【セシルの仕事】2
「クライヴさん、いますか?」
「はい、いますよー」
間延びした返事が、書類の中から返ってきた。セシルは驚くことなく書類の山に足を踏み入れた。
部屋はセシルの部屋より混沌としていた。大量の本と書類、新聞、雑貨などが山のように積まれている。シルバはゆっくり足を踏み入れた。
「セシルさん。話は聞きましたよ。使い魔、召喚できたそうですね」
「使い魔、といいますか……」
「我が名はシルヴェスタ。魔王だ」
「おやおや、魔王さん、こんにちは」
そう言いながら書類の中より男が出てきた。細い印象を受けるその男こそ、セシルの上司、クライヴだった。クライヴは書類を脇へよけながら話し始める。
「でも、魔力は二人で共有されているようですし、成功ですね。ただ、結構、魔力を消費したのではありませんか?」
「僕は魔力が少ないので、消費する魔力が少なくなるように魔法陣を描きました。ほかの人間が使うときは魔力量に合わせて調節できるようになってます」
「そうなんですね。じゃあ、詳細を、また報告書に記載してもらって、提出してください。魔術管理部のライブラリに登録しましょう」
「わかりました……それで、お願いがあるんですが……」
「そちらのシルヴェスタさんのことですね」
「シルバと呼ぶがいい」
シルバの言葉に穏やかな笑みでクライヴは「わかりました」と柔らかく応えた。セシルはそれを見ながら、頭を掻く。
「このシルバに、僕と同じ権限を与えられないですか?さすがに、僕が仕事している間、何もできないのは苦痛だと思うので」
「そうですね。私も、使い魔と聞いて精霊みたいなものを想像していましたが、シルバさんは魔王ですものね。いいでしょう。申請してみます。すぐに通ると思いますので、部屋で待っていてください」
「そんなに簡単なのか?」
「セシルさんの仕事は特殊で、今回の使い魔の召喚も騎士団から出た案件です。結構、無理なお願いでしたので、そのことを加味しても、許されるでしょう」
つまり、無理をさせているのだから、これくらい、ということなのだろう。シルバは納得したように頷いた。
「じゃあ、お願いします。僕とシルバは部屋に戻っていますね」
「はーい、お願いします」
そう言いながら、二人は部屋の外に出る。そして、また肩を並べて研究室まで歩くのだった。




