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第四話 天空の魔王城

倒れた門番を横目に目の前のおよそ人間用とは思えないほど大きな階段をよじ登る。天空城はもうすぐそこだ。

「突撃ぃー!」

最後の一段まで登り切り立ち止まる。魔王城は海沿いから見るより重厚感と圧を感じる。その扉に手をかけゆっくり押し開いた。エントランスホールに入ると中央に異形の影がある。

「小娘がここまで来たとはな」

「初対面のやつに小娘とか口悪いね」

異形の魔物は大きく渦を巻いた角をハンカチで磨いていた。左手には梅子の顔ほどのサイズの鏡を持っている。茶色の毛並みを押さえつけるように黒いタキシードを着こんでいる。

「我は四天王の一人、獰猛のニゴト。美しい毛並みと雄々しい角を持つ魔国アルティヤで最も逞しいミノタウロス」

「あ、四天王なんだ」

「いかにも。フォセを倒したようだが我はそう簡単には倒せまい」

自信に満ち溢れているニゴトは左手に持つ鏡をのぞき込んだ。鏡に向かって何度も角度と表情を変えている。その様子に梅子はげんなりした。

(ナルシスト系かあ。フォセとキャラ被ってんじゃん)

梅子が作り出した光の柱に消えた少年が思い浮かぶ。記憶の中でも美しく感じてしまって梅子は頭をぶんぶん振った。そしてニゴトに指を突き付けた。

「ニゴトだか物事だか知らないけど魔王の部屋まで通してもらおうか!」

「小娘ごときが魔王様に会えると思うな!」

ニゴトは鼻息を荒くし鏡をタキシードの中に仕舞い込むと、角を振り回して梅子に突進してきた。梅子は足に力を入れて思いっきりジャンプした。両手を組んで振り下ろす。ニゴトの立派な角に命中した。

「ん?」

「お?」

ニゴトの角に亀裂が入る。亀裂はどんどん広がっていき、角の根元を一周する。ニゴトの角がぽきりと折れた。

「あ、折れた」

「なっ!? わ、我の角が……!?」

床に落ちた角は衝撃で砕け散り粉々になった。どこからか吹いた風が無残にもその残骸をさらっていく。ニゴトは恐る恐るタキシードから鏡を取り出しのぞき込む。両手がわなわなと震えていた。

「あ……ああ……あああああああ……」

折れた角の断面に触れる。とがった感触がニゴトの手に伝わった。

「生まれた時から手入れを欠かさず生きてきた300年、一度たりとも折ることはなかったというのに……」

ニゴトの瞳が怒りの炎に赤くなっていく。鏡から視線を外す。梅子の方に視線を向けた。

「許さんぞ、小娘……!?」

そこでニゴトは気が付く。梅子の姿がない。振り向くと内部に続く大扉が開け放たれている。ニゴトは愕然として鏡を取り落とした。

「出し抜かれただと……!?」



「四天王、ちょろいな」

魔王城の不気味な廊下を駆け抜ける。襲い掛かってくる魔物たちは殴るだけで撃沈した。自分が最強というのは気分がいい。

「魔王の居場所なんかどうせ最上階でしょ。とにかく階段上ればいいか」

魔王城の構造は全体的に大きく人間には持て余す。階段をジャンプで上がり扉を体当たりで開ける。城を進めば進むほど襲い掛かる魔物たちも大柄になっていった。

「お、分かれ道だ」

一本道だった廊下が二手に分かれている。梅子は急ブレーキをかけて立ち止まりバク転した。追いかけてきていたネズミの魔物のしっぽを捕まえる。

「ね、どっちが魔王の居場所に続いてるの?」

ネズミは恐怖に顔を曇らせ梅子の手から逃れようともがく。ネズミの視線がちらりと右を向いた。

「あ、右なんだね。ありがと」

ネズミのしっぽを放してやると一目散に逃げて行った。分かれ道を右に進む。ゴブリンのような魔物が列を成して梅子を待ち構えていた。それらを床に這いつくばらせ今までよりも装飾が豪奢な扉へとたどり着く。扉の前に露出の高い女の魔物が立っている。

「止まりなさい! 私は四天王の一人、誘惑のフェリシア」

「はいはい邪魔だよ!」

名乗りを上げている女の魔物を蹴り飛ばした。魔物はあっけなく吹き飛び柱に激突した。そのまま扉を押し開くと渡り廊下が現れる。

「しまった、四天王だし話聞いた方がよかったかな」

まあいいかと一人納得して渡り廊下を抜けた。紫の雷が降り雲の隙間から塔が現れる。

「あんなの絶対魔王いる! レッツゴー!」

塔の扉は先ほどまでより小さく人間に合わせたサイズだった。それを開けて螺旋階段を駆け上がる。裸足がぺたぺたと石階段を叩く音がする。魔物の足音や唸り声は聞こえない。雷だけが響いている。ずっと走っているというのに息が切れない。全能感に気分良く鼻歌を歌い、軽い足取りで塔の最上階にたどり着いた。梅子は立ち止まり、閉ざされた扉に手をかける。深呼吸とともに体を前に動かした。扉を開け放つ。待っているであろう魔王に向かって叫んだ。

「頼もー!」

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