森の調査
ドラグニル王国の歴史についての講義をしてから早三ヵ月。今日は王宮では無く久々に冒険者として森に来ていた。急を要する確認事項が発生したため、講師業は暫く休みをもらうことになった。確認事項とは『ブラックライノの異常繁殖について』の調査である。
サイの魔物の中でも特に頑丈なブラックライノは、その頑丈さゆえに外敵から襲われにくく、繁殖も頻度が低い傾向にある。それでも繁殖期は有るし、その際に生まれてくる個体の数は片手では足りない。生まれたばかりのブラックライノはまだ皮膚も柔く、他の肉食の魔物や動物に狩られることも有る。
では異常繁殖とは何か。本来片手では足りずとも両手で足りる程度の繁殖しか行わないブラックライノが、両手足の数でも足りない程に大量繁殖することを意味する。しかもそれが一個体だけでは無く複数個体で確認されると『異常繁殖』と認識されこうして上級冒険者が調査に赴くことになるのだ。大抵は他の魔物にも異常行動が見られるために、中級以下の冒険者では最悪調査から戻れなくなることも考えられるため、つまりは死ぬ可能性も有るためだ。
そんなことを考えながら指定されたポイントに付くと、気配を殺して茂みに身をひそめる。視線の先にはブラックライノの群れと、その中に複数の番らしき個体を発見した。メスのブラックライノが体を震わせながら産み落としている幼体の数は報告通り異常な数で、しかし天敵となり得る魔物や動物が増殖したという話は耳にしていない。まあまだ誰も認識していないだけかも知れないけれど。
どちらにせよ放置すれば氾濫となるのは間違いないレベルでの繁殖スピードである。ここで狩りつくしてしまいたいところだけれど、その前に確認しなければならないことも有る。
この群れの他にブラックライノの群れがいなければ、この森でブラックライノは絶滅することになる。生態系を維持するためにも、それは避けなければならない。
魔法でこのポイントをマーキングしてから、一度この場を離れる。他の群れが見つかっても見つからなくても、この場所にはまた戻ってくるだろうから。
音を立てずにポイントを離れる。ある程度の距離まで離れれば即座に木へ飛び移り木々の間を飛んで移動する。ブラックライノが好みそうな繁殖地にはいくつか心当たりがあるが、急いで移動しているのには訳がある。先ほど見たブラックライノの群れは、どう見てもいくつかの群れが合流したような規模だった。もしこれから向かう先々でブラックライノが見られなければ、群れが合流した可能性は一気に高まり、これから先打つ手も考えなければいけないからだ。
嫌な予感という物は大抵外れることは無い。それはどの世界でも変わらぬ理であると言うことを、森中を走りながらひしひしと感じていた。