【プロローグ】3
「なるほど。つまり我は貴様の使い魔になったわけか」
目の前の魔人は偉そうに足を組んで椅子に座っている。セシルは土下座した。
「本っっっ当に!申し訳ない!僕……あ、セシルって言います……が作った魔術のせいでご迷惑を……」
「なぜ、謝る?」
「え?……だって、迷惑をかけていると思ったから……」
魔人は添いの言葉に不機嫌そうな顔をし、セシルを見下した。
「魔術を作って、成功したのだろう?ならば喜びこそすれ、ネガティブな感情になるのは変だ。我は、なにも迷惑しておらん」
「そ、そうなんだ?」
セシルは立ちながら埃を払う。
「えっと、簡単に自己紹介をするね?僕は、セシル。この魔術棟って呼ばれてる建物で魔術を作る仕事をしてるんだ。君を召還したのは使い魔を召還する魔術を使ったからで……成功してるのかわからないけど……とにかく、よろしく」
それを聞いて、魔人も立ち上がる。
「我はシルヴェスタ。シルバでいい。魔界の王、魔王だ。」
「……あれ?魔王って三年前に勇者アレックスが討伐したんじゃなかったっけ?」
ここで少し、この世界について説明しなければならない。この世界には二つの地域が存在する。一つは人間が住み、王が統治する『人間界』。もう一つは、魔人が住み、魔王が統治する『魔界』。二つの地域は常に争っていたが、三年前、魔王は勇者アレックスによって討伐されている。
シルバはその言葉に顔を歪めた。
「確かに。我はアレックスと名乗る青年に討伐された。意識が朦朧としている中、目を見開いたら此処にいた、というわけだ」
セシルはシルバの体を観察する。頭から生えている大きな角。背中から生えるドラゴンのような翼に尻尾。確かに魔人のようだ。
「使い魔の魔術だが、成功していると思うぞ?」
「え?」
シルバは周囲を見回しながら言う。
「なんとなくだがな、お前の魔力の流れが分かる。おそらく、これが契約なのだろう」
「そっか。じゃあ」
そう言って、セシルは手を差し出す。
「これからよろしく。シルバ」
「……うむ」
シルバはセシルの手を握りしめた。
「……で、ここは何処なんだ?」
二人はゆっくりと周囲を見渡す。部屋は正方形になっていて、周囲には積まれた本や紙束で一杯になっている。その中で一か所だけ空いている場所にはハンモックがつるされていた。しかし、そのハンモックの上にも数冊、本が置いてある。お世辞にも、綺麗とは言えない。
「此処は僕の研究室だよ。その……あまり綺麗じゃないけど、愛着はあるよ」
「……我が喘息持ちでなくて、よかったな」