昼食と座学準備
彼ら落ち人がこの世界にやってきて一ヶ月。魔法の訓練も昨日から始めたことだし、そろそろこの国の歴史についても軽く触れておくべきタイミングだと感じた私は、三人に先に応接間へ向かうよう指示を出してから教材になる世界地図を蔵書庫へ取りに向かった。
なるべく大きな地図を取り出し、額縁に飾られているそれを片手で抱える。途中誰かに見られても問題ないような地図を選んだけれど、これを見た彼らの反応は手に取るように分かる。私も驚いたものだから。
そんな地図を持ちながらいつも通り決まったメイドに案内されて向かった応接間で、三人は既に席について待っていた。
「さて、今日の午後はこの国の歴史について勉強する予定だよ。その前にお昼ごはんだけれどね」
「その大きな額が勉強に必要になるということですか?」
「そうなんだけど、歴史については絶対に覚えなければいけない部分は随分と少ないからね、私はボードに書き込むけれど、皆は板書はしなくていい。というか物で残ると困るから板書はしないように」
説明中に入れ替わり立ち代わりで出入りしていたメイドたちが用意したサンドイッチを食べながら、私は三人に念を押すように板書はしないようにと伝えた。国の歴史の教授には問題は無いけれど、そこに入ってくる世界情勢はあまり物が残るとよろしくない。出来るだけ中立的な立場で話はするつもりだけれど、それでも私は王国の人間だから、もしかしたら贔屓が出るかもしれないからね。
そうして話をしながら食事を済ませた私たちは、メイドたちが片付けるのを手伝いながらそれぞれ机の準備やボードの準備を始めた。私はボードの中心に持ってきた世界地図を固定して、四隅に文字を書き込むスペースを確保する。
机を準備しながら私の手元を見た三人は、驚いた後小声で地図について言及し始めた。何故なら私の用意した地図は国境線すら記載されていない大雑把なものだからだ。おおよその大陸の形とおおよその各国の分布が記載されているだけの、現代日本を知っていれば有り得ないと言わざるを得ない世界地図。そんな地図を用意すると言うことは信用されていないのではと言う意見も出ていたが、単純に国境線などが記載されている詳細な地図は国家機密であるというだけの話である。
文化水準だけでいえば現代日本に匹敵するほど便利な魔道具などが溢れている世界だが、かと言って国際的な問題まで日本並みに平和かと言われれば否と言うしかない。仮想敵国はいくらでも有るし、条約を結んで平和的に取引を行う国とていくらでもある。国同士のしがらみに捉われない職業など、それこそ冒険者程度だ。その冒険者とて、国外に拠点を移すときには厳重な審査が入るものだが。
何はともあれ、どんな職に就くにしても、それこそ冒険者を目指すにしても国際情勢という物は簡単に頭に入れておいて損はない。口伝にするのは万が一物に残してそれを起因として国際問題が起こらないようにするための防衛策だ。
そんな説明を先にしなければ授業に身は入らないだろう様子の三人を尻目に、私はボードの四隅に所謂大国と呼ばれる国の名前を記していった。
そこから十分程して漸く三人も授業を受ける準備が整った頃、私は先に地図が大雑把な理由を説明することから始めたのだった。




