重役会議③
レックスからの遅すぎる報告により、半分スパイの疑惑は晴れた三人に、それではと顔を向けたのはユウヤだった。
「さて、では彼らはどう扱うべきか…」
「少なくとも先人に倣い『勇者』を保護したという声明は出すべきかと」
「隠して万が一が起きるよりかはマシか…」
扱いに困るという表情を隠しもしないユウヤに、声明は出すべきだと意見を出すミラ。そして何故ここまで面倒臭い会議が行われているか分からない、渦中の勇者三人組。参加しているメンバーは流石に面倒だという雰囲気を表に出すことは無いが、言葉の端々からその空気は感じているのだろう。
「まずは王城にてこの世界の常識を学ばせるべきでは?」
「どういうことだ?」
私が常識の学習を提案すると、ユウヤが何故かと問う。こればかりは前世の記憶が無ければ提案すらしなかったことだろう。
「彼らの世界…前世私がいた世界の創作物では、理由はどうあれ大抵の場合人類と魔族は敵対しています。勇者などという称号を持っていれば魔王と戦うことが半ば当たり前の創作物が殆どでした。けれどこの世界では違うでしょう?いらぬ先入観は取り払うべきです」
「ふむ…そうなのか?」
私がそう提案すれば、ユウヤは会話に着いてこれなくなってきていた三人に会話を振った。そこで漸く話の流れがつかめたのか、三人を代表して千佳が返事を返した。
「はい。レンさんの言う通りです。勇者と言われたとき、魔族や魔物と戦えと言われるとばかり思っていました」
「成程。少なくとも魔族と戦えなどと言うことは言わないから、そこは心配せずとも良い。しかし魔族と敵対する世界など想像もできんな。魔道具などはその創作物ではどうなっていた?」
「魔道具専門の人族の職人がいたり、色々ですね」
獣人たちのように亜人族と呼ばれる種族もいるけれど、この世界では獣人もドワーフもエルフも魔族である。ハーフは特徴が強く出た方の種族になるが、まあ大抵は魔族になるだろう。
とにかく、この世界の常識を学ばなければ不要な正義感で余計なもめ事を起こす可能性も無きにしも非ず。私はその可能性を提言しただけに過ぎない。そしてその可能性という物が軽んじれば大変なことになるものだと、この場の勇者三人以外が即座に理解した。
「よし、ならば各国への連絡はミラ、タカシ達三人への講義はレンが執り行うとする」
「はっ」
「いや待ってください。何で私が教育係なんですか」
「この場にいる者の中で一番時間に融通が利くのがお前だからだ。心配せずともギルドを通して謝礼はきっちり支払う」
「ならば仕方ないですね」
謝礼が支払われるのならば断わる必要も無いと掌を返した。そんなわけで期間限定とはいえ、勇者様方の家庭教師に抜擢されたのだった。