第1章
【とあるビルのオフィスの上階にて、タイプライターを打つ音が響く】
(カシャカシャカシャカシャカシャ・・・)
(一台の乗用車が、オフィスに向かってくる)
(車のダッシュボードから拳銃を一丁、ふところに入れ・・・男が一人、オフィスに)
コンコンコン・・・
ジム・フェリス:「・・・どなたです?」
コンコンコン・・・
(ジム、ドアを開ける)
ケン・フランクリン:「(神妙な表情をして、無言で、ゆっくりと拳銃をジムに突きつける)・・・・・・。」
ジム:「(拳銃とケンを見比べながら苦笑して)ふっふっふっふ・・・はっはっは・・・。」
ケン:「・・・やけに落ち着きかえってるじゃないか。」
ジム:「よしてくれよ、ケン。
君と組んで『ベストセラーのミステリー』を書いてる推理作家だぜ。
・・・まず君は、『手袋をしていない』し、『引き金に指をかけていない』。それに、その拳銃のシリンダーは、『からっぽ』だ。」
ケン:「(ニヤリとしながら)『お説』のとおり。
君には、こんなイタズラは通じないな。」
ジム:「なんで、そんなものを持ってきたんだ。」
ケン:「護身用に持ってきたのさ。これから、例の別荘へ行くところなんでね。
ところで・・・こないだは、すまなかった。」
ジム:「・・・なんだい?」
ケン:「君にギャンギャン、噛みついたじゃないか。」
ジム:「ああ・・・もう、いいさ。
忘れよう。」
ケン:「いやぁ、そうはいかんよ。いくら、ぼくらでも。
(シャンパンのボトルの柄を持って、かざしながら)そこで・・・『手を打ちに』来たんだ。
・・・手土産持参でね。
乾杯しよう。」
ジム:「あぁ・・・朝の10時からかい?」
ケン:「まぁ、いいじゃないか・・・土曜日だぞ。
それに、作家の魂は『無明の闇をさまよってる』。
(ポンッ!)どうれ・・・いい音。
(シャンパンをそそいだグラスをジムに渡して)どうぞ。
・・・乾杯。
『二人の離婚』に。」
(ケンも自分のグラスでシャンパンを飲む)
ジム:「・・・いやぁ、『離婚』はないだろう?」
ケン:「いや、いいんだ、いいんだよ、そんなに遠慮しなくても。
『別れも楽し』さ。もう、愚痴はこぼさない。
(『メルヴィル夫人シリーズ』を見ながら)見ろよ・・・みんな、ぼくらの『いとし子』だ。
全部で、15冊・・・部数にして、500万。
・・・これだけの人気を獲得してくれた名探偵『メルヴィル夫人』に乾杯しよう。
われわれが産みだし、われわれが葬る夫人に。」
ジム:「よしてくれないか。
・・・なんだか、気が咎めるよ。
ぼくはほかに『書きたいもの』があるんだ。」
ケン:「ああ。もう、そのことは言わない。
君の新作に光栄あれ。
・・・評判はますます高まるだろう。」
ジム:「ありがとう・・・わかってくれて。」
(ケン、自分のライターを、こっそりオフィスの机に置く)
ケン:「いやいや。大切なのは『チーム』じゃなくて、『友情』だよ。
・・・そうだろ?
『変わらぬ友情』に(乾杯しよう)。」
ジム:「・・・ああ。」
ケン:「・・・話はついた。いまから君を『誘拐』する。」
ジム:「ええっ!?」
ケン:「ぼくの別荘へ行こうじゃないか。
アレを手に入れてから六か月。
・・・君が最初の『男の客』になる。」
ジム:「悪いけど、今日はダメだよ。」
ケン:「まぁた、どうしてだい・・・?」
ジム:「あぁ・・・だって、(その別荘は)サンディエゴにあるんだろう?」
ケン:「車なら2、3時間・・・夜には帰ってこられるよ。」
ジム:「う~ん・・・でも今夜は、女房を食事に連れてくって約束なんだ。」
ケン:「なぁに、ちょっと電話をかけて、『仕事でどうしても遅くなる』って言えばいいじゃないか。
さァ、いこう。
・・・たまには釣りでもしないと、頭が固くなっちまうぞ?」
ジム:「いや、しかしねぇ・・・」
ケン:「たった一日のヒマもいただけないほど、女房が怖いのか・・・?」
ジム:「バカをいうなよ。」
ケン:「だったら、覚悟しろよ。
『自分を納得させる理由』が欲しいなら、ちゃーんとあるぜ。
今日は、『十年来のチームワーク』を放棄する記念日だ。
・・・パートナーの『最後の誘い』をソデにしたんじゃ、義理が立たないだろう。」




