魔法の実践②
さて、適性属性の初級魔法の行使に成功した三人だが、魔法師としてはここでやっとスタートラインに立ったと言っても過言ではない。
当然三人とも魔法師を目指しているわけでは無いが、それでも使える手段が多ければ多いほど良いのは自明の理である。但し悪戯に魔法を放つことが魔法の習得に役立つかと言われれば微妙に違うと首を振らなければならないが。
「よし、これで初級魔法を扱う感覚は掴んだかな?」
「「「はい」」」
「では明日からの講義には必ずこの魔法訓練を組み込む。三人は講義以外の時間で、最低一時間は魔力操作の訓練を続けるように」
魔法はレベルが上がれば上がるほど緻密な魔力操作が必要になる。ただ単純に魔力操作の訓練を続けるだけでも少しずつ魔力は増えていくし、今後上級魔法を憶えたいときにも役に立つのだから続けなければ意味が無い。
それこそ将来的に冒険者になろうとなるまいと、出来ないよりは出来る方が良いだろう。
「じゃあこれから『無』属性の魔法の訓練に入る」
「無属性ですか?」
「そう。基本の火、水、土、風以外の属性を総称して無属性と呼ぶ」
例えばステータス魔法。これは無属性魔法の中で最も様々な人間が使う魔法と言っても良い。その他にも治癒魔法や空間魔法などが無属性魔法に組み込まれる。
治癒魔法は極めれば欠損した四肢を修復することも可能と言われ、空間魔法はある程度のレベルまで行くと異空間収納魔法が使えるようになる。どちらも生活に直結する魔法であるため、大抵の人間はその職に関わらず一度は極めようと練習するものだ。
「その中でも先ずは簡単な治癒魔法から練習しよう」
そう言って異空間収納からナイフを取り出した私は、そのまま指先を小さく切りつけた。プツリと血がにじむ指先を眺めながら三人に突き出す。
「無属性魔法は属性魔法以上に感覚的な魔法だ。イメージは十人十色。故に魔法書を作ることも出来ない。先ずはこの小さな傷を治せるか試してみよう」
「だからっていきなり指を切らなくても!」
「宣言してから切るのも変だろう?」
「どちらにしても変です!」
千佳に非難されながらも、方針を変えるつもりは無くそのまま指先を三人に向けて伸ばす。
「とにかく一度やってみよう」
そう言うと三人は恐る恐ると言った様子で私の前まで歩いてきた。少し前まで平和な日本で暮らしていたことを考えると、確かに事前告知なく自傷行為は刺激が強すぎたか。
「治癒魔法は無属性。魔力を火や水に変換して行使する属性魔法とは違って、魔力そのものにイメージを込める。良く聞く神官の称号持ち達は、傷が逆再生するイメージを付与すると言う。その通りでなくともいいけれど、先ずは魔力に治癒のイメージを込めるところから」
そこまで説明した後駄目押しで切った指を先ずは隆に向ける。隆はそろそろと両手を私の指にかざし、魔力の放出を始めた。