魔法の実践③
隆が私の指に魔力を送っている最中、他の二人にはそれぞれ傷を癒すイメージを固めておくようにと言い含めた。最初に逆再生するようなイメージをする者が多いとは言ったものの、だからと言ってそれ以外のイメージ…例えば抽象的に傷が治るなどと言ったイメージで治癒魔法を行使する人間がいないかと言うとそうではないからだ。
その事も伝えながら先ずは隆の訓練として十分弱待ってみたが、魔力を放出するだけで治癒魔法には変換されなかった。イメージし続けるだけでも結構な負担になるため、隆の訓練は今日はここまでにすることにした。
「じゃあ次は千佳」
「はい!」
治癒されていないままの指を千佳に向け、隆には休憩に入るように伝える。気力を使い切った隆はその場に座り込み休憩のための体勢をとる。地べたに当たり前のように座り込む姿を見ると、この一ヶ月で随分とこの世界に慣れて来たなとどこかで感心する。
そんなことを思っている時でも千佳はずっと私に魔力を放出していた。隆とは違い事前にイメージの練習時間が有ったからか、僅かながら傷口が塞がったようだ。とはいえ流血を止めるほどには至っていないことを考えると、矢張りイメージを確立するまでが一番デカいハードルと言えるだろう。
結局隆と同じく十分弱で集中力の限界が来たため、千佳にも訓練はここまでと伝えて休息をとるように指示した。最期に剛に傷が塞がり切っていない指を向け、魔力の放射を受ける。すると先の二人とは違い、僅か一分で傷が正確に治癒された。これには私も驚いた。
「凄いな。私でも最初はここまでスピードは出せなかった」
「イメージするための時間はたくさん頂きましたから」
「ちょっと、どういうイメージでやったの?やっぱり逆再生?」
千佳とて僅かながらも治癒できたということはイメージに間違いは無いのだろうが、それ以上に完璧に素早くやってのけた剛のそれが気になったのだろう。かくいう私も気にはなっているため聞いてみたいと思う。
「えっと…傷を逆再生ってイメージは僕には出来なくて…だから凄く強力な絆創膏を張るイメージをした…かな」
「え!?そんなので出来るの?」
「多分僕にはこのイメージが合ってたってだけだと思うけど」
剛の言う通り、剛にはそのイメージが合っていたのだろう。傷を治すと言うより塞ぐことに注力した魔法と言っても良い。それでも初回で一分と短い時間で出来たということは、訓練次第でさらに大きな傷でも短時間で応急処置程度は出来るようになるかもしれない。
「レンさん、剛のイメージでやったら俺でも治せるかな?」
「どうだろうね。剛には剛の、隆には隆のピッタリ嵌るイメージがある筈。だから焦らなくて良いよ。この程度の練習にはいくらでも付き合うから」
一番傷に影響を与えられなかった隆は微妙に落ち込んでいる様子だが、無属性魔法は本当に人によってイメージが異なる。自分にあったイメージを掴むために数年かける者も少なくはない。
そのことを伝えると隆は「数年…」と若干遠い目をしたが、逆を言えばコツがつかめれば早いとも言えるため、頭を軽く叩いて気を散らせた。