魔法の実践①
王宮の一角、魔法騎士団の演習場に三人を連れて来た。
先ずは初級の魔法が使えるようにならなければ適性を測定した意味もない。というわけで、隆には『ファイアーボール』、剛には『ロックバレット』、千佳には『ウォーターボール』と『ウィンドカッター』の魔法を教えることにした。
それぞれに魔法書を渡し、魔力操作の方法、それを魔法に還元する方法、魔法として放つためのイメージの確立まで一度自分たちだけで解釈し、それでも出来なければ私が口を出すという方法を取っている。
いくら魔法書に乗っているとはいえ、魔法とは元来感覚的なものである。一度コツを掴めば早いが、そこに行くまでに時間がかかる者も多い。だからこそ魔法について教える前から魔力操作の方法だけは教えて感覚を掴めるようにしておいたのだけれど。
「あっ、もう少しだったのに」
最初に声を上げたのは隆だった。伸ばした手の先に小さな火の玉が現れ、それを打ち出すことが出来れば魔法として完成だったのだが、打ち出す瞬間にイメージが崩れたのか火の玉が霧散した。
とは言えまだ私に声をかけに来ないということは自力でやってみたいということだろう。失敗し気まずそうな表情でこちらを見る隆に一つ手を振り気にしていないことを伝えると、正しく伝わったのか溜息を一つ零して再度魔力操作に集中し始めた。
「出来た!」
次は千佳だ。千佳は水属性の魔法と風属性の魔法を同時並行で鍛えることに決めたらしく、魔法書も二つ開きながらイメージを繰り返していた。まずはウォーターボールが成功したらしく、用意していた的が一つ砕けていた。
「俺も出来た」
剛は小ぶりな石をいくつか作り的に当てることに成功していた。但し威力は足りなかったようで的の破壊には至っていない。先ずは的に当てることを目標にしているため破壊は出来ずとも成功ではある。本人は納得がいっていないようで声は小さかったが。
「くっそ二人とも先行きやがって!俺だって…!」
千佳と剛が成功しているという事実は隆への発破にはちょうど良かったらしい。操作する魔力量を大きくし、手元に現れた火の玉は最初の失敗の時よりも二回りは大きい。それを勢いをつけて放ったため、隆の的は三人の中で一番派手に壊れることになった。
「よっし!」
「大人げない」
「まあまあ、これで僕たち全員成功したんだし」
喜ぶ隆に呆れる千佳、宥める剛という構図が出来上がり、改めてこの三人は仲が良いなと感じた。不仲よりは余程良い。
さてこれで三人とも一回は魔法の行使に成功したことになる。これで次のステップに進む準備が整った。時間を確認すると今日の講義を始めてからまだ一時間程度。今日はもう少し詰められるなと、仲良く成功を喜ぶ三人を見ながら考えた。