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【鎮魂祭と勇者】1

「あー……あー……」

「先ほどから、何をうなっているのだ、セシル?」


 気づけば、シルバがセシルの使い魔になって一ヶ月ほどが経過していた。季節は初夏。少しずつだが、半そでの人も増えてきた。セシルは椅子の背もたれに全力でもたれながらうなり声をあげている。


「新しい魔術がなかなか完成しないんだよ」

「……そもそも、新しい魔術というのは、どう作成するんだ。誰かから依頼でもあるのか?それとも勝手に生み出しているのか?」

「うーん……半々?」


 セシルは椅子をシルバの方に向けると、話をはじめた。どうやら、作業を一時、中断するようだ。


「基本的には政府から指定された魔術を作るんだけど、その過程で新しくできた魔術も報告することになってる。例えば、ドライヤーってわかる?」

「髪の毛を乾かす魔道具だろう?」

「そうそう。あれの中身は『風を起こす魔術』と『火をおこして温度を上げる魔術』が入っているんだ。で、政府の依頼は『髪の毛を乾かす魔術』だったとしたら、その過程でできた『風を起こす魔術』と『火をおこして温度を上げる魔術』も一緒に報告する、って感じかな?」

「なるほど。で、今はなにをしているんだ?」

「転移の魔術だよ。これが難しくてさ。最終的には人や兵器を移動させたいんだってさ。そんな難しい魔術、僕が作れるかー!!って感じ」

「ふむ」


 セシルはうなだれる。


「……ここ最近、魔術の作成がうまくいってないんだよ」

「そうなのか?この間、召喚術を成功させたではないか」

「あれもね、僕がシルバを召還しちゃったから、魔人を呼び寄せるんじゃないか、ってことでリテイクなんだって」

「それは大変だな」

「他人事だなぁ……まあ、他人事なんだろうけど」

「他人事ではない」


 そう言いながらシルバは言葉を紡ぐ。


「本来、魔術を創造する能力というのは魔王の能力だ」

「魔王の?」

「うむ」


 シルバは頷いた。


「魔王の特殊能力は三つ。『魔術の創造』『魔術の消失』『不老』だ」

「じゃあシルバも魔術を作れるってこと?」

「いや、我は魔王としては欠陥品なのだ」


 その言葉に、セシルは喉を詰まらせる。シルバは落ちている本で手遊びしながら答えた。


「我が持っているのは三つのうちの一つ。『魔術の消失』だ。どのような魔術も強制的に解除することができる。しかし、残りの二つは持っておらぬ」

「……そうだったんだね」


 考える。魔王として能力をうまく受け継げず、魔王城に一人。孤独だっただろうし、周囲から馬鹿にされることもあったことだろう。いや、魔王の能力を受け継げなかったから一人だったのかもしれない。


「……じゃあ、僕とシルバで三分の二、魔王ってことかな?」

「ポジティブにとらえたら、そうだな」


 セシルが笑う。過去に傷ついたであろう、シルバに向けて、安心させるような笑みだった。

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