幕開け
桜庭 蓮。享年三十歳。過労死。それが私の知る『私』の最期である。
良くあるブラック会社に勤め、よくある過重労働を強いられ、よくある体調不良を起こし、誰に連絡することも出来ずに意識が落ちた。
その後目が覚めた時に目に移ったのは煌びやかなお屋敷の一室…なんてことはなく、周囲と同じような小さな家。眠るときなどは家族全員が同じ部屋で雑魚寝するような貧しい村で五つになるまで育っていた。
記憶にある今までの私は、特に我儘を言うでもなく、所謂聞き分けのいい子だったらしい。正直突然五歳児の体に意識が潜ったような感覚だから他人事なのは勘弁願いたいと、誰に言うでもなく言い訳をしてみる。とはいえ記憶は有るのだから今まで通り振舞うことは簡単である。
そんな訳で『ドゥエモンディ』という世界に転生?した先での生活にも慣れ親しんできた十五歳。私は村にある魔道具により無属性魔法…ユニーク魔法の適性が有ることが分かった。他の属性の魔法が使えないわけでは無いが、一番得意になるのはユニーク魔法であるとのことだ。
その特性から、私は冒険者になることを決意した。正直他にも選べる仕事は有ったけれど、一番手続きなどで手間がかからないのが冒険者だったわけだ。というよりも他の職を選ぼうと思うとどうしても学校や学園に通う必要があり、そんな金銭的な余裕は一切ないというのが実情だ。今世の両親は何とか工面すると言ってくれていたが、丁重に断って一番近い街にある冒険者ギルドで冒険者登録を行った。
低級冒険者からスタートして上級冒険者にクラスアップするまでに、特段時間はかからなかった。元々クラスが上がりやすいユニーク魔法だったというのもある。五年という僅かな期間で低級から上級まで上がった私は、一般的に優秀な魔法戦闘士であると箔を押されたようなものだった。
上級冒険者でしか受けられない依頼や、上級冒険者だからこそ来る指名依頼なども満遍なく熟し、一定の信用を勝ち取った頃、森の生態調査の依頼を受けたことから私の人生は変わっていく。
私、桜庭 蓮…レン・ブロッサムの第二の人生が改めて始まった瞬間である。