【共同生活】5
そこからセシルの生活は随分と変化した。朝はシルバに起こされ、朝食を食べる。身支度をして魔術棟に向かう。まだ人混みの怖いセシルはシルバと手をつなぎながら出勤した。
魔術棟ではセシルが仕事の間、シルバは魔術棟をうろうろしたり、食材や日用品を買ったりして過ごした。たまにギルバートのところまで行き、人間界について話してもらうこともある。そんな中、一人の男とすれ違い様、声をかけられた。
「もし」
「……?」
「君がシルバさんかな?初めまして、わたくしはイアンと申します」
「イアン?誰だ、貴様は」
不機嫌になるシルバに、イアンと名乗った男はにやりと笑いながら、一礼した。
「わたくし、魔人研究室に所属する人間ですよ。あまり身構えないでください」
「……我に何の用だ?」
「いえ、なに。わが魔人研究室は魔人の研究を行っている部署でして。いつかシルバさんとお話してみたかったのですよ」
イアンは白衣をごそごそとすると名刺を差し出した。
「本当はセシルさんも研究してみたいのですが、クライヴさんが許してくれないのですよ」
「セシルは人間であろう?何を研究するというのだ?」
「いえいえ、彼には『魔術を創造する』という特殊能力があるじゃないですか。あの能力を他の人間に転写することができれば、より多くの戦力増強になりますので……もしよければ、わたくしのところに来てみてください。セシルさんと一緒に」
『現在でも、彼を研究対象にしようとしている部署があります』
シルバはクライヴの話を思い出していた。
(そうか、こいつがセシルを研究しようとしている男……)
そこまで考えて、シルバはイアンに言葉を放った。
「残念だが、貴様に割く時間などない。どこかへ失せるがいい」
「おや、そうですか。まあ、何かありましたら、遠慮なくどうぞ」
イアンはその場を静かに去る。その背中に、なにか不気味さを感じながらシルバはイアンの名刺を見る。
「……魔術棟にも、敵がいるのだな」
名刺をしまい、シルバはセシルの研究室へ向かった。




