勇者とは②
勇者についての講義が一通り終わった後、隆と剛からの質問を受け付けている最中、千佳は一人考え込むように黙り込んでいた。
「千佳?分かりにくいところが有ったかな?」
「え!?いえ、大丈夫です!ただ…」
「ただ?」
「その…勇者と言うことで、魔族の方から嫌な目で見られないかと不安で」
成程そう来たか。
確かに魔族の中には勇者と言うだけで嫌悪を抱く者もいないとは言い切れない。ただし普通に生活を送る分には無用の心配とも言える。
「勇者の特性について理解している者はそう多くない。それこそ冒険者なり街で見かける魔族なら、殆ど知らないと言っても良い。それくらい魔族との戦いと言うのは古い記憶なんだ」
「そうなんですね…ではレンさんは何故ここまで知っているのですか?」
この質問はまあ、想定内か。
「私みたいに国や貴族から指名依頼を受ける上位冒険者には、時と場合によっては必要だからという理由で歴史を学ぶ義務が発生するんだ。この教育の面白いところは国家が指示しない限り受けられないという物でね。魔族側も同じだから今の時代、勇者の危険度を知っている人間の方が圧倒的に少ないんだよ」
「そうなんですね…」
まだ納得いっていないような表情をしているけれど、概ね聞きたいことは聞けたという雰囲気だ。どちらかと言うと悩むよりも先に身の振り方を考えるべきだと思うのだけど、それは余計な世話が過ぎるか。
「あ、そう言えばレンさん!魔王っているんですか?」
「あ、俺も気になります!」
千佳との会話が終わるまで待ってから、剛が魔王について聞いてきた。隆も随分と気になっているようで身を乗り出している。
「魔王はいるよ。五人」
「五人も!?」
「魔族の国の王様だからね。魔族だからと言って一つの国だけで済むわけは無いから」
「魔族の国って、人間はいないんですか?」
「いるよ。魔族の国っていうのは『魔族が中心になっている国』だからね。日本で例えるなら日本人が魔族、在日外国人が人族って感じかな」
「ああ、成程」
当然全ての魔王と仲が良いわけでもないけれど、そもそも仲が良くない魔王の膝元まで足を運ぶことなど上級冒険者でもそうあることじゃない。中級以下なら猶の事。もし冒険者になるのであれば、その時に教えるくらいで丁度いいだろう。
何となくだけど冒険者に夢を持っていそうだし、冒険者になると言い出す気がする。そんな予感を感じながら、この日の講義は終了した。




