【鎮魂祭と勇者】2
二人が話していると、部屋の扉がノックされた。いや、ノックという優しいものではない。壊れるのではないかという激しさだ。
「セシルさん!オレ!アレックスだけど!魔王に変なことされてない!?っていうか開けるね!」
扉がものすごい勢いで開き、そこから青年が出てきた。
精鍛な顔立ちに、程よくついた筋肉。背中には大きな剣を背負っているが、邪魔にしている様子もない。アレックスと名乗った青年は真っ先にセシルの前に立ちはだかった。
「やあ、アレックス。久しぶりだね?」
セシルはそんなアレックスに、のんびりと反応する。そんな反応はお構いなしに、アレックスは周囲を見渡した。視線がシルバと合った。その瞬間、アレックスは剣を抜く。
「セシルさん、下がってください!魔王シルヴェスタ!セシルさんに何をした!」
「……雑談をしていたが?」
「嘘つけ!大体、お前のことは三年前に討伐したはずだろ!」
「知らん。我も、なぜ召喚されたのか知らんのだ」
「アレックス」
アレックスの肩にポンっと手を置かれる。セシルはアレックスを落ち着けるように穏やかな声で言った。
「シルバは何も悪いことしてないよ。むしろ、最近、僕の生活はクオリティが爆上がりだよ、シルバのおかげで」
「……本当ですか?」
「うん、本当」
にっこりと笑ったセシルをみてアレックスは剣を収める。まだ少し不満そうではあるが、ひとまずは落ち着いたようだ。
「なんだ、勇者と知り合いだったのか」
「うん。彼も魔術使うし、その勉強をしに魔術棟へ通ってたことがあってね」
「セシルさんは、オレの師匠ですからね!」
誇ったようなアレックスに、シルバは「ふーん」といった態度である。
「そうか、アレックスが帰ってきたってことは、もうすぐ鎮魂祭なのか」
「そうっすよ。この時期だけは帰ってこないといけなくて」
「……鎮魂祭?」
シルバがそうきくと、セシルが丁寧に説明しはじめた。
「そう。戦争で亡くなった方とか、今年亡くなった方とかの魂を天国へ送るお祭りのことだよ」
「戦争に参加した身として、オレも参加しなきゃいけないってわけ」
「ふむ、なるほど。人間にはそういう文化があるのか」
「……そうだ。今年は僕も参加してみるから、シルバも一緒に参加しよう」
「我が?」
不思議に思った。祭ということは参加者の多いイベントだ。いまだに出勤と退勤時に手をつないでいるセシルが人混みの中に飛び込もうとしている。シルバはそれを指摘しようとすると、セシルは少し緊張した笑みで言った。
「戦争で亡くなったのは人間だけじゃない。魔人の魂も天国へ送らなきゃ」
「……そうか。そうだな」
シルバの言葉に、セシルは笑う。表情はまだ硬い。まだ緊張しているのだ。それでも、祭に参加しようとしているのは、何か意味があるのだろう。それを聞くほど野暮ではない。
その言葉を聞いたアレックスは嬉しそうにセシルへ抱き着いた。
「セシルさんも来てくれるんっすか!じゃあ、一緒に行きましょうよ!」
「駄目だよ。アレックスは勇者なんだから」
「魔王がセシルさんと一緒にいるんですよ?護衛、という形で」
本当に実行しそうなアレックスに、セシルはシルバに目配せした。苦笑するセシルに、シルバも諦めたように肩を落とした。




