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【プロローグ】1
埃が舞っている。それは、この部屋が掃除されていないことを意味し、この部屋の主人は喘息持ちではないことを意味していた。
部屋の床には大きな紙が敷かれている。その紙には円陣が書かれていた。魔術を使うために記号として書かれた円陣。人はこれを『魔法陣』と呼んだ。その魔法陣が、埃舞うこの部屋の中心に置かれ、周囲に人だかりが出来ていた。
魔法陣に手を置く青年がいる。彼の名前はセシル。この魔法陣を作った張本人だ。
セシルは静かに魔法陣へ魔力を流す。周囲に風が吹き、魔法陣が光りはじめる。周りの人間が固唾を飲んで見守っていた。
「……いきます」
セシルの声と同時に、魔法陣がさらに強く光り始める。目を瞑り、光りが弱まるのを待ち、目を開く。
「……え?」
そして、彼らは別の意味で目を見開いた。
魔法陣の上、そこには一人の大男、いや、魔人が立っていたのである。