王国史
この世界には地球程とは言わないまでも数多の国が存在している。
ドラグニル王国を中心に、北はサヴィス帝国、南はメディチ公国、東はウィーク王国、西はイリー連邦が大国として存在している。
それぞれの国とは友好条約を締結し、過去百年に渡って小競り合いを含めて揉め事は無く、実に平和的な付き合いを続けている。特にメディチ公国とウィーク王国は元々仮想敵国として互いにけん制し合っていたが、ドラグニル王国が間に入ることで平和条約を締結、それが五十年前の出来事である。
サヴィス帝国とドラグニル王国の間には海が存在し、王国北部の主な産業になるほど漁業が盛んである。逆に南部では羊や馬、牛などの家畜業が盛んであり、特に羊毛は南部の主産業となっている。交通網もドラグニル王国は世界に類を見ないレベルで高度であり、北端から南端までの輸送も一日で済むことから、内陸部でも魚介類を口にすることが出来る。
概ね平和であるドラグニル王国だが、豊富な資源と輸送技術を目的に小国から攻め込まれることは日常茶飯事だ。地図に記されない程小さな国でも、ドラグニル王国の資源一つ占有できれば影響力は大国並みになるという飴でもある。その飴を手にするためにドラグニル王国の騎士団や魔法騎士団と戦闘になるという鞭が用意されているのだが、それを承知で攻め込んでくる小国は後を絶たない。
そもそも何故大国と友好条約を締結しているドラグニル王国へ小国が攻め込んでくるかと言えば、話はドラグニル王国の興りまで遡る。
ドラグニル王国は今から凡そ千年前に建国された、世界的に見れば若い国である。
建国時、時の国王は周囲の国々に対し不戦宣言を発しており、攻め込まれてきた時以外に国家戦力を動かすことはしないと取り決めていた。国防にのみ注力できる環境で設立された騎士団と魔法騎士団はその実力を着実に伸ばし、逆に外へ攻め込まないことからドラグニル王国の戦力を過小評価した国は、満足な戦力を投入することなく攻め入っては手痛い反撃を喰らうという歴史を繰り返してきた。
現在ではドラグニル王国を舐めてかかる国は無いと言えるが、それでも大国と言えないレベルの国からの侵略にドラグニル王国が負けることは無い。東西南北に存在する大国とは既に友好条約を締結しているためそちらからの侵略も殆ど心配はいらない。完全に信用するという危ない橋を渡ることは難しいけれど、各国に放っている密偵からこれといった情報が齎されていない以上、今のところは安全だと判断できる。
そんなドラグニル王国だが、建国したのは三人と同じ落ち人であると予想されている。建国当時、既に存在していた東西南北の大国から人材を募り、国の要職に付けたとされている。建国時から存在している貴族家は特に各国の貴族と強いつながりがあり、建国時に尽力した貴族家程その風潮は強い。今もなお大きな発言力を持っているのは、偏に現在に至るまで国の要職に就き尽力しているが故である。
とはいえ要職に就き続けるのは容易ではない。建国時から続いている暗黙の了解として、無能は排斥するという物が有る。同時に有能なものは身分問わず重用するという意識も当然のものとして存在している。他国では何よりも立場が物を言うのに対し、ドラグニル王国では例え平民であっても能力が有れば意見を通せるという風土が確立しているところが、初代国王が落ち人だったのではという仮説に信憑性を持たせている。
「そんなわけでこの国では立場じゃなくて能力で人を見るべきという意識が貴族平民問わず有るわけだね」
「けれど平民が貴族に能力で上回るというのは難しいんじゃ…」
「確かに難しいけれど、それは貴族も同じだよ。この国では平民でも教育を受けられるような仕組みも有るし、既に活躍している人より有能であると証明するのは貴族平民問わず難しい」
抱いて当然の疑問を口にした隆に同意しつつ、そもそも若輩が老輩に勝てることが少ない事実を伝えると、三人ともそれもそうかという表情になった。




