閑話:王と宰相と冒険者と
王宮の最奥。国王ユウヤの執務室にて、ユウヤ、ミラ、レンの三人は勇者三人組のことで話を咲かせていた。
「あの三人はどうだ?」
「今のところはこちらの言った事を反復練習する。それだけしか出来ていないね」
カランと手元のグラスの中で音を立てる氷を眺めながら、レンはユウヤからの問いに簡潔に答えた。
「以前危惧していた件はどうなったの?」
「ああ、言った事を全て鵜呑みにするっていう件ね。一応指摘はしたけれど、だからと言って他に意見を聞ける人間がいる訳でもないしって話に落ち着いたよ」
唇を濡らすアルコールの香りを楽しみながら、同じくグラスを傾けるユウヤとミラに対して現状を報告するレンは、冒険者ではなく付き合いの長い友人と接するような態度だった。
「彼らに多くの選択肢を与えることが出来ないのは、我が国の瑕疵だな」
「だからと言って今の状態で他国へ向かわせることなどできませんよ」
「分かっている。だからこそせめて生き方だけでも自由に選んで貰いたいものだが…」
ユウヤとミラが話している最中にも、空になったグラスに手酌で酒を注ぐレンは、ユウヤのその言葉に僅かに反応した。
「どうだ?何か希望する生き方や仕事などは聞いていないか?」
「多分だけれど冒険者を選ぶと思うな。三人でパーティーでも組んで」
「冒険者…ですか」
ユウヤの問いに答えたレンの言葉に、難色を示したのはミラだった。この世界の住人ですら大成することを夢見て冒険者になる物は少なくないが、上級冒険者として登録されるものの数など極僅かだ。今から魔法も剣も修行するとなると、上級に食い込める確率は更に下がると思って良いだろう。
「きちんと冒険者の実情は伝えているのですか?」
「今からスタートしても大成は難しいことはきちんと伝えているけれどね。夢を見るのは自由だろう」
ミラの懸念ももっともだ。実際今日に至るまで魔道具を使うためという名目で魔力操作の自己鍛錬を言いつけ、魔法を実際に行使できるだろう練度になるまでに一ヶ月かかっている。このペースでの上達ならば生きているうちに中級に食い込めれば良いほうだというのはレンの感想だ。
「それに私みたいにソロではなくパーティーを組むのであれば、魔法も剣も両方完璧に使えなくてはいけない、なんてことは無いからね。特に回復魔法や支援魔法に優れたヒーラーに誰かがなれるのであれば猶の事」
「回復職ですか…。しかしそれこそ練達の魔法師がなれるかどうかですよ?」
「彼らの強みはそこなんだよね」
レンがそう言うとユウヤとミラは疑問符を浮かべた。練達の魔法師並みの強みとは一体何だというのだろうかと。
「彼らの世界には魔物や魔法なんてものは無い。そんなものは空想上の娯楽作品の中にしか存在しない。けれどそう言ったものに触れてきたのなら、魔法を使うためのイメージに何を浮かべればいいか、なんていずれ自ずと最適解が浮かんでくるものだよ」
「ユニーク魔法師であり上級冒険者でもあるお前のように、か?」
ユウヤの問いにレンは微笑みながら酒を呷ることで返答を返した。これ以上は言うつもりは無いといういつものレンの意思表示だ。
結局ユウヤとミラの求める答えでハッキリと帰って来たものは、三人が選べる選択肢が少ない事と冒険者を目指しているらしいこと程度で終わった。しかしその後も話題は尽きることなく、今度はユウヤやミラの国政に対する愚痴をレンが聞くというスタイルに落ち着いた。