教育方針②
「勇者について?」
「あくまでこちらから戦えと指示することは無いとユウヤも伝えているけどね、そうじゃ無くてどれくらいの自由が保障されるのかっていうのが気になるみたい」
「なるほど…」
勇者の称号は厄介だ。とはいえ飼い殺しにするようなつもりは一切ない。だからと言って完全にフリーにするわけにもいかないのだから、国としてのさじ加減が難しいだろうとは思っている。
「我が国としては常識を守って活躍してくれるのなら冒険者になってくれても良いのですけどね」
「その常識には『勇者の拠点が王国』であることも含まれるだろう?」
「当然です。数日王国を離れる程度なら問題ありませんが、主たる拠点は王国ではないと冒険者など許可できませんよ」
まあごもっともである。依頼の性質上、どうしても数日野営だとか近場の町の宿に泊まるなんてことは目を瞑れても、他国に拠点を移すとなると色々話が変わる。特に軍事力拡大に精力的な皇国にでも移られれば確実に勇者を軍事利用することは目に見えている。
「そのあたりの情勢も、家庭教師として指導をお願いしますよ」
「それは勿論。同郷の彼らと争いたくはないからね」
概ね勇者の取り扱いについては理解できた。保護を謳っている以上彼らが望めば望んだ職に就くことも目を瞑るが、あくまで国の管理下にある状態で無いといけないということだ。想定内の事実ではあるけれど確認しておいて良かったと思う。
「じゃあ明日は勇者について、常識云々は明後日以降にゆっくり教えていくことにするよ」
「手間をかけます。よろしくお願いしますね」
相談事と確認事が終わったため、執務室を出る。先程と同じく扉の前で待っていたメイドに帰ることを伝え、王城の門まで案内を頼む。ぶっちゃけ一人でも行き来は出来るのだけど、部外者である私が自由にしすぎると安全面や管理面での瑕疵になる。後で問題になったり文句を言われるくらいなら最初から案内係がついていた方が余程マシと言える。
「それではこちらで失礼します」
「こちらこそ。明日からもよろしくお願いします」
丁度門まで着き、メイドは深く礼を取った。何となくこの依頼に関しての案内係は彼女が専属になりそうだと感じた私は、明日以降も出迎えにやってくるだろう彼女に対して言葉を返す。
空を見上げればオレンジ色に染まりつつある光景が目に移り、意外とミラの所に長居をしていたのだと察する。
こうして短いようで長かった家庭教師初日が終了した。