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魔力を渡せることに気づいたらハーレムができました  作者: くろぬこ


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【第07話】大貴族の大家

「稼ぎの良さそうなバイトが見つかって、ラッキーだったな」

「はい、ご主人様。生肉をありがとうございます」

 

 かたくて味も薄い干し肉ではなく、三百グラムの安い生肉が入った布袋を大事そうに抱えて、ニコニコ顔のリントと帰路を歩く。

 嬉し過ぎて頭が回ってないのか、ご主人様への返答がちょっと怪しくなってるが……。

 

「焼肉のタレと、サラダ用の野菜も残ってたはずだし。今日は、お仕事が見つかったお祝いをしようか」

「はい。お祝いです」

 

 おそらく奴隷時代に想像してたより、今の生活がリントにとっては快適なのだろう。

 生肉の入った布袋に頬ずりしてるリントは、今のご主人様についていけば美味しい思いができると勘違いしてそうだが。

 現状が、上手くいき過ぎてるだけなんだよな……。


 正直な話、一からやり直しだったから、もっと苦労すると俺は覚悟してた。

 獣人の戦奴隷を買うつもりが、性欲に負けて性奴隷を買ったせいで自分の首を絞めることになって、自業自得なところはあるが。

 ぶっちゃけ昨日まで、この二人で上手くやっていけるだろうかと、メチャクチャ不安だった。


 蓋を開けてみれば、パーティー解散で不幸のどん底スタートだったはずが、ありえない幸運が続いてる。

 性奴隷として買った亜人が、なぜか魔力持ちで魔闘気も使えて、昨日はすごく大混乱したが……。

 

 四年前を思い返せば、幼馴染の三人組で迷宮都市に来たばかりの頃は、三日目で五階層には辿り着けなかった。

 一階層のゴブリンを倒してゴミみたいな魔石を拾って、商人ギルドに売ったお金で最低価格の相部屋に泊って、三人で雑魚寝をして。

 慣れないモンスターとの戦いでクタクタになって、本当に迷宮生活で稼げるんだろうかと不安になる毎日。

 デュランのいびきがうるさ過ぎて眠れず、ぼんやりと天井を見上げていた記憶がある。

 稼げなくて三人で喧嘩してたら、中堅クランのリーダーに声を掛けてもらって、そこから多少は生活が良くなった。


 三馬鹿トリオに絡まれたおかげで、四年越しにまた中堅クランに声を掛けてもらえるとはね。

 しかも三日目で、中堅クランから指名依頼が入るとは、さすがに予想してなかった……。


 さっき迷宮帰りに、商人ギルドへ顔を出した記憶を思い出す。

 中堅クランのヒーラー募集を見つけて、新人教育の依頼料に目を通したら思わずニヤケてしまった。

 指名依頼で更に色を付けてくれると聞いたので、脳内で算盤を弾いた結果が、今晩からは干し肉の卒業でしたと。

 干し肉以外の選択肢が増えるほどに、気持ちの余裕ができたのは嬉しいことだ。


 あとは低階層の魔石拾いより高収入な依頼が、商人ギルド経由で見つかれば、家賃の支払いも目途が経ちそうなんだけど。

 今月は先払いだったから、家賃はなんとかなるけど。

 四人分の生活レベルに戻すことを目標にしたら、もっと効率よく稼げる手段を考えないと、まだまだ大変な迷宮生活が続いて……。

 

「ご主人様……。家から煙が出てます」

「……え?」

 

 リントが不思議そうな顔で、家の方向を指差す。

 

「あー……。たぶん、大家さんが来てるな」

「大家さんですか?」

「うん……。ちょうど良いや。リントの顔見せもしとくか。大家さんに、ご挨拶に行こうか」

「はい」

 

 ちょっと不安そうな顔をしながら、リントが俺の後をついて来る。

 住んでる借家は、鍛冶工房だったのを取り壊した後に、とある貴族が趣味で過ごすための別荘に改築されていた。

 その別荘を囲うように高い塀があり、塀の間から伸びた十本の煙突から黒い煙がモクモクと出ている。

 玄関ホールに入って正面に、頑丈な両開きの扉がある。

 

「開かずの扉が空いてるね。たぶん、大家さんは地下にいると思う」

「地下ですか?」

「食材と荷物だけ、先に置いておこうか」

「はい」

 

 生肉を置くために台所へ入ったリントが、ドタドタと走りながら俺の部屋に顔を出した。

 

「ご主人様、台所に大きな布袋が転がってます!」

「……あー。たぶん食材だと思うから、とりあえず置いといて……。先に大家さんの挨拶に行こう」

 

 鍵が掛かってない開かずの扉を開いて、リントと一緒に中に入る。

 

「ご、ご主人様……。この壁、ダンジョンの……」

「同じ壁だね。パラケルキューブだよ。地下に飛ぶ転移門を使うから、こっちに来て」

 

 魔法陣が描かれた床に立ち、戸惑うリントを手招いた。

 鍵となる魔石がはめ込まれた台座に手を伸ばし、転移門を起動させる。

 エレベーターを移動するような、奇妙な浮遊感を覚えた後、景色が地下工房に一変した。

 

「ご主人様……。ここは、ダンジョンですか?」

「地下迷宮ではないね。大魔導士のパラケル・ススとゆかりのある大貴族様が趣味で、地下工房で作業するためにダンジョンのパラケルキューブを使って、誰にも侵入できないように囲ってるだけだよ」

 

 おそらく火を使ってるのだろう、すぐに汗をかきそうなくらい室内の温度が高い。

 金属を叩くような音が聞こえたので、そちらに足を向ける。

 奥にある部屋の一つを覗く。


 真っ赤に燃えた金属をハンマーで叩いてた人物が、俺達に気づいて手を止めた。

 作業中の金属を水の中に放り込み、手袋を外しながら俺達の方へ歩いて来る。

 

「大貴族様だけど。よっぽどの粗相をしない限りは、怒って地下迷宮の牢獄に放り込んだりとかは、しないはずだから……。怖かったら、俺の手でも握っとく?」

「お、お願いします」

 

 不安の色を隠せず、リントがノータイムで俺の手を握った。

 リントよりも頭一つ背が低くて、小柄な女性がゴーグルを外す。

 俺の隣に立つリントを下から上へ、興味深そうな顔でジロジロと眺めていた。

 

「ほう……。マルクは女に興味が無いのかと心配してたが、そういう趣味なのかい?」

「えっと……。最近、パーティーを解散しまして。これから一人で、迷宮に潜らないといけなくなりまして……。戦奴隷を買うことにしました。彼女はリントです」

「リ、リントです。よろしくお願いします」

 

 緊張でカチコチになりながらも、リントが頭を下げる。

 男性のドワーフは豊満なヒゲが特徴だが、女性であるドワーフは髪の毛が豊満な人が多い。

 左右に髪を大きく束ねたドワーフ女性が、白い歯をみせてニカッと笑う。

 

「私はロリン・パラケルだ。大魔導士パラケル・ススと共に大迷宮を創ったドワーフの末裔だが。別に奴隷のお前を食ったりせんから、安心しろ。クカカカカ」

「は、はひぃ……」

 

 幼馴染のテトから聞いた噂では、目の前にいる大貴族ドワーフに平民が喧嘩を売った場合、この迷宮都市で二度と朝日を見ることができなくなるレベルの権力を持ってるらしい。

 毎月の家賃さえ払えば、今のところ命の危険を覚えたことはないので、大丈夫だと思うが……。

 そんなことを考えてたら、半目を閉じてジトーッと俺を下から覗き込むロリンと目が合った。

 

「さて、マルク。私に隠し事があるなら、さっさと吐くことだね。彼女が戦奴隷なのは本当かい? 訂正するなら、今のうちだよ」

「……すみません。本当は戦奴隷と、性奴隷として彼女を買いました……」

「ほう? なるほどね……。娼婦で女遊びをしないと思ったら、そういう女が好みだったのかい? そういうことは、先に言いなさい。そしたら大人しくて、何でも言うことを聞いてくれるカワイイ娘を紹介してやったのに、さっ!」

「イダッ!?」

 

 小さな手に似合わない怪力で尻を叩かれ、思わずコケそうになった。


「た、たまたまですよ……。ハハハ」

 

 思わず渇いた笑いが漏れる。

 いつの間にか俺も、隣にいるリントみたいにギクシャクした返答になっていた。

 戦力じゃなく性欲で選びましたとか、本人がいる前では正直に答えづらいよ。

 

「それで、マルク。パーティーは解散したと聞いたが……。すでに今月の家賃は、もらってるから良いとしても。来月からの稼ぎは、目処(めど)が立ちそうなのかい?」

 

 大家の立場としては、当然の質問だろう。

 

「はい。今日は中堅のクランから新人教育に、ヒーラーとしての参加を依頼されました。魔石拾いよりは稼ぎが良さそうなので。後は商人ギルドから、依頼をいくつかもらえたら。来月は、なんとかなると思います」

 

 家賃が支払えないと思われたら借家を追い出されるので、少しでも当てがある雰囲気を出しておく。

 

「それとリントは魔闘気が使えるようなので。今より魔力が増えれば、もっと階層を潜れると思います」

「なんじゃと? マナ持ちと言ったかね? 亜人の戦奴隷で、しかも性奴隷となれば……そうとう高かっただろう? そもそも奴隷商会が、よく平民のマルクに売ってくれたの」

「リントは奴隷商会で買った時は、魔力がありませんでした。タイミングが良かったのか、母親の血が目覚めたみたいで……」

「どういうことじゃ?」

 

 俺は事前にリントと打ち合わせた内容で、彼女を買った直後に奴隷商会で訓練した成果が出たことを説明した。

 

「ほー。それは、また……運が良かったの。むしろそれで、一生分の運を使い果たしたと心配するくらいだの」

 

 さすがに俺が魔力を他人に渡せるという結論には、至らなかったのだろう。

 むしろ俺が運を使い果たしたと、心配されてしまった。

 

「ふむ……。思ってた話と、違ったの」

「……え?」

「ああ、いや。こっちの話じゃよ。マルクの仕事がなければ、ダンジョンの深層に潜るドワーフ団の仕事を紹介してやろうと思っての……。一月ほど地下に潜れば、百万は稼げるかもしれんが。興味はあるかの?」

「いえ、大丈夫です。そちらのお世話にならないよう、頑張って商人ギルドで依頼を探します」


 船で海に出たら一月も帰ってこれない、マグロ漁船かよ。

 

「そうじゃ、思い出した。台所に食材が入った布袋を置いたのじゃが。また晩飯だけ簡単に作っといてくれ。今やっとる作業が、もう少しかかりそうでの」

「分かりました。また四人前ですか?」

「うむ。頼むぞ」

 

 いつもの用事を頼まれた後、挨拶をすませた俺とリントは家に戻った。

 台所に向かうと、ロリンが置いた布袋から食材を取り出す。

 

「これも家賃を安くしてもらう条件の一つだから、先にロリンさんのを作っておこう。大貴族だからって、高級シェフみたいな料理は求めてないから」

 

 量が多いのでテーブルの上に並べた食材を、リントがじーっと見ていた。


「むしろ最近、献立に困ってるくらいだから。リントの方で、何か作れそうなモノとかある?」

「奴隷が作った料理でも良いのですか?」

「ロリンさんの屋敷でも、奴隷が料理も作ってるらしいから問題ないよ。先輩奴隷から、貴族向けの料理とかは習ったりした?」

「デニス様の料理を手伝ったことはありますので……。簡単なモノでしたら、作れます」

「おお、良いね。じゃあ今日は試しに、それを作ってみようか」


 思わぬ来客だったが、意外と料理のレパートリーが多そうなリントに、これからはロリンの料理をお願いしても良いかもしれない。


「四人前と聞いたような気がしましたが……。お一人で食べるのですか?」

「そうだよ。こっちにロリンさん専用のナベがあるから。俺達の料理と混ざらないように、こっちのナベで作ってね」

「分かりました……。頑張ります」


 エプロンを着たリントが、気合いを入れて腕まくりをした。

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