【セシルの仕事】1
「……さて、申し訳ないけど、僕には仕事がある。シルバが魔術棟の中なら移動できるように、クライヴさんに報告しないと……」
「そのクライヴというのは誰だ?」
「えーっと、僕の上司かな?」
そう言いながらセシルは部屋を出る。シルバは静かにそれに続いた。
魔術棟の中は白い壁に白い天井、天井には光る魔石がついているものの、窓はない。壁側はすべて部屋になっているらしく、扉がずらりと並んでいた。シルバは視線を周囲に張り巡らせながらセシルに質問を投げかける。
「この魔術棟というのはなんだ?」
「政府の中で魔術を管理する部署が使っている建物のことだね。実際には長い名前があるみたいだけど、みんな魔術棟って呼んでるよ」
「なぜ、窓がない?」
「秘匿性の高い情報が多いからだね。魔術には……その辺は魔王のシルバが詳しいと思うけど……一般人が犯罪に使うと困るものがあるからね」
「そんな建物の中を、我が歩いていいのか?我が魔界の魔王城に戻り、人間界を攻めるかもしれんぞ?」
「そんなこと、しないでしょ?するなら、とっくに僕は殺されてる」
セシルは笑いながら言った。
「さあ、質問はおしまい。ここがクライヴさんの部屋だ」
壁に張り付いている扉の一つ。扉の上には「クライヴ 執務室」と書かれている。セシルは静かに扉を開けた。




