落ち人③
レックスが自動翻訳のスキルを三人に与えている間、私はユウヤと二人で今後の彼らの扱いについて相談していた。
「して、この後はどうする?」
「私と同じように冒険者として活動する…というのでも良いかとは思いますが」
「…理解していて言っているだろう?落ち人ならば【勇者】の素質が有るやも知れん」
―勇者―
この素質は非常に厄介である。勇者だからと王家のように特別な魔法が使えるようになるわけでは無いが、どの属性の魔法であっても魔のものに対して特攻性を持つことになる。何が厄介か、この魔のものと言うのには魔族も含まれる。下手に扱うと魔族からの敵愾心を煽ることにもなりかねないため、万が一勇者の素質が有るとなると国際問題にも発展する。
「仮に勇者だったとしても、それは私が関与するべき問題では有りません」
「彼らを連れてきたのはお前だが?」
「法に則り落ち人を保護したまでです。それ以降は国の問題でしょう」
私はあくまで国の上層部にも多少顔が利く一冒険者に過ぎない。国際問題に発展する可能性のある国政になど、関与する権利はないし義理も無い。ギルドを通して依頼されたならまだしも、今の時点で私がこれ以上関わる必要性は皆無だ。
「分かった。ならば今晩にでもギルドを通して―」
「陛下、お話し中失礼いたします」
「構わん、どうしたレックス」
話の途中に言葉を差し込んできたレックスの顔色は悪い。まさかとは本当に勇者の称号を持っている奴がいるとか言わないよな?まあ最悪のパターンは三人とも勇者って事なんだけど、流石にそれは出来過ぎだ。
「翻訳のスキルの定着が確認出来ました。…出来たのですが、彼ら三名とも勇者の称号を持っていることが判明いたしました」
「なっ!?三人ともか!?」
「はい。ステータスをこの目で確認しましたので間違いございません」
これ以上ない最悪のパターンだった。これがフラグ回収という物だろうか。立ってから回収までのスパンが短すぎる。しかもこの状況下で勇者だと判明したということは、私はギルドからの指名依頼を断れない立場にあると言うことだ。何せ勇者の存在は秘匿するべき国家機密となる。知っている人間は少なければ少ないほどいい。
そんなわけでユウヤは上機嫌でギルドへ指名依頼を出すようレックスに指示を出した。レックスも想定内だったのか顔色一つ変えずに一礼してから謁見の間を出て行く。残されたのは面倒事に巻き込まれることが決定した冒険者一人と、異世界からの勇者が三人。
「えー…と、取り合えずこの言葉わかる?」
「ああ…本当に日本語じゃ無いのか?」
「違うよ。日本語で喋りたいときは翻訳スキルをオフにすればいい話だよ」
『…こんな感じか?』
「上手い上手い」
どうやら隆は状況適応力が高いようだ。手にしたばかりのスキルのオンオフなど、基本は慣れてからでないと難しいのだけど。これはスキルの感覚は隆から残り二人にレクチャーさせるべきかと判断した。これから扱いが決まるまで王城で保護という名の監視生活を送ることになるのだから、どうせ教えを受けるなら同郷のものからの方が良いだろうという判断だ。
決して面倒臭いと思ったからじゃない。