重役会議①
ギルドを出てすぐに向かった王城で、先程とは違う要件での訪問のため守衛に機密依頼書の封筒だけ見せて中へ通してもらった。その前に顔パスと言わんばかりに門を開けようとした守衛と、流石にそれはどうかと言ったやり取りも有ったが割愛する。
門を抜けて王城までの庭を歩いていると、目の前から一人のメイドが歩いてきた。丁寧な礼を私に取ったということは、今回の依頼に関する私の世話役は彼女らしい。
「お待ちしておりました、レン様」
「出迎え有難うございます。よろしくお願いします」
「とんでもございません。陛下がお待ちでございますので、会議室までご案内いたします」
最低限の会話のみで済ませるのは余程出来るメイドか、私のような冒険者ごときと言葉を交わすことに抵抗のあるメイドのみだ。特に王城に仕えるメイドは貴族の子女が多いため、一平民と言葉を交わしたくないと考える者も多い。とはいえこのメイドは前者であろう。機密依頼を出してまで呼び出した冒険者に悪印象を抱かせるような人事を、ユウヤがするとは考えられない。
王城に入ってからも、メイドは私を先導する形で廊下のど真ん中を歩いていく。時折すれ違う文官や騎士、メイドや執事のような者たちは、すれ違う際に廊下の端によって頭を下げていく。これは私の顔が売れているわけではなく、私が身に纏っているローブの効果だろう。
機密依頼をかけられると分かった瞬間に用意しておいたローブは、国から功績を認められた一部の人間にしか下賜されない逸品だ。滅多に下賜されるような物でもないそれは、多少の立場がある程度の相手には十全に役割を果たしてくれる。
「こちらです」
「有難うございます」
そんなこんなで避けられつつ辿り着いた会議室は重厚な扉で中を完全に隔離していた。扉を開けるのは私の仕事だ。この扉は許可された人間以外が触れると高圧の電流が流れるように細工されている。それこそここまでの案内役を任されたメイドですら触ることは許されないものだ。
ギィと重い音を立てて開いた扉から体を潜らせて、完全に閉じたことを確認してから円卓の一角に座る。私が最後だったようで、他の席は全て埋まっていた。
「お待たせして申し訳ありません」
「構わん、定刻までまだ時間は有る」
念のために謝っておいたが、事実会議が始まる時間まではまだ余裕のある時間帯である。この場に私以外が全員集まっていたのも、会議の内容が内容だから慌てて集まっていただけだろう。
「さて、定刻前だが全員揃ったため会議を始めるとするか」
「ではここからは私、ミラが会議を取り仕切らせていただきます」
ユウヤの声に反応して司会進行を請け負ったのは、宰相であるミラ・ド・ジルベルトだ。高い魔法技術と豊富な知識、ユウヤの家庭教師だった経緯から女でありながら実力で宰相となった傑物である。
他にもローゼ・ド・トスカーナ近衛騎士団長、そして渦中の勇者三人組も着座している。長く面倒な会議になりそうな気配に、静かにため息を吐いた。