落ち人①
レン・ブロッサム二十歳。私は両親の反対を押し切って冒険者になっていた。
五歳の頃から地道に訓練を続けてきたおかげで、今はユニーク魔法師として何とかやっていけるようになった。生活魔法のステータスが有ったおかげでもあるからそれには感謝している。
上級冒険者として有る程度名が売れてきた頃、依頼のために立ち寄った森の中で、強い魔法反応を確認した。
何か悪い事の予兆かと冒険者として確認しに行ったが、予想以上に面倒臭そうな事態になっている様子だった。
同じデザインの制服を身に纏う男女三人が、訳が分からないといった表情で周囲を伺っていた。ギリギリ声が聞こえる位置まで移動して観察したが、会話の端々を聞き取るに日本人の高校生らしい。
面倒臭いなと思いながら敢えて音が出るように三人の元へ歩み寄ると、こちらに気付いた三人は固まりながらも近場の枝を掴んで構えた。
『だ、誰だ!?』
『それはこちらの台詞なのだけど…』
久方ぶりに聞いた日本語と、久方ぶりに話した日本語だけれど上手く会話になっているだろうか?
『ここはどこだ!俺たちに何をした!?』
『それも半分こちらの台詞なのだけど…』
彼らは所謂【落ち人】と呼ばれる者たちだろう。確か初代国王も落ち人だった筈。
―落ち人―
私が元居た世界、彼らがいた世界は、この【ドゥエモンディ】とは次元回路が全く違うらしい。元の世界のほうが次元としては格上で、故に落ちてくるのは簡単でも上るのは難しいという話だとか。だからこそ私のように転生する者も何かに巻き込まれて転移してくる彼らのような存在も稀にいるらしい。因みに転生者は落ち人とは言われない。私のように転生者であると自ら名乗り上げる人間はそうそういないし、いたとしても生まれた時からこの世界にいるのだから落ち人ではないという判断らしい。要は命だけでこの世界にやってきたか、肉体までもってこの世界にやってきたかの違いだ。
『まあ取り合えず君ら、日本人だろう?』
『はあ!?当たり前だろうが!お前だって日本語喋ってんだから日本人だろ!?』
『残念。私は元日本人だよ。詳しい話をしたいし聞きたいのだけど、取り合えず動ける?』
日本語を喋っているのはそう意識しているからなのだけど、それを今言ったところで詮無い事だ。冒険者としての依頼はキャンセルするほか無いけれど、この世界には落ち人を見つけた場合優先的に保護するべきと言う法律も有るからペナルティは無いだろう。後はこの三人が大人しくついてきてくれるかどうかだけど。
三人は少々話し合った結果、私の後を少し離れて着いてくることになった。
着いてくるなら文句は無いが、こそこそと話している内容が私に丸聞こえなのが何ともいえない。