【セシルの仕事】3
セシルは部屋に戻ると、さっそく次の魔術の作成に取り掛かった。シルバは部屋の隅に腰を掛け、そこらへんに置いてある本を読み始める。パラパラとめくりながら流し見していると、ふと気になってセシルを見る。机の上で書類を吟味している彼の服はどこか薄汚れていた。
「セシル、どうしてそこまで汚れている?」
「へ?……汚れてるかな?先週、洗ったんだけど?」
「先週?」
シルバは眉をひそめた。
「そう、先週」
「……服を一枚しか持っていないのか?」
「いや、三枚あるよ。面倒だから全部同じデザインだけどね」
立ち上がると、シルバはセシルの肩を持ち、こちらを向かせる。
「毎日だ」
「なにが?」
「洗濯に決まっているだろ!毎日洗え!魔道具で簡単であろうが!」
「毎日?そんなの面倒だよ」
「どうせ、家に帰っても時間も余っているだろう?その間に洗濯ものを済ませてしまえ」
「家に帰ることなんてないよ。強いて言うなら、ここが家だし」
「ここが……家?」
シルバは固まりながら質問をした。セシルは悪びれることもなく「うん」と言った。
「だから、洗濯は一週間に一回、近くにある洗濯屋でやる。寝てる間と、ご飯を食べている間以外は仕事してるし……暇な時間って特にないかな?」
「……ちなみに、給料はもらっているか?」
「さあ?食事は勝手に出てくるし、服も頼めば新しいものをくれるし……考えたこともなかったな」
シルバはその言葉を聞いて考え始めた。彼、セシルは魔術を作ることができる才能を持っている。それは魔人の中でも特殊な能力だ。
(稀有な能力を持つ人間が、年中休みなしで、魔術棟という建物にいる)
一つの仮説が出てきた。
(セシルの能力を逃がさないためか)
つまり、彼が魔界へ逃げ込んでしまうと、人間界は稀有な能力を失ってしまう。セシルは金を生む存在であり、それを人間界の政府がこの魔術棟という牢獄に留めておいているのだ。
そこまで考えたタイミングで、扉がノックされた。「開けますよー」という間延びした声。クライヴが部屋に入ってきた。
「シルバさんに権限を付与できました。これで魔術棟の一部にアクセスできます……おや?」
シルバはクライヴの腕をつかむと、部屋の外へ連れ出した。
「少し、クライヴと話がある。セシルは仕事でもしていろ」
そう言いながらシルバは扉を閉めた。セシルは部屋にポツンと残されてしまう。
「……なんだったんだろ、シルバ」