閑話:高校生三人組
隆、千佳、剛の三人は、それぞれに与えられた王宮のゲストルームの一室に集まっていた。
「初めて魔法らしい魔法を使ったけど、イメージって疲れるな」
「そうね。魔力を絡めてだから余計にそうなのかも」
「でもその分達成感もあったよね」
ある日突然訳も分からず異世界に放り出された三人は、レンという元同郷の手を借りてドラグニル王国に保護されることになった。最初こそ急な転移によって帰る場所を無くした悲壮感に満ちていた空気も、一週間も経った頃には随分と薄くなっていた。
「でも魔法を教えてもらえるまで意外と時間がかかったわね」
「今までこの世界にまだ慣れてないって思われてたんじゃねえか?」
魔道具を使う以上魔力操作の方法は先んじて教わっていたものの、本格的な魔法技術という意味では本日が初めての魔法教練だった。その理由は隆の言う通り世界に慣れていないという事実も一端を背負っているが、大元はまた別であることは、三人には与り知らない事だった。
「でも自主練を禁じられるとは思わなかったな」
「禁じられているのは実際に魔法を行使することで、イメージを深めることは禁止されていないけれどね」
これもこの世界の魔法を学び始めた子供には良く言われることである。監督者のいないところで魔法が暴発でもすれば大惨事になると、イメージの訓練だけは許可するが実際に使うことは許可されにくい。反抗期が早い子供はその言いつけを破ることも多々あるが、隆たちは高校生と言うある程度先達の言いつけを守るべきと言う常識を持っている時分のため、言いつけを破ると言うことは無い。
「そう言えば二人とも、進路決まったか?」
「そういう隆はどうなのよ」
「俺は冒険者一択だな」
「私もよ」
「僕も。何なら三人でパーティーを組みたいくらい」
「良いなそれ!」
進路と言う名の将来的な希望職種については、レンの想像通り三者とも冒険者を志望していることが判明した。更に折角幼馴染同士でそろっているのだからと、剛はパーティーを組むことを提案し、隆が同調する。千佳も不服は無いようだ。
「それなら剛がパーティーのヒーラーになるのかしら」
「どうだろうね。イメージさえ掴めれば隆や千佳の方がヒーラーに向いてるかも知れないよ?」
「俺はどっちかと言うと剣で戦いたいんだけどな」
炎を纏った剣を使いたいと夢を語る隆に、確かに実現すれば高威力の攻撃になるだろうと千佳と剛も同意する。名前を付けるとすれば魔法剣士と言ったところだろうか。騎士団も魔法騎士団も有るこの国では、既に実用化されている技術の可能性も高いだろうとあたりを付ける。
「私は魔法師としてやっていきたいわ。武器を構え続けられるほど筋力に自信が有るわけじゃないから」
「僕は槍とか格好良くて憧れるなぁ。千佳がヒーラーになってくれれば槍士でやっていきたい」
それぞれ希望の戦闘スタイルを口にしては実際そうなったときのことを空想して笑い合う。そんな賑やかな夜だったが、暫くしてから千佳と剛は己に与えられたゲストルームへ戻っていった。
あくまでまだ空想の話。しかし三人はきっとこの話は実現するだろうと希望をもって翌日からの講習にも望むこととなる。