落ち人②
―ドラグニル王国―
四方を魔物の出る深い森に囲まれる列強国の一つ。そんな国の平民として生まれ冒険者として身を立てているのが私である。冒険者歴は十年。十歳の誕生日から登録し活動している私は既に上級冒険者として国や貴族からの指名依頼もいくつか熟している。
それ故通りやすい要請もいくつかある。今回の国王と魔法師団長への緊急の謁見依頼もそのうちの一つだ。
「して、その者らが落ち人か?」
「左様でございます。依頼の途中奇妙な魔力反応を察知し、その場にいた者達です」
王座に座りこちらを見ている若い男はユウヤ・ド・ドラグニル。この国の国王である。十年前、若干二十歳で王位を継承した名君と知られるこの王は、基本的にプライベートと仕事を完全に切り分けるタイプの人間である。国王なのにプライベートの時間が取れるのかという疑問は意味をなさない。実際に取って見せるのがこの国王である。
「ふむ、名は何という?」
「…確認しておりませんでした、少々お待ちください」
『君たちの名前は?』
王宮に入ってからあちらこちらを眺めては混乱している様子だった三人も、謁見の間に入った瞬間に緊張から私の後ろで縮こまっていた。というよりユウヤからの威圧感によって固まってしまっていたと言ったほうが正しいか。王家の人間しか使えない王族専用の魔法の中にある威圧魔法を放っているのは、落ち人とは言え見知らぬ人間がいるためか。
そしてユウヤに聞かれてから私は三人の名前すら知らなかったという事実に気が付いた。いや名前を知らなくても話は済んだからという言い訳を心の中だけで言っておく。
『な、何で名前なんだよ』
『あちらにいる国王陛下が君たちの名前をご所望だ。因みに私はレン・ブロッサム』
『…溝口 隆』
『凪 千佳よ』
『小林 剛です』
『良い名前じゃないか。もう少し待っててくれ』
「こちらからミゾグチ・タカシ、ナギ・チカ、コバヤシ・ツヨシとのことです。名前の方が後にきます」
「ほう、東方風なのだな。何故そなたは彼らの言葉を理解している?」
「それ今必要なことでしょうか?先ずは彼らに自動翻訳のスキルでも与えないと話が進まないですよ」
「それもそうだな。レックス」
「はっ」
ユウヤの横に控えていたレックスはこの国の魔法騎士団長である。魔法以外にも、魔法から派生したとされるスキルの扱いに長け、スキルを与えるスキルも持っている。と言うよりそのスキルを持っていることが魔法騎士団長になるための最低限の資質であるといつかどこかで聞いた気がする。
『これからこの世界の言葉が分かるようになるスキルを君たちに与えるって』
『…必要なんですか?』
『私がずっと一緒にいられるわけじゃ無いから必要だね』
そうしてレックスがこちらに来るまでの短い間にスキルを与える必要性を簡単に説明したため、三人は不満げな顔をしながらも抵抗することなくスキルを受け容れた。