの火災により49歳で死去した。遺体は損傷が激しく、歯型と指輪から本人と確認された。




