王宮教師③
私に声をかけてきた剛は、少々思い悩んでいるような表情をしていた。
「どうした?何か分かりにくかったかな?」
「いえ…あの、僕たち、これからどうなるかってご存じかと」
ふむ。ユウヤが魔族と戦えとは言わないと言った上でこうして教育のために時間を作っているのだから悪いようにはしないと行動で示しているつもりだったのだけど、まだ高校生らしき彼らには言葉足らずが過ぎたか。
「国王陛下が最終的にどんな判断を降されるかは私にも分からないけれど、全く自由の無い生活にはならないと思うよ」
「それは多少の不自由はある…ということでしょうか」
「どんな環境であれ不自由は有る物だけれど…そうだね、じゃあ明日の講義は君たちについている勇者の称号のことについてにしようか。君たちがどういう存在か自認してもらうことが一番手っ取り早く理解できると思うよ」
ユウヤのことだ。出来る限りの自由は保障するだろうけれど、だからと言って完全にフリーにしていいかと言われると答えは否だ。それくらいこのドゥエモンディにとっての勇者というのは扱いが難しい。各国と不戦条約を結んでいるドラグニル王国と言えども、それには細心の注意を払わなければならない。三人ともが勇者である以上猶の事。
「心配しなくても良いと言っても説得力は無いだろうけれど、この国の上層部は君たちを引き離すようなことが起こらないように努力してる。ゆっくりでいいから信用してやってほしいな」
「はい…有難うございます」
…これは念のためにユウヤかミラに報告を挙げておくべきだろう。先走って面倒を起こされると庇いたくても庇えない。
唐突にこの世界に落とされた者同士、不安な気持ちは理解できるけど私の場合は落ち人では無く転生だ。前提条件が大きく異なる。生まれた頃から知っている場所かそうでないかで不安な気持ちは大きく異なってくるだろう。
「じゃあ、また明日」
「はい、よろしくお願いします」
簡単に挨拶を済ませて応接間を出る。扉のすぐそこに控えていたメイドに出来るだけ早急にユウヤかミラに会いたい旨を伝え、どちらかの準備が整うまで別の応接間に通される。待っている間にと用意された紅茶を飲みながら、さてどう説明したものかと頭を回転させた。
「レン様、お待たせいたしました。宰相閣下がお会いする用意が出来たとのことです」
「有難うございます」
突然の話だったから最悪今日は難しいかもしれないと思っていたけれど、ミラが何とか時間を作ってくれたらしい。ミラに伝えれば遅くても明日の午前中までにはユウヤにも話は伝わるだろう。その後のことは国に任せればいい。
そう気持ちを整えて、ミラの待つ執務室への案内をメイドに頼む。一つ礼を取ってからメイドは静かに歩き出した。