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魔力を渡せることに気づいたらハーレムができました  作者: くろぬこ


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【第06話】チャラ男で腕試し

「うーん。ダイアウルフをなすりつけられたせいで、今日は少ししか進みませんでしたね」


 羊皮紙にチョークで線を描いた自作のダンジョンマップを、魔法使いのモニカが口を尖らせて見つめている。


「五階層は初心者が腕試しで挑戦して、怪我したら逃げ帰ることが多いからね。昨日のモニカ達みたいにね」

「むー。それを言われると、ちょっと言い返せないですね」


 三角座りをした膝の上に顎をのせて、モニカが頬を膨らませる。

 

「でも。リントさんの魔闘気オーラは助かりますね。若い獣人と同じくらいの戦士が前衛にいると思えば、かなり安心できますから」

 

 俺達がモンスターと戦ってる時に、他の怪我した若い探索者達がダイアウルフを引き連れて来た時を思い出したのだろう。

 緊急時には魔力を使っても良いと言ってたので、昨日と同じようにリントが即座にダイアウルフを倒してくれた。

 

「リントも最近、魔力が使えるようになったから。まだ不慣れなんだよね。だから五階層の探索は、リントが魔力を使ったら安全のために引き返すこともあるから、ゆっくりの攻略になっちゃうけど」


 別に嘘は言ってない。

 俺から魔力を受け取ったら、リントの魔力がどのくらい増えてるかが、まだ本人も俺もよく分かってないから。

 今みたいに安全な階層へ戻って、リントがマナの枯渇でフラついてないかを様子見する必要があるのだ。


「大丈夫ですよ。私達も急ぎではないですし、まだ貯金もありますしね」

 

 魔法使いで平民の人は少ないから、たぶん貴族絡みのお嬢様なのだろう。

 幼馴染の三人で迷宮に挑んだ最初の頃は、その日の宿代を早く稼がなきゃと焦ってばかりの毎日だったので、正直その余裕が羨ましくもある。

 

「リントちゃん、脇が甘いよ!」

「あっ」

 

 バシンと叩く音が聞こえて、そちらへ振り返る。

 カリンの剣を納めた鞘が、リントの胸元に当たっていた。

 剣を振り上げた状態で、リントが目を丸くして固まっている。

 

「ゴブリンとかは、単調な攻撃でも大丈夫だけど。ホブゴブリンになると、多少なりと剣術が使えるヤツも出てくるからね。今のが真剣だったら、ホブゴブリンにやられてたよ」

「むー……。もう一回、お願いします」

「いいよ」

 

 剣を握り締めたリントが、再びカリンに挑む。

 今朝は、俺が余計なことをリントに言ったせいで、仲が悪くならないか心配してたけど。

 二人のやり取りを見る感じ、大丈夫そうな気がする。

 

「カリンが、思ったより剣術が得意で助かったよ。リントは我流だからさ」


 剣術の指導をお願いするため、モンスターをあまり気にしなくても良いように、あえて人が多い二階層にまで戻って来たが。

 俺達がいる部屋を、素通りする探索者パーティーが何組かいて、たまに足を止めてカリンの剣術指導を眺めている若い探索者もいた。


「父親が元探索者だったと聞いてますから、カリンも剣術の指導は受けてると思います。ただ男運が最悪で、口の上手い男によく騙されてるようですが……。私が初めて会った時も、詐欺師の男に借金を肩代わりされそうになって、商人ギルドで泣いてましたからね」

「泣いてないよ! すごく困ってたけどね!」

 

 会話が聞こえてたのか、リントの剣を器用にさばきながら、俺達の会話にカリンが口を挟んできた。

 

「へー。それで、どうなったの?」

「商人ギルドの担当者と揉めてるカリンとの間に私が入って、カリンから事情を聞いて。既に街から逃げた詐欺師の借金は、私が肩代わりしました……。その借金を返済する代わりに、この迷宮都市の地下迷宮を一緒に潜ってもらう契約をしました」

 

 へー。

 それが切っ掛けで、このダンジョンに二人で来てたのね。

 

「そういえば、リントさんは戦奴隷ですよね? 魔力が使える戦奴隷なんて、いくらぐらい」

「へーい。お嬢ちゃん達、もしかして困ったりしてるー?」

 

 俺達の会話に割り込むかたちで、男の声が耳に入る。

 三人組の若い男が立っており、ニヤニヤと軽薄そうな笑みを浮かべた男が俺達に歩み寄って来た。

 

 俺と喋ってる時は笑顔だったモニカが、もの凄く嫌そうな顔で男の顔を見てる。

 まるで嫌いな虫を見つけた時の顔だ。

 何を勘違いしたのか若い男は、金髪を指先でかきあげてカッコつけている。

 低階層で若い女性探索者をナンパするタイプのチャラ男だ。

 

「べつに困ってませんよ。私達は……これから五階層へ行くので。どうぞ、おかまいなく。みんな、移動しましょ」

 

 しばらくカリンに、リントの剣術指導をお願いする予定だったが。

 男達に絡まれるのが嫌だったのか、五階層に行くのを口実にして、モニカが立ちあがろうとする。

 魔女帽子を被って移動しようとしたモニカの前に、男が立ちふさがった。

 

「へー。そうなんだー。じゃあさ、俺達も一緒について行ってあげようか? 男三人いた方が、安全だろ?」

 

 どうやらチャラ男君は、女性が多いパーティーに同行するのを諦めきれないようだ。

 モニカが心底、面倒くさいと言わんばかりの顔で、大きなため息を吐いた。

 

「ご心配なく。男性でしたら、優しいお兄さんがいますし。私達も五階層に行くのは、初めてではないので。どうぞ、あなた達は先へお進みください」

「え? こんなヒョロイ男じゃ、頼りないでしょ? ヒーラーよりは、戦士の俺達の方が絶対に安心できるよ。ねぇ、一緒に行こうよ」

「しつこい男は嫌われるぞ」


 思わず俺が口を挟むと、若い男が俺を睨みつける。


「は? じゃあ、てめぇが俺達より強いって証明してみろよ」

「キャッ!?」

 

 俺の胸倉をつかむ勢いで、鼻息を荒くしたチャラ男が近付いたタイミングで、カリンの小さな悲鳴が聞こえる。

 何事かと皆の視線が注目した先には、尻餅を突いたカリンと彼女の剣が地面に転がっていた。

 地面に落ちた剣を拾ってカリンに歩み寄る。

 

「大丈夫か?」

「うん。リントちゃんの力が強くて、受け流さないとマズいと思って剣を離しただけだから……。大丈夫だよ」

 

 手が痺れたのか、カリンが自分の手首をさすっている。

 リントの方を見れば、いつもは丸い銀色の瞳が縦長に変形しており、誰が見ても怒ってる表情をしていた。

 今朝のカリンに威嚇したのが可愛いと思うくらいに目を吊り上げて、未だにしつこくモニカへ言い寄る男を睨んでいる。

 

 カリンが俺に近付くと、耳元で囁いた。

 ……へー。

 ちょっと面白そうかも。

 悪い笑みを浮かべたカリンの顔を見て、俺は頷いた。

 

「ねぇねぇ、そこのカッコイイお兄さーん。そんなに強いならさ。ここにいる亜人の子と、一本勝負してよ。こんな可愛い子に負けるようじゃ、五階層なんて無理だと思うけど?」

 

 挑発的な笑みを浮かべるカリンに対して、チャラ男が不機嫌そうな顔をする。

 助け舟をもらったモニカが、チャラ男の視線が外れてる間にコソコソと動いて、俺の後ろに移動した。

 俺の背後に隠れた魔法使いの少女に気づいて、チャラ男が舌打ちをする。

 

「そんなガリガリのヒョロ女に負けるかよ……。ていうか、奴隷じゃねぇか……。あ? なんだ、お前。奴隷のくせに、睨んでんじゃねぇよ」

 

 俺はリントに近付くと、耳元で囁く。

 

「マナを使って、アイツの剣を弾き飛ばせ……。あと顔を殴ると死ぬかもしれないから、腹を殴れ」

「分かりました、ご主人様」

 

 力強くリントが頷くと、鞘に収まった剣を握り締める。

 

「真剣を使ったら大怪我をするかもしれないから。剣は鞘に入れたままね。一本勝負でお兄さんが負けたら、ナンパは諦めてよ」

「はっ。奴隷女に負けるかよ」

 

 馬鹿にされてると思ったのか、チャラ男が手に唾を吐きかけて、剣を両手で握り締める。

 うーん、なんというか。

 喧嘩自慢をしてた幼馴染のデュランが、この地下迷宮に初めて来た頃を思い出すな……。


「それじゃあ、始めるよ……。二人とも、準備は良い?」


 審判役を任されたカリンが、片腕を天に上げた。

 部屋を素通りしようとしていた若い探索者の集団が足を止めて、これから始まる二人の戦いをギャラリー達が興味深げに見守っている。

 

「始めっ!」

「オルァッ!」

 

 先に動いたのはチャラ男だった。

 一撃目は振り下ろし一択だったようで、リントの頭を狙った全力の一撃だ。

 しかし、リントの両腕が青白く光り、魔闘気(オーラ)をまとっていたのを俺は見逃さなかった。

 

「……え?」

 

 チャラ男が呆けた声を漏らす。

 何が起こったのか理解できてないようで、振り下ろしたはずの両手はバンザイしたように上がっていた。

 チャラ男の剣が、近くの壁にぶつかる男が聞こえる。

 

「ごひゅっ!?」

 

 本人が状況を理解するよりも早く、リントのマナが込められた二撃目が放たれた。

 リントが横向きになぎ払いした剣がチャラ男の腹にめり込み、くの字に曲がった男の身体が派手に後方へ倒れる。

 

「ぐうぅっ……」

 

 悶えるチャラ男が立ち上がろうとしたが、ゲロを盛大に床へぶちまけた。


「ダッカー! 大丈夫か?」


 仲間の男二人が、困惑した顔でチャラ男に駆け寄る。

 

「雑魚じゃん。だっさ」

 

 チャラ男がしつこくモニカをナンパしてるあたりから静観してた女性の獣人が、俺達に聞こえるほどの声で呟いた。

 獣人女性の仲間なのか、周りにいる若い探索者達がクスクスと笑っている。

 チャラ男の横を素通りして、褐色の体毛に覆われた狼頭の女性がリントの前に歩み寄る。

 

「きみ、可愛い顔して強いね。魔闘気が使えるなんて、すごいじゃん。戦奴隷みたいだけど、ご主人様は誰?」

 

 いきなり声を掛けられて戸惑うリントが、おっかなびっくりの顔で俺に駆け寄る。

 俺の後ろに隠れるリントを見て、狼人の女性が俺の方へやって来た。

 

「あなたが、彼女のご主人様?」

「そうですよ」

「君達って、見掛けない顔だけど。どっかのクランに入ってたりして」

「おーい。女の子とケンカしてる馬鹿がいるって聞いたけど……。アレ、終わったの?」

「あっ、リーダー。ケンカは終わってるよー」

 

 いかにもベテラン探索者の雰囲気をまとった男性が部屋に入って来た。

 刈り上げた短髪の男性と目が合うと、驚いた顔で俺を指差す。

 

「あれ? マルク君じゃない? なんで、二階層にいるの?」

「お久しぶりです、トンバさん」

「え? 二人共、知り合いなの?」

 

 頭を下げた俺を見て、狼人の女性が驚いた顔をした。

 

「ああ。グッタは後からクランに入ったから、知らないのか。四年くらい前に、俺と仲間で新人教育してた頃があって……。あっ、ちなみにリディアのパーティーでヒーラーしてたのが彼だぞ」

「ええ!? あのリディアがいるパーティーにいたの? あの子、魔剣を拾ってから上位クラン以外の探索者を馬鹿にしてさ。うちの依頼とかも、えらそうな態度で高額の依頼料を吹っ掛けてくるから嫌いなんだよねー」

 

 グッタと呼ばれた狼人の女性が、不機嫌そうに頬を膨らませた。

 ……え?

 リディアって、そんなことしてたの?

 

「おいおい。さすがに本人のいる前で、その話はするなよー」

「別にいいですよ。もうパーティーは解散しましたので」

「あ、そうなんだ? じゃあ、やっぱりデュランとリディアが上位クランに移動したって噂は、本当だったんだ」

 

 噂になるの早いな。

 まあ、良い意味でも悪い意味でも、あの二人は目立ってたからな。

 

「え? 解散したの? じゃあ、今はフリー? ヒーラーって、さっきリーダー言ってたよね? 初級回復魔法(キュア)は使える?」

「えっと……。神官の杖があるので、中級回復魔法(ヒール)も使えますよ」

「すごいじゃん。ねぇ、リーダー。うちの新人教育に雇おうよ。治療ポーションが浮くじゃん」

「おいおい待てよ。いきなり、そんなことを言われても困るだろ。彼らにも予定があるだろうし」

 

 しばらく考えた後、会話に入れず様子を見守っていたモニカとカリンを手招いた。

 

「俺はクランに入る予定はないけど、彼女達は最近この迷宮都市に来たばかりらしいです……。もし女性が多いパーティーがあったら、彼女達を誘ってあげて欲しいです」


 二人を紹介すると、クランのリーダーが快く了承してくれた。

 こういった交渉事は、幼馴染のテトが率先してやっていた記憶がある。

 その記憶をなぞるように、今度は自分の交渉を始めた。


「さっき新人教育と聞きましたが……。うちのリントも新人ですが。彼女を連れて行って問題無いなら、ヒーラーとして依頼を受けたいですね」

「良いよ、良いよ。それで良いよ。魔闘気(オーラ)が使える亜人なら、むしろ大歓迎よ……。ね、リーダー?」


 嬉しそうに両手の拳を握り締めた獣人女性のグッタが、クランのリーダーであるトンバに顔を向ける。


「そうだな……。もし帰りに、商人ギルドへ立ち寄るなら。うちのクランが募集してる、ヒーラーの依頼をギルドの受付に申請しといてくれ」

「……あれ? でも、リーダーさ。うちの依頼って、初級回復魔法(キュア)が使えるヒーラーで募集してなかったっけ?」

「ああ、そうだったな……。うちのサイフを管理してるメンバーと相談して、ちょっと依頼料を上げとくよ」

魔闘気(オーラ)が使える亜人だったら、うちの新人より何倍も強いし。五階層とかに行ったら逆に、うちの護衛依頼になっちゃわない?」

「そこは、うちのグッタが新人教育するから。そっちの教育代で相殺するってことで、勘弁してほしいかな……。今後も指名依頼で、色付けるからさ」

「大丈夫ですよ。こっちは、それで十分です」


 刈り上げた頭の後頭部を手でガリガリとかいて、リーダーのトンバが申し訳なそうな顔をした。

 むしろ、一から再スタートの三日目で中堅クランからの指名依頼は、かなりデカいぞ。

 解散したパーティーでは、お荷物になりかけてたヒーラーのポジションが役に立つ日がくるとはな。


「ダッカー。歩けるか?」


 視界の端に、肩を貸した仲間二人に連れられて、部屋を退場するチャラ男が目に入ったが。

 周りにいるギャラリーは、誰も気にしてなかった。


 もし彼らが世間知らずで、初めて来た迷宮都市で調子に乗っただけの初心者探索者だとしても。

 手を差し伸べてくれるタイプだった中堅クランの一つから、彼らは見放されてしまった……。

 

 だが、それも彼らが選んだ道だ。

 若い獣人と素手で殴り合いの喧嘩ができた、才能ある幼馴染のデュランがいた俺達のパーティーと違って、彼らがどこまで下の階層を目指せるかは分からないが。

 俺の女を殴ろうとしたバカの将来なんて、俺にはどうでもいいことだ……。

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