【心の変化】6
「では、ギルバートのところに行き、確認してこよう」
魔術の作成という特殊な仕事はシルバの手伝いで少しずつ前進していた。必要となるものは全部使った。古代魔術が収められている書庫には何度も足を運んだし、ギルバートに魔術の考察を聞きに赴いたし、クライヴにも知恵を借りた。
シルバはセシルの研究所から出て、ギルバートのところへと向かった。今日は時空の捻じ曲げについて、実験をしてもいいかの確認だった。時空を捻じ曲げることができれば転移の魔術は一歩前進することになる。しかし、それには危険が伴うので、ギルバートの許可を取ることにしたのだ。本来であればクライヴに相談すべきなのだろうが、彼いわく「私よりギルバートさんに言った方がいい方向に進みますよ」とのことだった。
いつも通り穴の開いた魔術棟のてっぺんから部屋に入ると、ギルバートはレポートを読み始める。
「時空を捻じ曲げるか……使い魔召喚の際も似たようなことしてたね」
「そうなのか」
「うん。魔術棟の中でやるのは危ないから、町から離れた研究所跡地に行けばいいよ。またアクセス権限を付与しておくからさ」
「うむ、頼む」
そう言いながら書類を片付けていると、ギルバートは真面目な顔になる。シルバは何か問題でもあったのか、と思い、ギルバートへと向き直った。
「政府が、セシル君を研究対象にするかも、って話、聞いた?」
「聞いた。イアン、とかいう男からな」
「……今はボクの力で抑えているけど、政府の決定には口が出せない。こんなこと魔術棟の管理人が言うのはなんだけどさ。シルバくん、セシルくんを守ってほしい。彼は、この研究室に必要な人材なんだよ」
驚いた。ただ研究室に籠って魔術を作ることに専念していたセシルに、これほどの味方がいることに。クライヴも、アレックスも、そしてギルバートも。
(セシルを知っている人間は、皆すべからく彼に好意を抱いている)
それが誇らしく、どこかで不貞腐れる気分だった。
(この者たちは、我の知らないセシルを知っているのか)
その感情に、シルバは苦笑する。
(これでは、恋する若者、だな)
シルバはギルバートに向き直る。
「承知した。セシルは我が守ろう。だが、ギルバート。お前の力を借りれるうちは、助力させるぞ」
「ははは、いいよ」
その言葉を背後に、シルバは宙へ浮いた。
(はやくセシルのもとに戻りたい)
もう自分の気持ちには気づいていた。
自分はセシルの隣へ少しでも長い間いたいのだ。




